2010年10月19日(火)

制作はドキドキの連続 ~栗林隆さんと片岡真実が対談~「ネイチャー・センス展」制作の舞台裏 in MAMCナイト

アーティストの栗林隆さんとチーフ・キュレーターの片岡真実が、MAMCナイトで制作の舞台裏をスライドトークで披露しました。「背中がゾクゾクするような思いを何度もした」と言う片岡は、栗林さんのアトリエがある逗子まで行って『どこまでできてるの?』と、プレッシャーをかけたこともあるそうです。どれほど大変な制作だったのでしょうか――。


ゲストの栗林さんと片岡が展示設営での苦労話を披露

栗林:《ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)》は紙でできていますが、木は本物の唐松の型を取って作ったものなんです。「木の存在をピックアップする」という狙いもあったので、山形に行って立ち枯れていた木を2本、根っこから採らせてもらいました。型は山の中でシリコンを流して取るつもりだったのですが、まだ雪が残る寒い時期でシリコンが固まりませんでした。「ここでやってたんじゃ(会期に)絶対間に合わない!」と思い、逗子のアトリエでやることにしました。が、そこでもまた問題が......。

紙の木づくりは徳島にあるアワガミファクトリーという紙屋さんにご協力いただいたのですが、シリコンの型を逗子から徳島まで送るとなると、大きいのでものすごい値段になる、しかも壊れてしまう(!)ということがわかったんです。結局「だったら徳島に木を持って行くしかない」ということになりました。

片岡:どうすれば紙で大きな木を100本近く作れるかも悩みましたよね。そのときスーパーで目に入ったのがタマゴの紙パック。「これなんかいいんじゃない?」ということで、早速メーカーを尋ねて検討したのですが、金型だけで「30万円ぐらいかかりますけどいいですか?」と言われてしょげました(笑)。

そのとき助けてくださったのが、アワガミファクトリーさんなんです。藤森さんという方がやっていらっしゃる会社と和紙の工房ですが、アーティストをしばしば支援して下さっていて、これまでにも様々なアーティストとコラボレーションされています。今回も木と地面のパーツをどうつなげるかとか、どう組み合わせるかとか、すべての制作プロセスを一緒に考えてくださいました。


写真撮影もOKなのでパチリと撮影するメンバーも

栗林:最初に「紙で唐松の木を作りたいんです」と話してから行ったんですけど、行ってみたら、すでに試作品ができていて。

片岡:それだけ藤森さんは、やる気になってくれていたということですよね。

栗林:木が全部できて藤森さんと飲んだとき、「どうして引き受けてくれたんですか?」って聞いてみたんです。そしたら「最初にドローイングを見たとき、これはどこの紙屋もやらないだろうと思って。だから受けたんだよ」って言ってくれたんです。ほかがやらないならうちがやるって。本当に感動しました。

片岡:実際にどうやって木を作ったのかというと、石こうの型に漉いた和紙を薄く敷いて、そこにパルプを流し込む。その上から再び和紙を敷いて乾かす。その繰り返しですよね。

栗林:その作業を70歳になる女性の職人さんがやってくれました。ほぼ彼女が作ったといってもいいぐらいで、「先生、わたし、これぜ~んぶやったら、十年ぐらい寿命が縮まりますぅ~」っておっしゃっていました(笑)。そうして半分ずつできたものをくっつけて、中が空洞の筒状のものを作るんです。それを何本もつなげて1本の木にしました。

出来上がったものをアワガミファクトリーさんの倉庫をお借りして、美術館と同じように高い天井からぶら下げてみました。このとき、僕は確信したんです「絶対できる、イケる」って。それで片岡さんに「いい感じですよ」と報告しました。


栗林隆の《ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)》を腰をかがめながらお散歩

片岡:私が「どう?ちゃんとできてるの?」とプレッシャーをかけていたので(笑)。逐一「こんな感じです」と、途中経過の写真が送られてきました。

このテストのときに登場したのが、武藤さんという、その後「林の隊長」として全体を仕切ってくれることになった方ですよね。聞くところによると、武藤さんは徳島に家族で旅行に来ていたときに電話が鳴って、「ちょっときてくれない?」と栗林さんに言われ、気づいたらいつの間にか働いていたそうで(笑)。

栗林:まあ、ほぼそれに近い形ですね(笑)。

片岡:栗林さんには本当に100万人ぐらい友達がいてですね、困ったときにいろんな特技をもった有能な人が、諦めたり見捨てたりしないで最後まで手伝ってくれるんです。友情にも救われた作品でしたね。栗林さんも完成してホッとしたと思いますが、思い返してみていかがですか?

栗林:長い旅みたいな感じでした。最初に山形で木を採って、徳島で和紙の木を作り、最後に美術館で展示をしながら仕上げてオープニングを迎えた。ああ、これで終わりか......と思いきや、オープン後は子どもたちが喜んで、穴から顔を出して手を伸ばしちゃうので、ビリビリ紙が破れちゃうんです(笑)。実はきょうも助っ人の学生さんに補修してもらっています。片岡さんは始まるまでが心配だったようですが、僕は逆に、始まってからのほうが心配でしょうがないところもあります(笑)。
 

《次回 第2回 二度と同じものは作れない。そこに意味がある「ネイチャー・センス展」制作の舞台裏 in MAMCナイト(2) へ続く》
 

<関連リンク>
「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆 日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」
会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

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カテゴリー:03.活動レポート
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