展覧会について

ビル・ヴィオラ

自分でも意識していなかった心の声を聞く。からだの奥底に眠っていた記憶が呼びさまされる。ここではそんな瞬間があなたに訪れます。
ヴィデオ・アートの第一人者ビル・ヴィオラ(1951年ニューヨーク生まれ)の作品がいよいよ森美術館の全空間を埋め尽くします。本展はヴィオラの世界的な活躍を知る人たち、また初めてヴィオラ芸術に出会う人びとにとっても、その活動の全貌と真髄を体感できる、アジア初の大規模な個展です。
暗闇の中、高さ4mもの両面スクリーンに炎に包まれる男と水に打たれる男が同時に現われ、ミステリアスに消えていく《クロッシング》(1996年)。巨大な空間に浮かぶ5つの映像が、星のように輝く水泡の中を漂う「天使」たちを神秘的に映し出す《ミレニアムの5天使》(2001年)。爆発的な感情が身体を駆け巡り、自己破壊に耐え再生する男女をスローモーションで描いた《静かな山》(2001年)。幻想的な「ゆめ」の世界は圧倒的な迫力で私たちの目や耳やからだを釘づけにし、ドラマティックな映像体験を与えてくれるでしょう。
荘厳で神秘的、そして時にショッキングな作品を通して、ヴィオラは命、誕生、死、再生、感情といった人間の根源に関わるテーマを常に追い求めます。それは、単なるテクノロジー・アートではなく観る人の数だけ余韻を残し、その捉え方をゆだねるアートなのです。
70年代のヴィデオ・アート創生期からヴィデオ制作を始め、80年代からはプロジェクターや大型スクリーンを駆使、近年ではプラズマや液晶モニターでの「動く絵画」とでも呼ぶべき作品を発表。「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」ではテクノロジーの進歩とともに歩みを続けたヴィオラの過去25年の制作の中から90年代以降を中心に16点を紹介します。

本展は森美術館で開催後、兵庫県立美術館(2007年1月23日−3月21日)に巡回します。

《ミレニアムの5天使》(部分)
「旅立つ天使」
2001年
ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
Photo: Kira Perov



《ミレニアムの5天使》(展示風景)
2001年
ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
Photo: Mike Bruce
Photo courtesy: Anthony d’Offay Gallery, London



《ミレニアムの5天使》(部分)
「創造の天使」
2001年
ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
Photo: Kira Perov



《ミレニアムの5天使》(部分)
「昇天する天使」
2001年
ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
Photo: Kira Perov



《はつゆめ》
1981年
シングルチャンネル・ヴィデオテープ、カラー、ステレオ
56分
Photo: Kira Perov

日本で暮らし、形成した世界観
ヴィオラの‘HATSU-YUME’

1980年代に1年半の間、ヴィオラは日本に滞在しました。
禅思想や能などの伝統芸能に触れる一方、新作も制作。ヴィオラ芸術の源泉のひとつは日本にあるともいえるでしょう。滞在中、日本文化と風景を彼の視点で紡いだヴィデオ作品《はつゆめ》 (56分)は本展タイトルの由来となっています。日本へのヴィオラの想いを今につなぐこの《はつゆめ》は会期中に特別上映をいたします。

出品作品
  • はつゆめ|1981年|ヴィデオテープ、カラー、ステレオ | 56分
    ※ヴィオラ・チューズディでの特別上映のみ
  • ストッピング・マインド|1991年|ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
  • 天と地|1992年|ヴィデオ・インスタレーション
  • グリーティング/あいさつ|1995年|ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
  • ベール|1995年|ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
  • クロッシング|1996年|ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
  • アニマ|2000年|ヴィデオ、液晶モニター3面、壁に設置
  • ドロローサ|2000年|ヴィデオ、自立式の液晶モニター2面連結
  • 驚く者の五重奏|2000年|ヴィデオ、暗室の壁に設置されたスクリーンに背面投影
  • キャサリンの部屋|2001年|ヴィデオ、液晶モニター5面、壁に設置
  • ミレニアムの5天使|2001年|ヴィデオ・サウンド・インスタレーション
  • 四人の手|2001年|白黒ヴィデオ、液晶モニター4面、棚に設置
  • 静かな山|2001年|ヴィデオ、プラズマモニター2面、並列に壁に設置
  • サレンダー/沈潜|2001年|ヴィデオ、プラズマモニター2面、縦長に壁に設置
  • オブザーヴァンス/見つめる|2002年|ハイヴィジョン・ヴィデオ、プラズマモニター、壁に設置
  • ラフト/漂流|2004年|ハイヴィジョン・ヴィデオ、壁面投影、5.1chサラウンド・サウンド

著名人の方々から、本展へ寄せられたコメントをご紹介します

ものをつくるときにいつも考えるのは
「単にきれいなだけではなく、心に響くものを作りたい」ということ。
思わず声が出るような、技術だけではない、本当の何か。
ビル・ヴィオラ展では、その本当の何かのエネルギーを感じること ができると思います。
吉岡徳仁(デザイナー)
「はつゆめ」というにはあまりに衝撃的でした。
ホンマタカシ(写真家)
ビル・ヴィオラの作品は、テクニカルに走り賢すぎるようなアートとは違い、観客の感情に訴える。
彼のテクノロジーの使い方は、表立って科学的ではない代わりに、見るものの感覚と知性を刺激する。観客は、「感じて」いる間に考えさせられる。
ヴィオラは、最良の現代アートは、心と精神に本能的に働くものだということを証明している。
ジョン・C・ジェイ
(ワイデン・アンド・ケネディ エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)
今までヴィオラの展覧会は、ことあるごとに見てきたけれど、今回まとめて観てみて、すごくショックだった。
彼自身は、時代から離れ、すごく思弁的な作業に集中して作品をつくっているのだけれど、それが時代を生きる人に生々しく届く。アートの力の凄みをとても強く感じた。
心から、多くの人が、ぜひ観に行くべき展覧会だと思う。観て、たくさん感じて、そして考えることができるから。
後藤繁雄(編集者/クリエイティブ・ディレクター/京都造形芸術大学ASP学科教授)

MAM SCREEN

MAM SCREENは森美術館で開催中の展覧会に関連するアート映像を、メトロハットの屋外500インチスクリーンやウェストウォークのPDPモニターなど六本木ヒルズ内各所で上映するプログラムです。

2006年10月〜12月は、特別版として「ビル・ヴィオラ:はつゆめ」展出品作より6作品が、2点ずつ週替わりに登場。毎日12:00〜13:00、19:00〜20:00の間、ヒルズ内各所のモニターに加え、オフィス、レジデンスのエレベーター内モニターでも同時に数回上映され、街中がヴィオラの幻想的瞬間に包まれます。