2011年5月26日(木)

「フレンチ・ウィンドウ展」 スペシャルこどもツアー 「教えて館長さん!現代アートってなあに?」 レポート

アートは他人と同じじゃないほうが面白いんだよ。学校でそういう教科はあんまりないでしょう?」。こどもたちを出迎えたのは、館長の南條史生。優しい笑顔にみんなの緊張も和らぎます。5月5日、「フレンチ・ウィンドウ展」の「スペシャルこどもツアー」が行われました。本展は、現代アートの父と呼ばれるマルセル・デュシャンの作品をはじめフランス現代アートに出合える貴重な機会。とはいえ「現代アートってなあに?」、そんなことを聞かれたら大人も返事に戸惑ってしまうのではないでしょうか。そこで今回は"スペシャル版"として、長年アートを見続けてきた館長の南條が、こどもたちからの質問に答えました。


「どんな作品に出合えるのかな?」ワクワクしているこどもたちと館長の南條
撮影:御厨慎一郎

こどもたちは、最初にマルセル・デュシャンのお話を聞きました。あるとき絵画を描くのをやめ、既製品などを用いて新たな概念を提示したデュシャンは、"頭の中で考えたこと=アイデア"を「これもアートだ」と公言した初めての人。スタッフが用意した白黒写真の中のデュシャンは、柔和な表情で、彼の代表作の一つである《泉》の脇に立っています。次に見たのは、大きく引き伸ばされたリチャード・マットやローズ・セラヴィのサイン。デュシャンは誰でも入手できる日用品を用い、時には偽名で発表するなどして、美術が美しく技巧に富んだ1点ものであるという常識に一石を投じました。最後に誰かの口元に髭が落書きされている部分写真を見て、一体誰の顔なのか、これも作品なのか、謎は深まるばかり...。

展示室に入り作品を見ていくと、すぐにその口髭の作品を発見。《モナリザ》に髭を描くなんて!「これもデュシャンさんの仕業?」と、いたずらゴコロいっぱいの作品にこどもたちは興味津々。好奇心に火がついたところでデュシャン賞作家たちの展示室へと進みます。


フランスの現代アートは、こどもたちの眼にどんな風に映っているのかな?
ブリュノ・ペナド 《無題、大きな一つの世界》 2000年
ポワトゥ=シャラント地域現代芸術振興基金蔵、フランス
撮影:御厨慎一郎
©ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011

こどもたちは、ミシュランマンのポーズを真似しながらも肌の色の違いについて考えたり、鍵で動かせなくなっている自転車がどうしてなのか想像したり、ゆがんで映る鏡や、人が宙に浮いたり水上を歩くびっくりするような写真に釘付けになったり......。いくつもの鍵がつけられた岩の作品を前にリーダーは「何に鍵をかける?大事なものは何?」と問いかけ、こどもたちの考えを引き出していきます。すると自転車、家、0点のテスト(人に見られないため)、命、心臓......などいろんな意見が飛び出しました。心臓に鍵??と笑い合うこどもたち。開けたら虫や恐ろしいものが出てくる、鍵には意味がなくずらして開けられる、中には何もないなど次から次へと想像は広がってディスカッションは絶えません。


作品に対するこどもたちの想像力は無限に広がっていきます
タチアナ・トゥルベ 《岩》 2007年
ジネット・ムーラン/ギヨーム・ウゼ氏蔵、パリ
撮影:御厨慎一郎
©ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011

ツアーの終わりに、館長の南條への質問コーナーが始まりました。

「なぜフランスからアートを持ってきたのですか?」「《どくろ》はどうやって展示したのですか?」「飴でできた作品はどんな味がしますか?賞味期限は?」「コレクターさんのお部屋はどうしてあんなにきれいなんですか?」こどもたちからのユニークな質問に、時には「どうしてそう思ったの?」と返しながら館長は答えていきます。鍵がつけられたあの不思議な岩への質問には、「きみたちが考えたこと全部が本当だよ。答えはみんなの頭の中にあるんだ」と館長。

質問コーナーの最後では、館長からもみんなに質問です。「この中で美術が好きな人は?」たくさん手があがりましたが理科や算数も好きなこどもたちもいました。「美術だけではなくたくさんのことに興味を持ってほしい。アーティストは自然や社会や世界にある様々なことをアートを通して考えているんだよ」「いいなと思ったら、どうしてかな?と考えることが大事。好きな事を続けているとそれが仕事になったり、人生が楽しくなったりしますよ」と、館長はこどもたちにメッセージを伝えました。


こどもたちと館長の対話は楽しく続いていきました
撮影:御厨慎一郎

マルセル・デュシャンの革新的な精神が受け継がれ、今も息づいている現代アートには、アーティストが世界をどう眺めているかを知って自分の考え方をぐるりとひっくり返したり、考えもしない発想のヒントをもらったり、視野をうんと広げることができる不思議な力があるのかもしれません。「答えは一つじゃない、だから面白い。」そんなメッセージが次世代のアートを支えるこどもたちに少しでも伝わってくれたなら、館長とスタッフのミッションはひとまず達成したと言えるでしょう。また美術館でこどもたちに会える日を一同楽しみにしています。


最後にみんな笑顔でパチリ!
撮影:御厨慎一郎

(文:森美術館学芸部パブリックプログラム エデュケーター 白濱 恵里子)
 

<関連リンク>

「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」
会期:2011年3月26日(土)~8月28日(日)

・森美術館flickr(フリッカー)
展示風景「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」
展示風景「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」(2)

カテゴリー:03.活動レポート
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