2016年5月17日(火)

アーティスト×キュレーターによるセッション
「六本木クロッシング2016展」クロストークDay 1をレポート
~毛利悠子、さわひらき、西原尚、ナイル・ケティング、ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ、ジュン・ヤン

「六本木クロッシング」参加アーティストとキュレーターの考えが交差する「クロストーク」。Day 1からDay 3の3日間、全7回にわたるトークに20組全員が登壇して自作について語ります。
2016年3月26日に開催したDay 1の様子をご紹介します。

Day 1 リレートーク第1回

最初のセッションでは、キュレーターのウー・ダークンさんの司会のもと、3人のアーティストが登壇しました。毛利悠子さんの出品作《From A》は、アルファベットの最初の文字のAをモチーフにしたインスタレーションです。毛利さんはそこからさらにギリシャ語のアルケー、すなわち人間がこの世に誕生するよりもずっと前の「万物の起源」に思いをはせ、今の社会の秩序や上下関係を超越する世界を想像し、制作のイメージをふくらませました。


毛利悠子さん


キュレーターのウー・ダークンさん


毛利悠子《From A》2015-2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年

ロンドンに長く住むさわひらきさんは、自分自身に向き合うセルフポートレートの習作として、映像インスタレーションの新作を制作しました。展示空間にあるピンク色のラジエーターの彫刻は、さわさんのスタジオに実際にあるものを表現しています。また、壁に掛かった切手のような形の平面作品は、彼の祖父母の古い写真の上にドローイングを加えたもの。その行為はさわさんにとって写真との「対話」なのです。


さわひらき《カメラの中の男(自画像のための習作)》2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


さわひらきさん

西原尚さんは、主に音を扱う作品を作っていますが、本展出品の《ブリンブリン》は視覚的な要素の強いインスタレーションです。「きれいな花を見て踊りたくなるのはなぜか」「心は本当に踊るのか」というような問いが制作のモティベーションになっている西原さん。本イベントで、彼の大道芸人へのリスペクトが表れた、太鼓を背負ったパフォーマンスを披露してくれました。彼の作品には音と視覚、身体性が総合的に表現されています。


西原尚《ブリンブリン》2015年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


パフォーマンスをする西原尚さん

Day 1 リレートーク第2回


キュレーターのキム・ソンジョンさん


ナイル・ケティングさん

キム・ソンジョンさんが司会を務めた3組のアーティストによるトークでは、最初にナイル・ケティングさんが出品作品の《マグニチュード》について語りました。19世紀後半に複数の科学者が白熱電球を研究し、ほぼ同時期に同様の電球が発明されていたにもかかわらず、その発明がトーマス・エディソンと結びつけられ、神話化されて現代に伝えられていることにケティングさんは着目します。その当時の新聞に、魔法使いの姿に戯画化されたエディソンの肖像画が掲載されています。電気という目に見えないものを当時の人々がどのように捉えていたのかが伝わってきます。科学が神話化、物質化される過程へのケティングさんの関心が、今回のインスタレーションにつながりました。


ナイル・ケティング《マグニチュード》2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年

ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダは、1960年代の日本の前衛芸術の観客であった西山輝夫氏が撮影した写真を用いたインスタレーションを発表しています。美術の専門家ではない傍観者としての西山氏の写真にチュン&マエダは関心をもちました。スライドでは西山氏のスクラップブックを紹介、写真やチケット、記事のコピーなど、きわめてプライベートな視点から収集されたモノのもつ魅力が伝わってきます。


ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ《無題》2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


ジェイ・チュンさん(左)とキュウ・タケキ・マエダさん

ジュン・ヤンさんの映像インスタレーション《罪と許しの時代》は、アラン・レネ監督の映画『ヒロシマ・モナムール』(1959年)を出発点として広島を舞台に制作されました。自分が体験していない過去の出来事に対して、私たちは責任を取ることができるのかという、簡単には答えの出ない問いについて、広島をめぐるイメージを通して考える作品です。


ジュン・ヤンさん

ヤンさんは、両親の出身地である中国と自身が育ったオーストリア、さらに娘たちが暮らす日本というそれぞれの土地の歴史に自分は関わっていると述べます。その決然とした態度は印象的で、境界を越えた未来を垣間見せてくれるものでした。


ジュン・ヤン《罪と許しの時代》2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


前列左から、キム・ソンジョン、荒木夏実(森美術館キュレーター)、ウー・ダークン、小澤慶介(キュレーター)。
後列左から、ジェイ・チュン、キュウ・タケキ・マエダ、ナイル・ケティング、ジュン・ヤン、西原尚。

文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
撮影:永禮 賢(展示風景)、御厨慎一郎(イベント)
 

<関連リンク>

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)
関連展示「MAMスクリーン003:交差する視点―海外アーティストたちが見た日本の風景」
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)

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