2017年1月26日(木)

森美術館×日本フィルハーモニー交響楽団
コラボレーションによる音楽ワークショップを開催!
“音の銀河系”をイメージした即興音楽で会場が満たされました

2016年11月22日、森美術館×日本フィルハーモニー交響楽団のコラボレーションによる音楽ワークショップシリーズ「EYES & EARS」の第1弾、「宙(そら)・時+音Space-Time and Sound」を開催しました。

閉館後の静かな「宇宙と芸術展」の展示室内。数々の楽器が置かれた会場に参加者たちが集まってきました。この音楽ワークショップでは、日本フィルハーモニー交響楽団からマイケル・スペンサー氏を講師に迎え、同楽団員のファシリテーターと共に、「宇宙と芸術展」をディスカッションしながら鑑賞し、出展作品から得たインスピレーションを元に、実際の楽器で音楽を作り上げました。展覧会を別の視点から捉え、鑑賞を通して感じたこと、考えたことを「音楽」で表現するというユニークなワークショップの様子をご紹介します。

■想像力を刺激するミニレクチャーから始まったワークショップ

ワークショップの冒頭、マイケル・スペンサー氏がワークショップの目的やコンセプトについてミニレクチャーをしました。スペンサー氏は、米国のエミリー・ディキンソンの詩『The Brain is wider than the Sky~(No.632, 1862年)』をスクリーンに映し、人間の「知的好奇心と想像力」の重要性について語ることから始めました。「芸術は人間の好奇心や夢がなければ生まれなかった」ということや、古代の宇宙観から20世紀に目覚ましい進歩を遂げた宇宙研究の歩みを、ガリレオ望遠鏡や電波望遠鏡などの資料を用いて紹介。また、「宇宙に音はあるのか?」という問いかけと共に、宇宙に存在する磁力波をデータ変換した「音」をスピーカーで聞かせてくれました。参加者は熱心に聞きながら、思い思いに宇宙のイメージを膨らませている様子でした。

今回のワークショップは、2016年12月の定期演奏会で演奏された湯浅譲二氏の楽曲《始源への眼差Ⅲ》への理解に繋げていくこともねらいの一つでした。作曲家、湯浅譲二氏(1929-)(※1)は、「私はそもそも音楽は作曲者のコスモロジー、広義の世界観の換喩、あるいはそれを反映するものとしてあると思っている」と作曲のコンセプトとしてのコスモロジーを語っています。スペンサー氏は、「音楽の世界においても宇宙は壮大なテーマであり、アートと音楽の繋がりを共に探ろう」と参加者に語りかけました。


講師のマイケル・スペンサー氏(日本フィルハーモニー交響楽団コミュニケーション・ディレクター)

■ワークショップのミッションは展示作品から音楽を創ること

スペンサー氏は、「今回のワークショップでは、時間・空間・四次元の世界を掘り下げたい」と語り、ミッションを伝えました。それは、「6つの惑星(チーム)に分かれ、この空間で、“音の銀河系”を作る」というもの。6チームの参加者たちが、出展作品の中から選ばれた各1点の課題作品についてディスカッションし、作品の印象や考えを「音」に変換し、実際に楽器で音楽を創るのです。

■チームでの鑑賞から全員演奏へ

ミッションが伝えられたあと、参加者はチームごとに展覧会を見に行き、自分たちの課題作品を見つけると、作品前でさまざまな角度から意見を交わしました。そして、会場に戻ると円座を組んで、作品の第一印象や考えをさらにディスカッション。どのチームも直感的な印象や気づきに始まり、そこから発展させた考えを共有し、背景のストーリーなどを、想像力を駆使して話し合う姿が印象的でした。さらに、作品のイメージや考えを、どの楽器で、どういう「音」に変換していくか、白熱した議論と試行錯誤が続いていきました。


課題作品の一つ、《エキピロティック ストリングⅡ》(森万里子、2014年)の前で語り合う参加者たち


《ブラックホール (M-領域)》(ビョーン・ダーレム、2016年)を鑑賞した後のディスカッション。「光」「浮遊感」「収束なのか発散なのか」「裏返ったブラックホール」など、それぞれのイメージが飛び交う。


《隕石》を鑑賞したチームのボードには、「引力」「燃え尽きた静寂」やビッグバン(太鼓)、木琴ポコポコ、ゴーゴー燃えるといった音のイメージも。


《竜安寺石庭ベクトル構造》(北脇昇、1941年)担当チームは絵の視点の不思議さに着目して議論が白熱。「無限」「輪廻」「規則性」「中心や軸がない」「対称でない美しさ」などの言葉があふれた。


《ニール・アームストロングの月面の足跡》(1969年)担当チーム。世界一有名なこの足跡は今も残っているのか?「砂絵」「静寂」「孤独」「永久」...。話し合った後、月面着陸のストーリーをも音に表現。


左:《ECHOES》(前田征紀、2011年)では、軌道・時間についても考えました。
右:《エキピロティック ストリングⅡ》(森万里子、2014年)の音を探り合う。

最後には、全員で演奏を行いました。「6つの惑星が互いの関係を意識し、「間」を読んで合わせていくこと、ブラックホール(暗黒をイメージした無音の時間)を2回作ること」というルールのもと、各チームがオリジナルの音楽を奏で、呼吸を合わせながら繰り返し、会場全体が一つの輪になるような、“銀河系の音楽”が披露されました。終了後、参加者からは、「分からないことだらけの宇宙を、音楽と同じように“楽しむ”経験ができました」「作品を通して宇宙を感じ、音楽にできたことがミラクルだと思いました」などのコメントがありました。


6チームによる即興演奏。6つの惑星が奏でる「音の銀河系」となったか?

★課題となった出展作品とこのワークショップにおけるキーワード

北脇昇《竜安寺石庭ベクトル構造》
間、時空連続体
ビョーン・ダーレム《ブラックホール(M-領域)》
ブラックホール、重力波
森万里子《エキピロティック ストリングⅡ》
Superstring theory超弦理論(超ひも理論)、無限大、メビウスの輪
前田征紀《ECHOES》
ニュートン:運動の法則、ケプラー:楕円軌道の法則
《隕石》
万有引力の法則、タイム・カプセル
《ニール・アームストロングの月面の足跡》
エントロピー、時間の矢

■音楽ワークショップについて

大人向けの音楽ワークショップは、「シンプルなかたち展」(2015年)で初めて行いました。同展のワークショップでは作品の素材感やフォルムに注目し、展示作品の仙崖《円相図》に表現される「無・空虚・間」といった日本的感覚が意識されました。プロセスを通して参加者が知らず知らずのうちに日本の現代音楽の世界に心地よく招かれるようなワークショップでした。2回目となる今回もスペンサー氏の本展への深い理解に裏付けされた、知的で遊び心のある仕掛けが豊富でした。例えば、不穏な雰囲気を醸し出す「全音音階」の音を使用すること。発表のルールにも、実は湯浅氏の作曲法の要素が取り入れられていたのです。

美術館での音楽ワークショップはとても意欲的な取り組みです。まず、これは美術鑑賞とは何なのかを考える実験だと言ってもいいでしょう。鑑賞とは、専門家の解説を聞いて、「そうなのか」と結論づけるだけの単純なものでしょうか。恐らくそうではありません。作品を見たあと次にその人が何を連想したり、考えたり、行動したりするかがその人に生じてくるアートの意味ではないでしょうか。作品の印象などを言葉にして共有することも大切で、対話を取り入れたプログラムを当館では日頃から実践していますが、このワークショップでは一番便利な「言葉」ではなく、あえてつかみどころのない「音」を使って、人や作品との新しい関係性を見出そうとしています。

このシリーズのワークショップは展覧会を題材としながら、異分野である現代音楽の理解へ繋がるアプローチであることも特徴的でしょう。「アートへの学び(Education to Art)」と「アートを通した学び(Education through Art)」という言葉をご存じでしょうか。英国の詩人、文芸批評家、美術批評家であったハーバード・リードの言葉で、アートを通して得られる幅広い学びを象徴する考え方として知られています。今後、森美術館ではより現代的な視点で新しいラーニング・プログラムに挑戦し、参加者と共に考えたり、視点を変えたり、思考を広げたりしていけたらと考えています。ワークショップは、「EYES & EARS」シリーズとして、2017年以降も継続的に開催していく予定です。ぜひ、今後の企画にもご期待ください。


(敬称略)左から:佐藤駿一郎(ヴァイオリン奏者)、大澤哲弥(チェロ奏者)、鈴村優介(コントラバス奏者)、伊波睦(トロンボーン奏者)、マイケル・スペンサー、白濱恵里子、江原望(チェロ奏者)、中川裕美子(ヴィオラ奏者)、花田和加子(通訳担当)

文:白濱恵里子(森美術館エデュケーター)
撮影:御厨慎一郎

(※1)本プログラムは、日本フィルハーモニー交響楽団第686回東京定期演奏会<秋季>[2016年12月9日(金)、10日(土)開催]との連携企画として開催しました。同演奏会で湯浅譲二《始源への眼差Ⅲ》も演奏されました。
 

<関連リンク>

宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月)
2015年「シンプルなかたち」展 音楽ワークショップ
2011年「フレンチ・ウィンドウ展」 音楽ワークショップ

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