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森美術館「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展関連のパブリックプログラムとして、パネルディスカッション「クロストーク2007」が開催されました。当日は本展の企画にたずさわった天野一夫氏(美術評論家・京都造形芸術大学教授)、佐藤直樹氏(ASYLアートディレクター)、椹木野衣氏(美術評論家)と本展担当キュレーターの荒木夏実(森美術館)をまじえ、それぞれが推薦したアーティストについて、また今回重視したコンセプトや展覧会の見どころなどを語りました。 |
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■開催のあいさつ 森美術館館長 南條史生 「六本木クロッッシング」は3年に1回開催する展覧会で、日本の現代美術の現況を紹介していくという意図で始めたものです。第1回は2004年に開催し、57組の作家を紹介しました。第2回の今回は36組と人数を絞り込み、1人の作家の作品をじっくり大きなスペースで観ていただくという展示を行いました。また当初の若手アーティストを紹介するという点も「若手とは何か」という見地に立ち戻り、年齢で制限することなく、世代をクロスするという視点から幅広い年齢層の作家が選ばれております。4人のキュレーターチームによる今回の特徴として、日本の現代美術における近過去の歴史的な広がり、奥行きを見ることができる展覧会となっています。 |
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■4人が選出した作家紹介〜ディスカッション 本展は4人のキュレーターの活発な議論を通して、枠に収まりきらないエネルギーと影響力をもつ、今見せるべき36作家が厳選された展覧会です。どのように作家は選出されたのか?出展作家例を挙げながら、展覧会の舞台裏が紹介されました。はじめに、荒木より作家を選んだ背景が述べられました。「必ずしもこのキュレーターがこの作家を選んだということではなく、さまざまな作家の名前を出し、4人で今回の“交差(クロッシング)”の意味に照らし合わせてかなりの議論をしました」、「その中で4人のコンセンサスを得て、この作家は“交差”するという展覧会の意味にふさわしいというかたちで全員で選んでいったものです」。4人それぞれが推したさまざなジャンルの作家を、4人がさらに選び出していく過程で、本展が形づくられたことがわかります。まず荒木から順に出展作家(数名ずつ)の画像をまじえた解説がスタート。続いて4人によるディスカッションが行われました。 |
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◎主な発言と取り上げた作家(出演登壇順・敬称略) |
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荒木夏実 |
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「今回の「六本木クロッシング2007」展の特徴は20歳30歳代の若手だけを紹介するのではなく、60年代70年代にめざましい活躍をし、今なお精力的に活躍するアーティストが含まれたということにあります。実際展示をしていて若手と60年代から活躍されている作家がギャラリー内でのクロスが面白くできたと実感しています。この展覧会を通してより厚みのあるクロスが見られたら良い、そして日本の現代美術の中に含まれているエネルギー、パワーを感じられる展覧会となるよう企画しました。」 (紹介作家)丸山清人、眞島竜男、四谷シモン、田中偉一郎 本展の入口52Fセンターアトリウムに来館者を迎えるように展示された、富士山の絵。これは現在東京に3人しかいない銭湯ペンキ絵師で72歳現役の作家、丸山清人の作品。銭湯の絵は日本独特の文化の象徴ともいえる。荒木いわく、本展をお風呂でゆったりするようにリラックスして楽しんでほしいというコンセプトを入口に掲げた。その他、手の込んだフィクションでユニークな作品を創りだす眞島竜男、60年代から活躍を続ける人形作家四谷シモン、身近な社会問題をパワフルかつ脱力させるユーモアで表現する田中偉一郎などの紹介に聴衆から笑いも起こり盛り上がった。他にも1つのギャラリー空間を名和晃平と鬼頭健吾の作品で成り立たせたインスタレーションも見どころのポイントと解説。これも作家同士の対決(クロッシング)であると語った。 |
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天野一夫 |
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「私も何人か作家を推薦しましたが、必ずしも私だけのセレクトでなく、4人の思いが溶け込んで36組を選んだといえます。今を生きていることのリアリティを横断的に作品を見て感じるこの展覧会では、いろいろな形の守られた枠組みやこれまで論じられたような文脈も一度切ることで、思いもよらなかった出会いが生まれました。前回は作家数も多く言うなればストリート系である種の熱を持っていたのだとすれば、今回は静けさ、単に静かなだけでない冷めた狂気、不穏な空気をはらんでいます。「六本木クロッシング2007」では予想外の作家と作品が延ばした線が交差し、スパークしているのです。」 (紹介作家)立石大河亞、池水慶一、横山裕一、中西信洋 元々、六本木クロッシングは新人や新しいウェーブの紹介を主眼とした展覧会。しかし今回はキャリアのある作家も入っている。天野はまず、中でもキャリアが長くすでに故人である、立石大河亞を紹介。60年代のポップアートの作家という認識だけにとどまらない彼の作品をここで見ることができる。池水慶一は関西で活動する作家で鉄骨や鋼管などを使い、主に美術館という場所以外で非常に大がかりな作品を生み出す作家である。巨大なナンセンスともいえるものでありながら、見る者に色んなイマジネーションを起こさせるのはなぜか。会場では池水本人が登場し、作品づくりの記録映像を自身で解説、聴衆の反響も大きかった。他にも台詞なしのコミックを描く横山裕一、またフィルムを使ったレイヤードローイングを創作する中西信洋を紹介。この4人だけを見ても、いかに多様ジャンルが意外な組み合わせで登場するかが実感できた。 |
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佐藤直樹 |
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「私自身キュレーター、評論家でもない者がこの選出に加わること自体がクロッシングの1つです。選出では例えばデザインからはみ出してしまうもの、1つのジャンルで説明のつかないものを生み出すアーティストに着目しています。美術家から出品作家を選ぶのでなく、美術というフレームではない“表現”がどういう風に立ち上がってきたのかに興味があります。一人の人間からいろいろな表現を繰り出す人にここで出会ってほしいと思います。そして既存のジャンルに突きつけているものを感じてほしいと思います。」 (紹介作家)宇川直宏、できやよい、エンライトメント、山口崇司 佐藤はデザインやインタラクティブな手法を使う作家を紹介。宇川直宏は社会問題や自然災害などへの思いを驚くべき素材、古着、映像作品等などを通してスタイリッシュに作り上げる。本展で宇川直宏は台風を再現し、世界各国の紙幣が舞う中を来館者が体験できる作品を発表。その他に20歳でアート界に現れた寡作の画家できやよいのドローイングや80年代イラストレーターとして活躍し、90年代後半から新しい手法で映像作品も手掛けるエンライトメントを紹介。またドラムの音に反応するプログラミングでビジュアルが動くスリリングな作品を創る山口崇司の作品を取り上げた。 |
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椹木野衣 |
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「日本では近代以前から美術の世界で“クロッシング”はたびたび起こっています。デザインとアートが支えている階層の違いからはっきりと区別され、いわば階級差として分かれている欧米と違い、日本ではアートとデザインは元々クロスオーバーしており、参加する側も見る側も抵抗感がありません。その歴史を踏まえ、過去に試みられたことを下敷きに改めて“クロッシング“という意味を考え、その言葉の下に何をすれば良いのかを考えることが重要です。ただ色々なものを混ぜ合わせるだけでではなく、既存の壁を壊すトライアルでなければなりません。「六本木クロッシング2007」展で私は(1)ゼロからの表現者であること(2)単独者の発見とその系譜(3)かたちの継承という3つの文脈を念頭に置いています。未来への脈動という意味は、さまざまな脈がドクドクと瘤のように脈打ち、生命をはらみつつあるということ。これらの作品に見る人が自由にアクセスするのが大切なのです。」 (紹介作家)榎 忠、吉村芳生、関口敦仁、名和晃平 美術館に展示するという枠組みを超越しているもの、戦後美術という流れに入らないもの。椹木氏はそんな作家作品を 紹介した。ここで紹介する作家について、日本美術の大きな1つの流れの中ではなく、星座状に配列し、共存させて紹介すべきだと語る。施盤工として工場に勤務し、在職中から定年退職後も鉄くずなど一度力を失ったものに生命を吹き込み蘇らせる榎 忠。新聞を写し取り驚くほど克明な絵を描く吉村芳生は、1年365日毎日鏡に映った自画像を描く。その吉村は山口県在住でこれまであまり知られることがなかったが、椹木はこのような作家こそ美術という場に引っぱり出すべきだと言う。現代美術はおしゃれな美術館やギャラリーだけで出会うものではない。このような力のある“単独者”、榎もそうであるが、彼らは工夫して新たな表現方法を開拓してきた先駆者でもある。観客はこのように新たな表現者を発見し、新しい美術を考えることになる。 |