2012年1月13日(金)

今、メタボリズムを考えることの意義 「メタボリストが語るメタボリズム」(6)

3月11日に東日本大震災を経験し、今さまざまな問題に日本は直面しています。半世紀前のメタボリズム運動は現代にも有効なのでしょうか―――本シンポジウムでは、現代の視点からメタボリズムが語られました。
[出演者:栄久庵憲司(インダストリアル・デザイナー)、神谷宏治(建築家)、菊竹清訓(建築家)、槇 文彦(建築家)モデレーター:内藤 廣(建築家)]


黒川紀章 《中銀カプセルタワービル》 部分 1972年
「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景、森美術館
撮影:渡邉 修

内藤:さて、建築界は時代ごとに変化していきますが、2001年にWTCの9.11が起きて、モダンとは何か、テクノロジーとは何か、世界とは何かという議論が生まれました。今、我々が当面しているのは東日本大震災による様々な問題です。歴史にはいくつかのフォーカスポイントがありますが、我々は紛れもなく、1960年の世界デザイン会議から50年を経てまた新たな、先ほど槇さんが提示された、政治と建築と都市とのフォーカスポイントに立っているように思います。今もう一度、半世紀前を思い返し、あのメタボリズム運動はどういうものであったのか、現代にも有効なのか、それとは全く違う時代が来ているのか、現代という視点から最後にご発言をいただきたいと思います。

神谷:私たちは旧ユーゴスラビア連邦マケドニアの首都スコピエの再建計画を手がけました。これも地震による震災復興のプロジェクトです。被災した地域の住民達は仮設の住宅に長い期間住みますが、きちんとした都市計画がまとまった時点で、順次、住居部分を計画的に建設していき、そのあと彼らは入居していきました。日本の場合は、焼け跡の次の日から鎚の音がして、バラックが建ち、たちまち町は仮設住宅で埋まっていきます。何年かすると建て変わって少しレベルの高いものになる。さらに何年かするともう一つレベルの高い建築になっていく、そのようなショートサイクルを繰り返しながら、町が再建されていくのです。それはメタボリズムの考え方とは違います。誤解を与えないようにあえて言いますが、例えばメタボリズム当時に唱えられたメイン・ストラクチャーとサブ・ストラクチャーという概念は、今持続可能な建築モデルとして、ストラクチャーとインフィルという概念で受け継がれようとしている。今後、しっかり受け継いで貰いたいというのが私の感想です。


丹下健三チーム《スコピエ都心部再建計画》1965-1966年
「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景、森美術館
撮影:渡邉 修


丹下健三チーム《スコピエ都心部再建計画》1965-1966年
「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景、森美術館
撮影:渡邉 修

内藤:ありがとうございます。槇さん、お願いします。

槇:今回のメタボリズム展の中には、完成した建物の模型なども展示されているのですが、その他に、あの頃、無償の行為が非常に多かったですね。誰に頼まれたわけでもない。お金をもらったわけでもない。しかし自分でこういうものをやろうじゃないかというものがずいぶん見られるわけです。例えば黒川さんの提案には非常にそういうものが多かったし、彼の都市型の農村住居は、四角いコンパクトなコミュニティの提案で、今回の震災と重ね合わせた時、全く無償の行為としてすでに現れていたことを改めて感慨深く見つめ直すことができる。これはこの展覧会の一つの成果ではないかと僕自身は考えています。


黒川紀章《 農村都市計画 》(実現せず) 1960年

もう一つ非常に偶然的ではあったんですが、《電気的迷宮》(1968年)という磯崎新さんの、写真のようなプロポーザルが展示されています。3月11日の大地震の後、福島の原発が爆発しましたよね。彼は、広島の焼け跡の上に新しい鉄骨の建物を提案しているんですが、その鉄骨がですね、まさしく原子炉の残骸と非常に似ている。あの時の姿とそっくりなんですね。ある黙示録的なものがあったという感じがいたします。


「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景 森美術館
撮影:渡邉 修

内藤:栄久庵さん、お願いします。

栄久庵:今、問題になっているのは東北の震災ですね。私はこの問題は、どう都市問題を処理し、実験していくかを検討するメタボリズムのいい課題ではないかと思います。都市論やふるさと論など、さまざまな地域の提案が出てきておりますが、未だに方向性が決まらない。予算がおりたばかりだそうですが、震災を題材にメタボリズムを進展させることはできないだろうかと思います。日本の6分の1が破壊されましたから、これは世界の大事件でもあります。その意味ではまさにグローバルなテーマでもあるし、まさにメタボリズム自身を実態の中でどう生かしていくかという課題を与えられたと思っています。
 

<関連リンク>

・シンポジウム第1回「メタボリストが語るメタボリズム」
第1回 1960年前後、日本建築会の風景
第2回 そして迎えた1960年
第3回 それは廃墟のイメージから始まった
第4回 「世界デザイン会議」とメタボリズム
第5回 メタボリズムと時代精神
第6回 今、メタボリズムを考えることの意義
第7回 丹下健三とメタボリズム

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

一分でわかるメタボリズム

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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