2014年9月16日(火)

観客が参加することで、さらに豊かになるアート
~スペシャル対談:リー・ミンウェイ×片岡真実(3)

2014年9月20日(土)から森美術館で開催する展覧会では、リー・ミンウェイの20年の軌跡を体験していただくことができます。リーと本展担当キュレーターである片岡真実との対談、最終回です。


《プロジェクト・ともに眠る》
2000年
展示風景:第50回ヴェネチア・ビエンナーレ、2003年
撮影:Gary Lee

片岡:観客とアート、観客どうしがアートを通じてさまざまに関わり合うことができるのがリーさんのプロジェクトの特徴です。その中でも《プロジェクト・ともに食す》《プロジェクト・ともに眠る》では特別に親密な関係を築くことになります。これは応募してもらった人の中から抽選で、リーさんや美術館のスタッフが閉館後の展示室で一緒に食事をしたり、一晩ともに過ごすというもの。このプロジェクトは《ソニック・ブロッサム》のようにたった一人のためのアートです。リーさんがこんなアートを思いついたきっかけは何だったのでしょうか?


リー・ミンウェイ

リー:私はニューヨークのメトロポリタン美術館が大好きで、とくに誰もいない展示室に一人だけでいるのがとても気に入っています。誰にもじゃまされることなく、展示物との内面の会話を楽しむことができるからです。今では美術館にたくさんの人が訪れますが、昔の美術館、とくに19世紀の美術館はプライベートなスペースに少人数が集まり、「美とは何か」をシェアする場所でした。私は美術館にそんな親しみのある感覚を取り戻したいと思ったのです。

片岡:この2つのプロジェクトは、リーさんの作品の中でも特別なものだと思います。


片岡真実

リー:そうですね。どちらも一見シンプルに見えますが、とても挑戦的でラディカルな作品です。これらのプロジェクトでは、参加する人によってすべて違う作品になります。相手によって、展開が変わるからです。私は事前にいろいろ決めつけず、できるだけオープンな態度で臨むようにしています。いろいろと予想してみたこともありましたが、その通りになったことがないので(笑)。
この作品は参加することが所有することになるアートです。お金と交換に所有するという意味ではなく、プロジェクトを体験した人がこのアートの所有者になるのです。

片岡:《プロジェクト・ともに食す》ではリーさん自身、あるいは美術館スタッフが食材を買いに行き、料理してくれます。このプロジェクトでおもしろいのは食事をする、眠るという、毎日誰もがしていることをアートにしているところだと思います。


《プロジェクト・ともに食す》
1997年
展示風景:「対話」台湾現代美術館、2007年
所蔵:JUT美術館準備室、台湾
撮影:Lee Studio

リー:確かにみんながしていることですが、学校の授業で「こうしなさい、ああしなさい」と教えられることはありません。家族やごく親しい友人たちの間でどのようにすればいいのかが伝わっていくものなのです。《プロジェクト・ともに眠る》では、私はいつもどのタイミングで靴下を脱げばいいのか、いつパジャマに着替えたり照明を消したりすべきなのか、「お休みなさい」を私から言わなければならないのか、相手が言うまで待っていたほうがいいのか、といったことに悩みます。シンプルなプロセスの間にこういった何百、何千ものデリケートな瞬間があるアートなのです。


リー・ミンウェイ(右)と片岡真実(左)

片岡:リーさんの作品には「これがアートだ」という既存の概念にあてはまらないものがたくさんあります。リーさんにとって、アートとはどんなものなのでしょうか。

リー:見ること、経験することによって大小にかかわらず、内面を変えてくれるようなものだと思います。すぐには変わらないかもしれないけれど、3年後、10年後に何かが変わったことに気づく。そのアートに出合った瞬間の新鮮な気持ちに戻してくれる。そういうものがアートだと思います。

片岡:リーさんは「私の展覧会は、開幕したときには40パーセントしか完成していない」と言っていますよね。半分以上は観客やプロジェクトに参加した人が完成させていくんですよね。

リー:そうですね。残りの60パーセントは観客によって、より豊かなものになっていくのです。参加者が私の作品を変えていくことが重要だと思います。そして、変化していくアートによって私自身や観客も変わっていけばもっといいと思っています。

文:青野尚子(編集者/ライター)

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<関連リンク>

・スペシャル対談:リー・ミンウェイ×片岡真実
(1)“参加するアート”とは?
(2)「ギフト」を贈ることもアートになる
(3)観客が参加することで、さらに豊かになるアート

「リー・ミンウェイとその関係展:
参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」

会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)

「MAMプロジェクト022:ヤコブ・キルケゴール」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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