2013年12月12日(木)

アートコレクターが見る「六本木クロッシング2013展」
遠山正道×片岡真実 MAMCナイトスペシャルトーク

2013年10月8日に行われた森美術館メンバーシップ限定のMAMCナイトでは、アートコレクターとしての一面も持つ、株式会社スマイルズ代表の遠山正道さんをお招きして、森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実と一緒に「六本木クロッシング2013展」のギャラリートークを実施しました。

遠山さんは、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイ専門店「giraffe」、新リサイクルショップ「PASS THE BATON」といった話題のお店を率いるかたわら、ご自身もアーティストとして、ニューヨーク、赤坂、青山などで個展を開催されています。チャーミングなメガネがトレードマークの遠山さん、この日は、ちょっと個性的なシャツをお召しでしたが、「このシャツは、アーティストの遠藤一郎君に描いてもらったんですよ。」と、さりげなく本展出品作家の作品を身にまとって颯爽と登場されました。
ギャラリー内を巡りながらの即興トークセッションは、どんな展開になるのか、ドキドキしながらスタートしました。

小林史子《1000の足とはじまりの果実》

遠山:最初にこの作品を見たとき、椅子が砂鉄みたいに磁石に吸い寄せられているような、不思議な浮遊感を感じました。それと同時に、東北の大震災の時の瓦礫のイメージとも重なりました。

片岡:小林史子のこの作品は、6×6メートルの枠の中で、誰かが座った250脚の椅子と誰かが着ていた洋服が積み重ねられています。混沌と秩序、ルールの中の個性といった、相反する概念を表現しているともいえますね。

遠山:古着に古道具ですね。実は、私、リサイクルショップもやっていることもあり、古いモノが持つストーリーについ魅かれてしまいます。

風間サチコ《人外交差点》《獄門核分裂235》

遠山:これはまた大きな版画ですね。1枚しか刷らないのですか?

片岡:はい、風間サチコは原則作品としては1枚だけ制作します。この《人外交差点》は、現代の監視社会をテーマにしたもので、日本で一番"視られている"とされる渋谷の駅前交差点の風景に、国民総背番号制、戦時中の隣組のような相互監視制度など、過剰に管理された社会のそら恐ろしさを重ね合わせています。
《獄門核分裂235》は、戦後の原子力政策と政治や外交との関わりをテーマにしています。235という数字は、広島に落とされた原子爆弾の「ウラン235」と1954年に発表された日本初の原子力に関する国家予算2億3500万円に由来します。

遠山:作品のテーマは現代的ですが、木版画という技法がちょっと古く懐かしい感じがして、引き込まれます。しかし、これだけ大きいと1回では刷れないですよね?

片岡:はい、いくつかのピースに分けて刷った後、大きな1枚の作品として貼り合わせるのですが、これがなかなか大変な作業で、今回、風間さんはご主人にお手伝いいただいて丸一日かけてやっていました。

遠山:まさに家内制手工業ですね。このセクションは、赤瀬川原平さんや中村宏さんの作品も並んでいて、戦後の混沌から高度成長期に向かう当時の日本の空気や、気分を感じることができます。

丹羽良徳《日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する》《ルーマニアで社会主義者を胴上げする》

遠山:社会を批判的に見るような、いろいろと考えさせられる作品が展覧会の最初の方にあると、後の作品もサラッと流したり、見過ごすことができなくなりますよね。

片岡:そうですね。今回の展示でもメッセージ性の強い作品を最初の方のセクションに持ってきています。丹羽良徳の《日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する》と《ルーマニアで社会主義者を胴上げする》は、パフォーマンスを記録した映像作品です。こうした行動には、無効になったイデオロギーの意味を改めて問うという意味があるといえます。

遠山:無意味なことをすごくシリアスにやっていて、興味深いけれど、映像の中の日本共産党の担当者が、何だかふわふわしている感じがして、どう解釈すればいいのか...。現代アートは、"とんち"みたいなところがあるのでしょうか。

千葉正也《大自然 #2》ほか

片岡:千葉正也は、1980年生まれの若いアーティストです。彼の作品は、風景画のような静物画のような不思議な感じがしませんか?この静物画は、彼がアトリエで3次元のオブジェを作ってから、それを2次元の絵として描いています。

遠山:それは酔狂ですねえ!この作品なんかキャンパスからはみ出ていますけど、いいんですか、片岡さん?見方によっては、プラットホームに支配されていない、コンテンツに合わせてキャンパスというかプラットホームがあるように思えます。

片岡:このセクションの空間全体の構成と作品展示をアーティスト本人に任せたのですが、あらゆる配置や関係性に対して非常に繊細で、ああでもない、こうでもないと展示に大変時間をかけていました。

遠山:この空間が仕切られていない感じがするのは、そういう作家の試行錯誤のプロセスが見え隠れするからなんでしょう。

柳 幸典《ユーラシア》ほか

片岡:柳幸典の《ユーラシア》は砂絵で描かれた万国旗の間を蟻が移動することで国旗が徐々に崩されていくという作品で、『アート・イン・アメリカ』という雑誌の表紙にも使われました。そして、反対側の壁面と床は、《犬島プロジェクト》の模型やドローイングで、近代産業遺構である銅の精錬所をアートワークとして再生しようという壮大なプロジェクトです。その他、広島県の離島で進行中のプロジェクトを紹介しています。

遠山:犬島の精錬所は構築物としても素敵ですし、アミューズメント性があります。そして、このアント・ファームのシリーズは有名です。砂絵の万国旗も実に細かい作業ですし、アリの働きぶりが日本人の様でおもしろいですね。ところで、アリはもういないんですよね?

片岡:はい、途中で死んだアリは、生きているアリが引っ張り出して巣の外に捨てるらしいです。アリの働きぶりはこちらの映像で見ることができます。

中村裕太《豆腐と油揚げ》

片岡:こちらの床に敷き詰めた白いタイルも作品です。中村裕太は、並んだタイルを原稿用紙に見立てて谷崎潤一郎の『陰影礼賛』の文章を表面に焼き付けています。谷崎が白いタイルを「ピカピカしていて落ち着かない、ケバケバしい」と批判したことに触発されて制作されました。
また、大正から昭和初期にかけて建てられた「文化住宅」向けの「改良和風便所」の提案コンペ当選案の間取りも白タイルに転写しています。そして、この作品の奥には本当のトイレがあります。

遠山:本物のトイレのアプローチになっているんですか。このタイルの目地加工は大変な作業だったんでしょうね。まさにコミッション・ワーク。『陰影礼賛』もまた読みたくなりました。

遠藤一郎《未来へ丸》

遠山:これが未来美術家の遠藤君の作品、《未来へ丸》ですね。彼には「Soup Stock Tokyo」で使うレタスの収穫のために、バスの「未来へ号」を出してもらったこともあります。いつもド直球の作品を制作、無理なことをやり遂げる熱い男の彼に注目しています。頑張って欲しいというか、むちゃをしすぎて死なないで欲しいです。(笑)

片岡:遠藤さんは、「六本木アートナイト」などにも参加しています。ワンボックス、バスから今度は船へと、どんどんパワーアップしているのがスゴイですね。

予定していた1時間のツアーが、終わってみれば、1時間半。それでもすべての展示作品を見ることはできませんでした。遠山さんと片岡の息の合った掛け合いが見どころともなった今回のMAMCナイト。今後も、様々なゲストをお招きして、イベントを開催する予定です。メンバーの皆さんのご参加をお待ちしております。


本展のメインビジュアルのデザインを担当した千原徹也さん(左)も飛び入り参加。

文:朝賀 繁(森美術館マーケティンググループ)

撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

MAMCメンバーシップ

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「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」

2013年9月21日(土)-2014年1月13日(月)

展示風景「「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト」

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