2011年3月 4日(金)

現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること 公開セッション『日本、現代美術の可能性』(2)

「体を張って、作品づくりに取り組んでいる」というアーティストたち。3館のキュレーター(東京オペラシティ アートギャラリー チーフ・キュレーター 堀元彰さん、横浜美術館 学芸員 木村絵理子さん、森美術館 キュレーター 荒木夏実)が集結した今回の鼎談では、それぞれが担当するアーティストやその作品づくりに対しての思いが語られていきました。


高嶺格《Do what you want if you want as you want》2001年(2011年再制作)、横浜美術館展示風景 撮影:今井智己

荒木:横浜美術館で個展を開催中の高嶺格さんも、いろいろな形でポリティカルなことを扱っていると思いますし、他者と協同しながら、そこにはやはりハッピーなだけじゃなくて強烈な毒もあると思うのですが、木村さんはどう思いますか。

木村:高嶺さんは、あらゆるものに対して疑問を持っている人という印象で、そこが制作の出発点になっていると思います。それはグローバリズムだったり、在日韓国人の問題もそうですし、イスラエルの問題もそうですし。でも「傍観者になってはいけない」という思いが非常に強く、それぞれを自分の問題として考え、単に政治的な批判、批評性というようなものではないリアリティのある感覚に引きつけてくる。そこがおもしろいと思うのと同時に、コンセプチュアルとも言えるのですが、スペクタルな要素というものも大きくあって、そこは小谷元彦さんや曽根裕さんとも共通するところだと思います。「見ること」も非常に重要視している。そこはいわゆるコンセプチュアルアート、あるいはミニマルなものとは大きく一線を画しているのではないかと思います。

荒木:展覧会を拝見し、木村さんの解説を伺って、「ああ、なるほど」と思ったのですが、イスラエルとパレスチナの問題を扱ったビデオを見たときに、やはり彼がプレゼンテーションを変えたことがすごくおもしろいし、潔いというか非常に正直だなと思いました。展示に使われた高嶺さんのテキストも、単に「イスラエルとパレスチナで、こういう問題が起こっています」ということを伝える内容ではなく衝撃的でした。《Do what you want if you want as you want》では、アクティビストになった女性のことを、「このビデオに登場している女性は、僕の『友人』です。いや本当はそうではなかったかもしれない。...このあと、彼女は僕の『友人』ではなくなった。それは、僕が阿呆な相づちを打つことしかしなかったからです。」というテキストがあり、すごく衝撃的で、彼の正直なポリティカルな関わり方が伝わります。実際の映像を見ていると、興奮して話し続けているその女性の話は本当に悲惨な話ですが、確かにどうすることもできない、ただ、佇むしかできないという内容ですよね。

木村:そうですね。日本人の私たちにとって非常に共感できる作品だと思います。そういう事実があることはニュースで知っているし、そういうものに対する批判的な視線を持っている人はたくさんいると思うのですが、実際、何かをしている人はほとんどいないだろうと。そういう自分と高嶺さんの感情がオーバーラップしたときに、居心地の悪い共感を呼び起こすという意味で、強い作品だと思いますね。

実は高嶺さんは、あの作品をずっと「失敗作だ」とおっしゃっていて、それがずっと引っかかっていたようです。それもあって今回出品しようという話をしたときに、あのような形になりました。

荒木:曽根さんにしてもそうですし、高嶺さんも、それから小谷さんも本当にそうだなと思いますが、この時代にあって、コンセプチュアルではありますが、バーチャルではないですよね。いろいろな情報を入手し、体験を語ることはできるかもしれないけれども、それぞれが全然違うやり方で、ものすごく体を張っていますよね。ちょっと古臭いくらいオーソドックスというか、今どきではないやり方で、体を張ってビジュアルなものをつくっています。今の時代だからこそ、実はこういう泥臭い作業が必要ではないかと思うのですが、堀さんは曽根さんの様子を見ていて、いかがでしたか。

堀:彼にとってはバーチャルということはないだろうと思いますね。映像作品でも自分が出てきたり、実際、中国まで自分で行って作品をつくるとか、メキシコまで行ってつくるとか、自分が移動して現地でつくるということが、彼にとっては制作の中でひとつ大きなウエイトを占めていると思うのですね。

しかし高嶺さんは、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の出身の割にはバーチャルさが珍しくないというのは、どういうことなのでしょう。

木村:IAMASを卒業されていますけれど、実はパソコンプログラミングなどは、ご本人がやるわけではありません。作品の多くは、人との共同作業の中で生まれてきます。

今回の場合は、2010年の12月1日から横浜に滞在して、その場で制作をしていただきました。それまでの段階では、漠然としたコンセプトの部分での話し合いは続くのですが、全く具体的な形が個々には出てこない。その場に来て、そこで実際一緒に働く人たちとのコミュニケーションが始まって、ようやく形が生まれてくる。場と人とがそろわないと作品が生まれないっていうのは、言葉と作業を積んでいくというスタイルで作品が生まれることを実感しますね。

堀:「曽根裕展」もそうですね。あらかじめプランは決めてあったのですが、オープンであと数日というときになって、「カーテンの色が違うんじゃないか」、「展示台の高さは、もうちょっと低いほうがいいんじゃないか」とか。イメージや図面でも考えられるはずなのでしょうが、現場で実際に自分が身を置いてどう見るかを、すごく重要視する作家ですね。

荒木:そうですね。曽根さんは本当にユニークな作家で、今回堀さんやゲストキュレーターの遠藤水城さんが曽根さんとかなり入念に議論して準備されたのだと思いますが、こんな風に生身の作家と一緒に仕事をするというのも、やはり現代美術の特徴だと思います。
 

<関連リンク>

・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい

「曽根裕展 Perfect Moment」
 東京オペラシティ アートギャラリー
 会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)

「高嶺格:とおくてよくみえない」
 横浜美術館
 会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)

「小谷元彦展:幽体の知覚」
 会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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