山城大督
《トーキング・ライツ》
2016年
ミクスト・メディア
インスタレーション
14分
Courtesy: IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年
撮影:永禮 賢

山城大督

Artist's Voice

~制作メモより~

子どもが生まれてほんとうに間もない頃、まだ自我も持たない彼を「カメラのようだな」と思った日がある。自分では動く事もできず、話す事もできず、思うように手を握る事もできない、自分が「自分」の中にある事にも気付かず存在だけしている。そんな彼を抱き上げ、光を見させたり、母を見させたり、椅子を「椅子」だと説明したり、冷たい氷を触ったり…。そんな行為が、「モノ」にレンズを向け、光を露光させるカメラと似ていると思ったのだ。そのうち、彼は鏡を「鏡」と認識し、鏡に映る存在を「自分」だと気付き始めた、目の前にある手は「手」で、力を入れると自由に動き、足は「足」、よく自分のそばにいるのは「ママ」、自分が「自分」の中にいる事に気が付き始めた。ラカンの「鏡像段階」とは、まさにこの時期のことなんだ!と感動し、人間にとって認知がどう始まり、意味を覚え、記号と視覚が紐付けされる瞬間を、子どもを通して追体験した。この追体験は、僕にとって人間の認知について考え、「映像」を再考する時間となった。

その体験を元にして制作した作品が《VIDERE DECK / イデア・デッキ》(2013)と、《HUMAN EMOTIONS / ヒューマン・エモーション》(2015)で、新作《TALKING LIGHTS / トーキング・ライツ》は、この二作を踏まえた三作目と位置付けている。

テーマは、「感情」ではなく、「感情移入」だ。他者=自分と感じる事ができる想像力を源に創造される心的活動。本作では、モノを擬人化させ、登場人物の一員となることを想定している。それら「モノで出来たかりそめの登場人物」たちが意思を持ち、対話を始める。単なるモノだけでは感情が揺さぶらされなかったはずが、動きを伴うことによりモノは擬人化され、鑑賞者はシンパシーを感じ、悲しみや寂しさ喜びが生み出される。
感情はどこに生まれるのだろう。その感情を誰かに正確に伝えたり移したりする事はできるのか。だれかの痛みや喜びを想像し感情移入する、その感情は「自分」の感情なのか。モノという「感情の存在しないはずの対象」への「感情移入」は可能なのか。

東日本大震災以降の僕たちの「生活」について思いを馳せ、結晶化したのが、本作《TALKING LIGHTS / トーキング・ライツ》だ。

鑑賞者は作品を通して、感情移入し、その感情移入を客観視し、「他者を思うこと」を再考する事となる。

新作のためのラフスケッチ(2015年7月)

《VIDERE DECK / イデア・デッキ》 2013年


Artist's Topic

長野県諏訪湖にある万治の石仏。六本木クロッシングで制作する新作には、この石仏からのインスピレーションも受けた。擬人化/感情移入というテーマにたどり着いたきっかけの一つです。

展覧会制作風景。前作《HUMAN EMOTIONS / ヒューマン・エモーションズ》では、息子から大きな影響を受けた制作となりました。


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“Roppongi Crossing 2016” Promotion Video