セッション「21世紀のインド、変容の過程で」

出演者: ディーパック・アナント(美術史家・評論家)、ラクス・メディア・コレクティヴ(アーティスト)、
後小路雅弘(九州大学大学院人文科学研究院教授)、南條史生(森美術館館長)、
三木あき子(本展キュレーター、森美術館ゲストキュレーター)
日 時: 2008年11月24日(月・休)14:00 - 16:00
会 場: アカデミーヒルズ49 タワーホール(森タワー49階)

インド美術を紹介する企画としては、日本で過去最大級の展覧会となった「チャロー!インディア」展。展覧会関連プログラムとして開催されたセッションは、インドの現代美術と現代社会の変容について、さまざまな議論を盛り込んだ内容となった。

展覧会参加アーティストの1組である、ラクス・メディア・コレクティヴ(ジーベッシュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタ)のレクチャー・パフォーマンスで幕を開けた第1部では、彼等の映像作品を紹介しながら、紀貫之が詠った和歌の解釈方法などいくつかの具体例を挙げ、「語る」、「読む」、「聞く」といった判読すること、理解、解釈する方法とその時に起こりうる差異について語った。「聞く」ことが先なのか、「理解する」ことが先なのか。「判読できないもの」、「聞きとれないもの」という影の存在へ目を向けると、人間関係や文化間でのコミュニケーションの歴史へ繋がると言及。続けて、「チャロー!インディア」展で展示する彼等の作品≪ユーフォリア・マシーン:逆行分析フィールド・ラボ(第1次)≫(2008年)と森美術館とのコラボーレション・プロジェクトである≪親愛なるインドへ≫は「読解可能にする」プロジェクトであると位置づけた。
三木あき子氏の問いには、「解読すること、解釈することは、時間を費やすクリエイティブな行為であるにも関わらず、この100年の歴史の中で、さまざまな事象がスタンダードなものに画一化され、解釈されやすくなる状況を、街の中や人々の生活のなかで私達は目の当たりしてきた。この100年間は、解読しやすさ、判読しやすさを追求してきたのではないか。そのことを問い正し、解読しやすいということが時には脅威にも成り得ることだと認識し、知的な追及を行っていきたい。」と答え、さらに今のインドのアートシーンをどのように捉えるかという問いに対しては、「今はまだ確固たるアートシーンが到来していないのではないか。多くの人たちが遠くへ旅行することができるようになり、旅行そのものが大量消費される時代となっている。世界中を旅して、自国の文化について立ち返って考えることができるようになり、そのことが新たな主観の発見に繋がっている。アートシーンはいろいろなことに要因している。」と語り、レクチャー・パフォーマンスを終えた。

第2部では、南條史生館長のプレゼンテーションではじまり、「チャロー!インディア」展のリサーチのため本展キュレーターの三木氏と共にインド各地を訪れた際の様子が写真で紹介された。70年代、南條氏がバックパックで周った際に見た風景とは異なる、と語った大きく変容を迎えた現在のインドの様子が画面に映し出され、新興住宅地に建てられたアーティストのスタジオの様子や2008年にオープンしたプライベート美術館のDevi Art Foundationの様子が紹介された。

続く、ディーパック・アナント氏は2005年に企画した「インディアン・サマー」展において、フランスでインドの現代美術をどのように紹介したかその経緯とともに、一カ国をテーマにする展覧会が、重要な役割を果たしている一方で、ナショナリズムへの懸念を含めさまざまな問題を孕んでおり、そういった展覧会企画に対して問題視する意見も存在すると述べた。

最後にプレゼンテーションを行った後小路雅弘氏は、自身が携わった「福岡アジア美術トリエンナーレ」を含め、1970年より日本で開催されてきたインド美術の展覧会の変遷を辿るとともに、それぞれの時代の展覧会の傾向とアジアの作家たちの視線がより日常へ向けられていることを指摘した。最後に、スポード・グプタの牛糞を使用した作品≪母と私≫(1997年)を日本で紹介しようと試みた話題を挙げ、牛糞の輸入ができず展示ができないと判った際に日本の牛糞で代用できないかと解決策を練ったが、他の文脈では写し変えることができないものだったと振り返った。そして「持って来ることができないもの」、「理解できないもの」を大事にするべきだと教えられたと締めくくった。

最後のまとめで、南條館長は「現代性とは何か、それが世界とどのように繋がっているのか、アジアの国はそれらの問いを持ち続けており、その議論を今後も続けていかねばならない。」と語り、三木氏は「今回の展覧会やディスカッションで撒かれた種がそれぞれの場所で育っていってほしい。」と語りプログラムは終了した。

ラクス・メディア・コレクティブの3人
撮影:渡邉 修

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