2016年8月 8日(月)

視覚のない世界とは?
森ビル・森美術館ワークショップ「視覚のない国をデザインしよう」

「もしも、私たちの日常生活が視覚のない世界だとしたら?」
コミュニケーションや食事の方法、交通ルールは変わるでしょうか。さらに、法律まで変わる?視覚のない国では、そもそも家や駅などの建物の構造や機能はどうなるのでしょうか。アート作品があるとすればどんな表現が可能なのでしょう。街はそこに住む人たちのためにどのようにあるべきなのでしょうか。日常生活で当たり前だと思っている街のあり方やアートのあり方を別の角度から考えたい街づくりを担い六本木ヒルズの街の運営を日々行っている森ビルと、開館以来視覚障がい者を対象にしたプログラム「耳と手でみるアート」を継続してきた森美術館は、そんな問いかけから、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)の著者の東京工業大学准教授の伊藤亜紗さんとの共同企画で2016年4月29日、5月8日、6月4日の3日間にわたり、ワークショップ「視覚のない国をデザインしよう」を開催しました。


伊藤亜紗さん

プログラム開催には、各専門分野から9名のアドバイザーを招き、それぞれの専門性にあわせて「移動手段」「身の回りの道具」「アート」などの9つのテーマを設定。視覚のない国の「ハード編」「ソフト編」の2日間にわけて、見える人見えない人が一緒に「視覚のない国」について考えました。ワークショップ当日はグループに分かれて、六本木ヒルズの街のなかを散策するところからスタート。見えない人見える人が一緒に街にある風景を言葉にして体感しました。

その後、ワークショップ会場の森美術館へ移動し、参加者全員が「視覚のない国」の先天的な全盲の住人となり、それぞれのテーマについてグループでディスカッションを繰り広げていきます。「視覚のない国で大切になるのは人と人との協力」「地図などの目印になるのは臭い、なかでも焼き鳥屋やラーメン店が有力」「そもそも料理はどうするの?見た目より食べやすさが重要。でも味は大事」「身の回りの道具は常に身につけて所持できれば便利」「靴音の大きさでその人の立場がわかる」「人々の価値観を左右するのは土地の水平性」「移動手段は土地の高低差を利用する」「建物は構造物を作るより地面を掘り地下生活が基本になる」「情報は口承で伝わり、情報を集約するための物知りな人の存在が大事になる」など、話題はつきません。各グループのアドバイザーと視覚障がい者のファシリテーターが膨れ上がる参加者の想像を聞き出していきます。見えない人の日常を知ることから、私たちの社会を見直すきっかけにもつながっていきます。

プログラム3日目の最終日には、9名のアドバイザーより、各グループでのディスカッションを受けて考え抜かれて生み出された具体的なモノや事例が発表されました。どの事例もなるほどとうなずくものばかり。私たちの日常にあったら、とても便利で人にやさしいモノです。各プレゼンテーションの詳しい内容は2日間のワークショップの様子とともに下記の動画記録からご覧いただけます。


伊藤亜紗さんと9名のアドバイザーの皆さん

参加された方からは、「普段使わない力を使ったような気がする」「美術館での体験はほぼ視覚によって構成されているが、その美術館のなかで視覚のない国をデザインする内容に興味をもって参加した。自分の知らなかった世界を知ることができた」「ゼロから人と考える過程が楽しかった」「聴覚、視覚などの全ての感覚が加齢によって衰えていく私たちにとって、これからもじっくり考えたいテーマだ」など、たくさんの感想をいただきました。皆さんなりの「視覚のない国」を想像していただき、日常の出来事を少し違った角度から考えてみませんか。
森ビルと森美術館では「まちと美術館」をテーマに、街に訪れる人が現代アートやクリエイティブな体験を通して、より充実した豊かな毎日を送るためのユニークな体験を提供していきます。

スペシャルアニメーションも公開しました:

伊藤亜紗さんからのメッセージ:

誰かのちょっとした一言で思いがけないアイディアを思いついたり、話がノリにノッて脱線したり、ワークショップは本当にナマモノ。そのライブ感を形に残す方法はないだろうかと考え、Day 1とDay 2の一般参加者のみなさんの会話の一部に、アニメーションをつけていただきました。机を囲んだ5−6人が、まるでひとつの粘土をこね回すように、「視覚のない国」のイメージが変化していきます。
面白いなと思うのは、「見えないこと」が、特定の〇〇さんの属性ではなく、みんながそこに向かって自分のアイディアを投入する場のようなものになっているということ。そしてみなさん楽しそう!それは、日々どっぷりつかっている当たり前の環境や価値観からちょっと距離をとってみる、そのドキドキ感だったのではないかと思います。

伊藤亜紗(東京工業大学准教授)

文:白木栄世(森美術館エデュケーター)
撮影:御厨慎一郎
 

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