2015年10月15日(木)

ふたりのアーティストの共通するテーマ、異なる表現――
「ディン・Q・レ展:明日への記憶」トークセッション
第2回「アート・社会・歴史」レポート

2015年10月12日(月・祝)まで開催していた「ディン・Q・レ展:明日への記憶」。展覧会会期も半ばの9月12日、ディン・Q・レと小泉明郎さんのトークセッションが行われました。小泉さんもディンと同様、政治的、歴史的なテーマの作品を多く発表しているアーティストです。以前から友人同士であるふたりは、お互いの作品への深い考察と尊敬があり、非常に興味深いお話を聞くことができました。


小泉明郎さん

小泉さんは2011年に、ディンが主催するホーチミン市のアート・スペース、サン・アートで滞在制作を行っています。2009年の「MAMプロジェクト009」で、小泉さんの作品を観たディンが推薦したことがきっかけだそうです。小泉さんはベトナムで「第二次世界大戦中の日本軍の占領」と、「ベトナム戦争」についての記憶を街の人々がどのように語るかに興味を持ち、インタビューを行いましたが、トークセッションでも紹介されたその映像は、戦争の経験や記憶がまだ人々の中に生きていることを如実に示すものでした。加えて、ホーチミン滞在の最後にディンが小泉さんに「日本人に対して同様のアプローチをしてみてはどうか」と言ったことをきっかけのひとつに、戦争や特攻を経験した人へのインタビューを用いた作品制作に到ったそうです。


ディスカッションの様子

それぞれの作品紹介の後のディスカッションでは、政治や歴史について作品を通じて表現することや、戦争という過去との向き合い方が国や地域によって異なること、戦争を知らない世代である私たちがどう語りうるのかなど、真剣な議論が繰り広げられました。なかでも、戦争体験が絶対的であるあまり、それを体験していない世代が歴史を再検証し、解釈することが許されないムードが日本にはあるという議論は非常に印象的でした。しかし小泉さんをはじめとする孫の世代はそうした戦争の絶対的な語り口から一定の距離を保って考えることが可能になってきているのもまた事実です。またディンいわく、ベトナムは社会主義国家ということもあり人々は戦争について話したがらないが、それでも日本と同様に若いアーティストの何人かは歴史を再訪するような作品を作っているとのこと。ディン・Q・レ展の開催中に、このようなディスカッションの機会を設けたことは、非常に有意義だったように思います。


会場の様子

実はこの日はもう一人のスペシャルゲストが。《バリケード》という作品のコラボレ―ターであるアルジェリア系フランス人MCのアメさんです。この機会にわざわざパリから駆けつけ、トークセッションの後にライブパフォーマンスを披露してくれました! アルジェリアとベトナムは共にフランスを宗主国としたかつての植民地であり、アルジェリアの独立への気運は、ベトナムのフランスへの勝利に後押しされて高まりました。そのような両国の関係を、再びアーティスト同士のコラボレーションというかたちで蘇らせようとしたのが《バリケード》。「移民の子どもとして、ディンの作品で扱われている問題を身近に感じることができます。ベトナムとアルジェリアは歴史上の兄弟なのです」と言うアメさん。実は《バリケード》の作品の前でアメさんが実際にパフォーマンスをするのはこれが初ということで、ディンも「これでやっと作品が完成した」ととても喜んでいました。


アメさんによるライブパフォーマンス

サン・アートの活動にも言えることですが、ディンが小泉さんやアメさんなど、他のアーティストとの対話や意見交換、関わり合いをとても大切にしていることがよくわかりました。小泉さんとディンの出会いのきっかけが、「MAMプロジェクト」だったということも、スタッフにとって非常にうれしいお話でした。アメさんの素晴らしいパフォーマンスもあり、ディンにとっても美術館にとっても、また観客の皆さんにとっても特別な時間になったのではないかと思います。


左から:小泉明郎さん、荒木夏実(森美術館キュレーター)、ディン・Q・レ、アメさん

文:熊倉晴子(森美術館アシスタント・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

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会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)

カテゴリー:03.活動レポート
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