2011年9月16日(金)

フレンチ・ウィンドウ展 魅力的なコレクターたちをご紹介します ~file.04 ジル・フックス

連載最終回は、本展のキーポイントである「マルセル・デュシャン賞」を設立し、現在、コレクター団体ADIAFの代表を担うジル・フックス氏をご紹介します。返答の中からにじみ出るアートへの愛情あふれるフックス氏の回答をご覧ください。

【file.04】ジル・フックス


Photo: Jennifer Westjohn

■Profile
1994年にコレクター団体ADIAFを創立。1998年以降、その代表を務め、2000年にはマルセル・デュシャン賞を設立。フランス現代美術発展のためのスポークスマンの役割を担う。

Q.あなたの本業は?
A.以前はファッションと香水に関するビジネスをしていましたが、今でも50年近くアート"中毒"コレクターではあり続けています。

フランスの生活様式や文化は、もっと再考されるべきだという確信を持っていましたので、退職する際に何人かの友人と共に、海外におけるフランスのアーティストの活動を奨励するADIAFを設立しました。アートの中心にある流れは、「万人に理解されるべき」という誤った考えのもと、センセーショナルや下品だと評されない作品を目指してきました。
しかしながら、そもそもフランス芸術は、伝統的に熟考され、優雅であり、判断する感覚に基づいており、そこには「極端に挑発的である」ことと「控えめに理解をさせる」ことと言う、相反する2つの目的があって、ある意味ヒューマニズムとも表現できるでしょう。

ADIAFは300名にのぼる現代アートのコレクターのみで構成されています。
我々ADIAFのコレクターが選んだ作品は、強大な機関や制度的なコレクターの選んだ作品とは違い、ささやかながらも現代アート界で役割を果たすような存在だということを強調しておきます。

彼らが作品を選ぶ動機には、投機的な意図はなく、好みや熟考したものが反映されています。
我々の心の中には常に、レオナルド・ダ・ビンチの、「アートは精神的なもの」"l'arte è cosa mentale"という言葉がありますので、関心はアート作品の金銭的価値ではないのです。
「アートは精神的なもの」だという考え方も、民主主義の一つのあり方ではないでしょうか?

Q.なぜコレクションをするのですか?
A.コレクターは、一言でいうと「マニアック」です。
コレクションする事は、もはや個性の一部であり、自分自身のコレクターとしての側面無しでは生きることができません。例えば、切手から不用品までをコレクションする場合は、理論的に完成した世界だと思います。なぜなら、そのコレクションには完了する日があるからです。しかし、現代美術を収集する場合、コレクションが完了する日はありません。まるで秋のキノコのように、新しい表現や方法、メッセージを持った新しい作家がどこからか湧いてきますし、常にどこかで何かの新しいハプニングがあるからです。
これが常に私を虜にする、コレクションの面白さなのです。

アートは「時代の魂」です。
アートの近くにいることは重要ですが、アートが「過去のもの」になり、発表当時のありのままの衝撃を感じられなくなる前に、そのアートについて学ぶことも大切です。
アートは社会での選択肢のひとつ、倫理なしでは美学は語れないのです。

Q.あなたの注目アーティストは?
A.有名なアーティストより、新しい作家に興味があります。新しい作家の作品には弱さだけでなく、未熟だからこその大胆さを感じることができるかもしれませんし、アーティストのクリエイションは、常に私に刺激的を与えてくれます。
私は次に来る新しい才能の預言者ではなく、発見者でありたいと思っています。

有名なアーティストは、今より作品がより理解され受け入れられるために、作品を固める必要があります。しかしそこにあるのは、真の意味はない繰り返しや愛想のよさ、ある意味で「媚び」なのかもしれません。

それは、おとぎ話"三匹の子豚"に似ています。
一番目の子豚は、藁で簡単な家を作りました。
二番目は、さっきの豚よりも慎重に木で家を造りました。
三番目は永遠に働いて、レンガで家を造りました
私の場合は一番目のケースを好むのかもしれません。

<関連リンク>

・フレンチ・ウィンドウ展 魅力的なコレクターたちをご紹介します。
File01. ジェローム&エマニュエル・ノワルモン夫妻
File02. アレックス&グレタ・ファンデン・ベルグ夫妻
File03. ミシェル・ポワトヴァン
File04. ジル・フックス

・フレンチ・ウィンドウ展 アーティストに聞きました。「あなたにとって、マルセル・デュシャンとは?」
File01. マチュー・メルシエ
File02. ピエール・アルドゥヴァン
File03. トーマス・ヒルシュホーン
File04. カミーユ・アンロ
File05. クロード・クロスキー
File06. ヴァレリー・ベラン
File07. フィリップ・マヨー

「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」

・森美術館flickr(フリッカー)
展示風景「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」
展示風景「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」(2)
展示風景「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線」(3)

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