2012年10月30日(火)

「1分でわかる会田誠:初の大規模個展を控えた、美術家の挑戦」(3)
"日本人の心の分裂・断絶について感じた驚きを作品に"

前回は「平成勧進プロジェクト」について語った会田誠。最終話では、会田が育てた若手作家の存在や、東日本大震災が作品づくりに与えた影響について語っています。

「会田誠展:天才でごめんなさい」についてはこちら
2012年11月17日(土)-2013年3月31日(日)


会田 誠(美術家)

-- 先日、横浜美術館で個展を開催していた奈良美智さんをはじめ、昭和40年会の同世代の中堅といわれる作家、また会田さんの周りにいるChim↑Pomなどの若い世代の作家について意識することはありますか?

「90年代の前半に、同時期にデビューした作家たちには、仲間という言い方はちょっと違うかもしれませんが、同時代作家として意識はしています。少なからず、仲間意識とでもいいますか。でも僕自身は、海外のいま活躍しているアーティストにも詳しくないですし、ドクメンタやベネチアビエンナーレにもいかない。僕が自分の仕事をする際には、同時期にデビューした日本人作家の動きを見ながら、自分の立ち位置を決めているんです。一方、僕の周りにいる若い作家は、僕の作品のようなテイストをもっていない人たちばかり。細い面相筆を使って輪郭線を慎重に引くようなタイプがいないのは、あえて避けているのかもしれませんが。似た者子弟よりは、異なるタイプの作家が多いんですよね。思想書などを読んで議論するような作家はいませんし、共通項といえば、せいぜいお酒が好きだということくらいでしょうか(笑)」


《ジューサーミキサー》
2001年
アクリル絵具、キャンバス
290×210.5 cm
高橋コレクション蔵、東京
Courtesy: Mizuma Art Gallery

-- 今回の展覧会で集大成となるという、段ボールを用いたワークショップ「モニュメント・フォー・ナッシングⅡ」は、学生と制作を続けてきた作品ですよね。

「元々は美大の展示スペースでワークショップをやりませんかという依頼があり、学生とワークショップをするなら何ができるのかというところからスタートしたプロジェクトです。実はこのプロジェクトは、ものすごく根気のいる作業の連続です。最初は大人数でスタートするのですが、最後まで継続的に続けてくれる学生は少ない。最後まで残る学生の共通点は、きまって無口で黙々と作業するタイプ。僕自身もほっておけば無口なタイプなので、このプロジェクトの終わり頃は、シーンとした部屋で淡々と制作しています。いい意味で、言葉によるコミュニケーションが必要ない。最後まで残ってくれた学生が作家になれるかどうかはわかりませんが、根気のある人たちなので、何かしらの形になっていくとは思います。派手で意識の高い人たちとは全く別の人種で、意図したわけではないのですが、非常に面白いですね」


《モニュメント・フォー・ナッシングⅡ》
2010年
制作風景:東北生活文化大学
Courtesy: Mizuma Art Gallery


《モニュメント・フォー・ナッシングⅡ》
2008年
制作風景:名古屋芸術大学
Courtesy: Mizuma Art Gallery


《モニュメント・フォー・ナッシングⅡ》
2010年
展示風景:TDW-ART 「ジャラパゴス」展、明治神宮外苑特設テント
Courtesy: Mizuma Art Gallery
Photo: 宮島 径

-- 同時公開されるドキュメンタリー映画「駄作の中にだけ俺がいる」では、何万人というサラリーマンが折り重なった作品《灰色の山》の制作風景を追いかけています。これは、3.11の震災前に作成されていましたが、いまみると震災を暗示しているようにも思えます。震災以降、会田さんの中で作家としての変化はありましたか?

「今回準備している新作の絵は2つあります。ひとつはさきほどの女の子の作品《ジャンブル・オブ・100フラワーズ》、もう一方が《電信柱、カラス、その他》という作品です。後者は、震災や災害を暗示させるような作品ですが、元々この作品のアイデアは、20年以上も前に考えていました。今回の個展のために制作を始めようとしていた矢先に震災があり、被災者の遺族のトラウマに触るような表現になってしまうので、今回は描かないで先送りにしようと、一時はお蔵入りになりました。それが、報道が少し落ち着いてから、再び考え直し、描くことにしたんです。直接的な作品で、震災の影響で発想したと思われるかもしれませんが、そう誤解されてもいいかなと。どのみち日本人は、大地震がいつかは来るのではないかと意識していたはずです。また別の新作は、原発がテーマになっています。いまの段階ではまだ細かく言えないのですが、原発自体というよりは、原発事故が起きてから生じた日本人の心の分裂・断絶について、僕自身が感じた"驚き"を作品にしています。できれば震災や原発のことはスルーしたくはないと考えていますが、とはいえ美術作品で僕の個人的意見を主張するということはしたくない。だから、震災を受けて作る作品としては、いまこのやり方じゃないかなと考えています」


《灰色の山》
2009-11年
アクリル絵具、キャンバス
300×700 cm
タグチ・アートコレクション蔵
制作協力:渡辺 篤
Courtesy: Mizuma Art Gallery


会田 誠

Photo:Jiro Konami  Text&Edit:Madoka Hattori

<関連リンク>

・「1分でわかる会田誠」
(1)"コソコソ見るから、エロ本は面白い"
(2)"バカみたいな大作はあと10年ぐらい"
(3)"日本人の心の分裂・断絶について感じた驚きを作品に"

「会田誠展:天才でごめんなさい」
2012年11月17日(土)-2013年3月31日(日)

・Web Magazine ハニカム
「MAKOTO AIDA:初の大規模個展を控えた、美術家・会田誠の挑戦」

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