2010年4月30日(金)

「幻想都市の魔力」榎忠/「ユーモア革命」田中偉一郎 ~インタビュー:クロッシングを振り返って(2)


榎忠《RPM-1200》2005-, 撮影:木奥恵三

60年代から異彩を放ち続けるベテラン作家と、とぼけた作品が笑いを誘う74年生まれの注目作家。その意外な接点とは----。実はおふたりとも 「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展のプライズ(当館オリジナルの賞)に輝いたアーティストなのです。いまを生きる表現者としてのそれぞれの魅力を、当時の担当キュレーター、荒木夏実に聞きました。

--------前回に引き続き、2007年版「六本木クロッシング2007」展について伺いたいと思います。榎忠(えのき・ちゅう)さんによる、金属部品を無数につなぎ合わせた幻想都市のような彫刻インスタレーション『RPM-1200』は強烈な印象でした。このときの「MAM賞」(参加作家の中から、館長および理事会の選考で授与される賞)を受賞していますね。

荒木:榎さんは60年代から活動を続けるベテランの現代美術家で、椹木さんの推薦で出展していただきました。私にとっては、いわゆる普通のアーティストとは違う存在ですね。出展作『RPM-1200』について言えば、「こんな感じの造形を作りたくて、たまたま素材に鉄を使うのが良さそうだったから......」といった創作姿勢では決してない。仕事で鉄と触れてきた榎さんにとって、あの作品の素材は鉄である必然性があった。体の一部のように知り尽くしたものを使って、あそこまでイマジネーションをかき立てる世界を作り上げる、そこがすごい。まずコンセプトありきだったり、机上の計算からスタートするお行儀のよいアーティストたちには真似できない凄みを感じました。


田中偉一郎《目おちダルマ》2002

----観客の投票で決まる「オーディエンス賞」を受賞した田中偉一郎さんについてはいかがですか。40人もの大家族(?)の名前がびっしり書かれた『子づくり表札』や、黒目が床に落ちてしまった『目落ちダルマ』など、ひときわユーモアあふれる作品群でしたね。小さいお子さん連れの家族などにも人気だった印象があります。

荒木:田中さんは74年生まれ。彼も私の大好きなアーティストです。ふだんは何とも思わないもの、日常生活に当たり前にあるものが、彼の手にかかると絶対的に「何かおかしい」ものになってしまいます。真っ当なコンセプチュアルアートとしての一面もあるし、すごく文学的でもありますね。

 そして、ユーモラスなのと同時に、実はちょっと暴力的なんですね。異様な操作や演出がなされることで、そこに無理矢理に意味が発生してしまうという点で。『子づくり表札』も、少子化の時代にこんなに子どもが誕生したらおめでたくはあるけれど、一方であの過剰さはちょっと怖い。どれも既存の制度を扱っていて「正しいんだけど......おかしいでしょ、それ!」って突っ込みたくなります。

 一見ルールに従っているようで、実はすごいアンチテーゼ。その意味では「革命」なんですよね、彼の表現していることは。笑わせながら、自分たちが従ってるルールを壊してくれる。だから観る側がスカッとするところもあるのではと思います。

《第3回「若手対決」名和晃平+鬼頭健吾/「人形の匠」四谷シモンへ続く》

<関連リンク>
・連載インタビュー:クロッシングを振り返って(全6回)
 第1回 世代やジャンルの「枠組を越える表現」が集った2007年

「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展

「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
 会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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