2011年3月11日(金)

展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる 公開セッション「日本、現代美術の可能性」(5)

予算の少ない公立の美術館ならではの展覧会の企画、運営の難しさがあると語る横浜美術館の木村さん。東京オペラシティ アートギャラリー、横浜美術館、森美術館の3館キュレーター鼎談では、それぞれの美術館で、異なる展覧会開催上の難しさや工夫点なども話し合われました。


《Hollow: What rushes through every mind》 (detail) 2010, 森美術館「小谷元彦展:幽体の知覚」展示風景、Photo: Kioku Keizo

荒木:美術館は、何年に何展をやる、このときまでにチラシとカタログを作る、予算はいくらなど、システムやスケジュールで、どこもカッチリとした拘束、決まりがありますよね。その中で現代美術を扱っていくということには、さまざまなリスクがあります。しかし、チャレンジングで意義のあることでもあります。各館ではどのような位置づけ、あるいはどんな工夫をしながら現代美術をやっていらっしゃいますか。

木村:そうですね、横浜美術館は公立の美術館ですが、私は財団職員として、指定管理者制度のもとで、横浜市の施設としての美術館の管理を委託されているという立場です。市からの管理料は、基本的な施設運営のために支給されますが、展覧会の事業費をまかなえる程の余裕はなく、事業費はゼロの状態でスタートします。

荒木:それを聞いて、ものすごく驚きました。事業費ゼロというのは、相当過激なことですよね。

木村:日本の公立美術館の中で、指定管理者制度で運営されている美術館はたくさんありますが、この点では横浜は特異だと思います。そうすると、展覧会を作るためにはまずファンドレイズのことを考えなければいけない。大体3、4年前から企画案を立てて実現の可能性を探り始めることになるのですが、現代美術の展覧会の場合、巡回先を見つけることで経費を抑えるとか、助成金の申請をする、協賛企業を募る、メディアのタイアップなどを探すといったことが2年ぐらい続きます。それと同時に、集客の見込みのもとに支出額を決めて、ようやく予算が固まるのが1年前というような流れで、展覧会はつくられていきます。

最初は本当に博打みたいなものですよね、言ってみれば。それで直前になってくると、ひたすら電卓との戦いで、同時にアーティストやその他の関係者との交渉も続けるので、最後は本当にシビアですね。最近、カタログは一般書として出版社と組んで出版することが多いですが、それもやはり資金的なこともあります。ですが、アーティストにとっても美術館にとっても、出版社からきちんとした書籍としてカタログが出て、出版物が残っていくということも重要だと思っています。

荒木:横浜美術館では、例えば高嶺格さんの展覧会の前は「ドガ展」でしたし、よく印象派系の展覧会などもやっていらっしゃいますよね。そんな大勢動員する展覧会と、一方で高嶺さんや金氏徹平さんなどの展覧会まで開催するという豊かなバラエティが、絶妙なバランスにつながっていくのでしょうか。

木村:そうですね、公立の美術館、地方の公立の美術館では、まま、あることだとは思います。できるだけ幅広いジャンルの作品を見せていかなくてはいけない。横浜美術館の場合は、横浜が海外に向けて港を開いた150年前からを横浜の歴史ととらえて、19世紀後半から現代までの美術を紹介していくことを、美術館の基本コンセプトにしています。ですから、19世紀後半以降、印象派も含め、前衛的な芸術が、コレクションの中心になっています。そうした流れの先端にあるものとして、現代美術も取り上げています。

荒木:印象派も前衛ですね、そういう意味では。

木村:そうですね。

荒木:同じことというわけですね。

木村:そういう美術館のポリシーがあるので、私も企画を上げることができるわけです。横浜美術館では年間4本の展覧会をやっていて、日本の美術や日本画を中心とするものや、残念ながら、まだアジアのほうは手薄ですが、西洋の美術、さらに現代美術をバランスよく並べるのが、展覧会のスケジュールの組み方になっています。同時に集客数の見込みに応じた予算のバランスも取っていくことになります。

荒木:集客数は確かに大事なことですが、オペラシティはどうでしょうか。

堀:どうしても、集客数というのは判断の大きな材料になりますね。オペラシティも比較的、横浜美術館のように動員できる展覧会と、まあ動員はできなくても意義がある展覧会、意義がある現代美術展ということでやっていきたいのですが、結果としては、うまくそういったメリ張りがついていない、動員をねらってもなかなか思うようにいかない難しさはあります。
 

<関連リンク>

・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい

「曽根裕展 Perfect Moment」
 東京オペラシティ アートギャラリー
 会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)

「高嶺格:とおくてよくみえない」
 横浜美術館
 会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)

「小谷元彦展:幽体の知覚」
 会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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