2014年8月13日(水)

子どもの視点を知ることで広がる世界
トークシリーズ第2回「子どもと教育」レポート

2014年7月26日(土)のトークシリーズ2回目のテーマは、ずばり「子どもと教育」。「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」出展アーティストの山本高之氏と千葉大学准教授の神野真吾氏の2人が出演しました。社会教育施設でもある美術館で、アートの観賞体験は「教育」としてどのように有効なのでしょうか。それぞれの活動を紹介いただきながら考えました。


会場の様子

神野氏が代表をつとめる千葉アートネットワーク・プロジェクト(WiCAN)は2003年に発足、千葉大学の教育学部と千葉市美術館、地元の小中学校や団体が連携し、アートを中心に地域と密着した活動を行っています。「教育」をテーマに挙げた2013年度のプロジェクトでは、山本高之さんも参加しました。大学生と一緒にプログラムをつくり、その成果を千葉市美術館で展示し、公開シンポジウムを実施しています。

WiCANのプロジェクトは、アートを通した学びを一般化すること、すなわち多くの人にとって意味のあるアート体験から得られる学びを分析し広めていく試みです。アートを鑑賞するクリエイティブな思考は、既存のシステムの刷新、コミュニティの活性化、イノベーションにも有効な手段にもなっていくのではないかと神野氏は語ります。子どもの視点を通した世界観を見せる本展について、因果関係に左右されず、多様な感受性で物事をとらえる子どもの力を認識するとともに、自分たちがかつていたところを再確認し、感覚を再構築するきっかけをくれる展覧会であると紹介していただきました。


神野真吾氏(千葉大学准教授)

山本氏は、日本の大学を卒業した後にヨーロッパに行き、その後日本に戻ってからは小学校の先生をしていた経歴を持つアーティストです。一貫して、子どもたちとのワークショップや対話を通して大人のルールに囚われない世界を作品化しています。山本氏の映像作品に映る子どもたちの反応に誰もが思わず微笑んでしまいますが、ひとつの答えを見つけるのではなく、自分自身でそれぞれの答えを見つける本来の学びの姿が映し出されています。時には、労働とは何か、生きるとは何かという問いに対して、子どもたちが限られた知識のなかでさまざまな事柄を自由につなぎ合わせて考える姿は、アートのクリエイティブな思考ともつながっているように見えます。答えが見つからないことで多様な考えが生まれることが、アートの力であるとも言えます。


山本高之氏(アーティスト)

後半のディスカッションでは、神野氏が使う「一般化」という言葉に対してアート関係者は嫌悪感をしめすことが多いという話がありました。しかし、アートは本来社会と密接に関係しているものです。表面上は多種多様な表現だが、それぞれの作品の根底には共通するものがあり、それを学ぶときに「一般化」の言葉は有効であると神野氏は語ります。アートとは、専門家、あるいは特別な知識を持つ人にしか分からないものではなく、ましてや感性の問題でもないはずです。鑑賞の構造を学び、作品鑑賞をつづけることで世界が広がるもの。ひとつの答えを見つける教育になれた子どもたちや学生が、アートとの接し方を教育を通して如何に学ぶかについても議論は展開しました。WiCANでアーティストの山本氏と大学生が向き合い、答えのないプロジェクトを通して活動を共にしたことは、理想の教育の実践と言えるのかもしれません。


神野真吾氏(左)、山本高之氏(右)

子どもを通して見る世界は、大人が感じる世界と全く異なります。それを知ることで、すべての人が自分とは違うように世界を見ていることをも認識できるのではないでしょうか。多様な価値観との共存が求められている現在、アートの視点を教育につなげるチャンスが訪れたとも言えるでしょう。森美術館では引き続きさまざまな分野の人とのディスカッションを続けていきたいと考えています。


(左より)神野真吾氏、モデレーターを務めた本展キュレーターの荒木夏実、山本高之氏

文:白木栄世(森美術館エデュケーター)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)

「MAMプロジェクト021:メルヴィン・モティ」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)

次世代の子どもたちに、私たち大人ができることとは?
「ゴー・ビトゥイーンズ展」トークシリーズ 第1回「子どもと社会」 レポート

カテゴリー:03.活動レポート
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