2010年9月 8日(水)

科学と迷信の狭間で、人が信じていた叡智を集める~デヴィッド・ウィルソン×篠田太郎対談


対談での篠田太郎さん

ロサンジェルスにあるジュラシック・テクノロジー博物館は、神奇な世界観が詰まった類まれなる収蔵品で知られています。この博物館の創設者であり、館長を務めるのが今回出演のデヴィッド・ウィルソンさんです。「ネイチャー・センス展」の出展作家である篠田太郎さんは、2005年にロサンジェルスに滞在した時からの友人で、今回この対談が実現することになりました。


ジュラシック・テクノロジー博物館

ジュラシック・テクノロジー博物館の薄暗い展示室に陳列してあるものは、実に不思議なものばかり。顕微鏡でしか見られないほど小さく切った蝶の羽のコラージュ、神話を再現したジオラマ、針穴に入ったローマ法王のヨハネ・パウロ2世の彫刻、パンにのせた2匹のねずみのミイラ・・・。「この博物館の展示物は、人類学、人文科学、歴史学、芸術、科学技術など種々の学問分野にわたっています。理屈では理解できない現象と科学が融合しているところがこの博物館の始まりでもあります。《パンにのせたねずみ》は、昔エジプトでおねしょに効くと言われていました。私は科学と迷信の狭間で、人が信じていた叡智を集めて展示したいのです。」とデヴィッド・ウィルソンさんは語ります。


《パンにのせたねずみ》(篠田さんが撮影しました)

篠田さんが投げかけた「知性とは何か。知性とはこの世界を破壊する事なく環境の力を利用する力である。」という本からの引用をきっかけに、二人の話は盛り上がります。常に自然と人間の関係を考えながら作品に向き合うという篠田さんは、人間は自然の一部であり、この二つを切り離して考えるべきではないと言います。二人の会話からは、「知性と理性による認識を重んじた啓蒙主義に現在行き詰まりを感じている」、「今までとは異なる次世代文明の出発点になりうる物事の見方を模索すべきである」、「これからは人間と自然との境界線を取り壊すことが必要ではないか」、という共通した自然観と世界観を垣間見ることができました。


ウィルソン館長

二元論的立場をとる欧米社会の中で、ウィルソン館長の展示には東洋的とも言える一元論的見方が備わっていると篠田さんは言います。真実と噂、迷信と科学とがない交ぜになったような展示作品は、現代社会がこれまでに捨て去ってきた森羅万象の捉え方を思い出させてくれます。それは、「人間のこれからの行動を考え直すことに繋がっていくのではないだろうか」、とウィルソン館長はいいます。「何が正解か、ということよりも、このように多種多様な価値観を人々が議論していくことが大事なのです」。

主に16世紀から20世紀にわたる過去の遺物を展示しているジュラシック・テクノロジー博物館ですが、新しい視点を観客に提示するという点で、篠田さんの作品との共通点が見いだせます。それはまさしく、現代アートがあらゆる凝り固まった観念に別の見方を提示し、確実性に「果たしてそれは本当なのだろうか」という疑いの目を向けることと一致していると感じます。

<関連リンク>
「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
 日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」

 会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

カテゴリー:03.活動レポート
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