2010年5月12日(水)

「娼婦の人たちを探すのは大変でした」 ~横溝静アーティストトーク(前編)

ロンドン在住で写真や映像作品を手掛ける横溝静さんは、現在、娼婦を被写体にしたシリーズの写真作品《all》を制作しています。この作品は撮影よりも撮影するまでが大変だったそうです。その理由とは?《all》は「六本木クロッシング2010展」で展示中ですので、ぜひ展覧会とあわせてお楽しみください。


横溝静 《all (J) 》 2008

横溝:《all》は2008年に始めたシリーズで、写っているのはすべてロンドンの娼婦の人たちです。

まず制作プロセスをお話しすると、娼婦の人たちを探すのはとても大変でした。街に立っている人やソーホーという赤線のような所に行って探したのですが、安全じゃないシチュエーションもあって、なかなか声を掛けられませんでした。

そこでどうしたかというと、イギリスには性産業に関わる人たちの組合があるので、そこにコンタクトしました。そうしてやっと探し当てた1人に作品の趣旨を説明し、値段を交渉したら、「いいわよ。私でいいなら、やってあげる」と言ってくれたのです。彼女には、ほかの娼婦の人たちも紹介してもらいました。

このように娼婦の人たちを見つけるまで、撮影するまではすごく大変だったのですが、撮影自体は比較的楽でした。なぜかというと、彼女たちには自分の身体が商品であるという自覚があるので、自分の身体に対して何かされる――この場合は撮影されるということですが、そうしたことに抵抗がなかったからです。それに、彼女たちが私に対して「与える」というスタンスで、私をリラックスさせてくれたということもあります。だから撮影の最中は、本当に親密な時間を過ごすことができました。実際、彼女たちの身体が私に対して、名実ともに(笑)開かれているという印象を受けました。

彼女たちには撮影の後、もう一度会いました。それは彼女たちの顔をあまり写さない、アイデンティティを明かさないという条件で撮らせてもらったので、プリント(写真)が大丈夫かチェックしてもらうためです。と同時に、私は彼女たちの肉体の痕跡というか、何かフィジカルなものをプリントに残してほしいと思っていました。チェックのときにその話をしたら、プリントにキスしてくれることになりました。だから作品のキスマークは、すべて彼女たちがつけた本物のキスマークです。

――次回、どうして娼婦を撮ろうと思ったのかというお話(「見えない」を、見せる写真で作品に)に続きます。

【横溝 静プロフィール】
よこみぞ・しずか――東京生まれ、ロンドン在住。自己の存在と世界、他者との距離や関係などをテーマにした写真作品や、時間をテーマにした映像作品などを手掛ける。主な写真作品に、眠る友人を撮影した《Sleeping》(1995~97年)、見知らぬ他人を被写体にした《Stranger》(1998~2000年)など。映像作品に、老齢の女性ピアニストが演奏する姿と、演奏者の自宅を2面プロジェクションに映す《Forever (and again)》(2003 年)など。現在は「六本木クロッシング2010展」に出品しているシリーズ作品《all》(2008年~)を制作中。

※この記事は2010年3月20日に開催した「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」のアーティストトーク第1回を編集したものです。

<関連リンク>
森美術館フリッカー
今回のアーティストトークの模様をアップしています
「六本木クロッシング2010展」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

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