2016年11月11日(金)

「宇宙と芸術」の可能性は?
「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート#5

8月20日、「宇宙と芸術展」(~2017年1月9日まで)関連イベントとして、シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」を開催しました。
最終回となるレポート第5回では、その後のディスカッションとQ&Aの様子をお届けします。

さて、4名の登壇者それぞれのレクチャー内容が充実し、ディスカッションの時間は短くなってしまいました。


ディスカッションの様子

モデレーターを務める森美術館館長の南條が「渡部(潤一)さんと野村(仁)さんは宇宙を観察する人、的川(泰宣)さんと猪子(寿之)さんは宇宙空間に行ってしまう人というようにいえる。」と述べていたことについて、渡部氏は「南條さんは上手くまとめたなと思いました。映画の『ジュラシック・パークIII』で、ある科学者が主人公に語るのですが――世の中にはふたつのタイプの人がいて、ひとつは天文学者、もうひとつは宇宙飛行士だと――そのとおりだと思います。また名古屋大学の教授が科学分野の中で何がアートに近いかというアンケートをとったところ、天文学とアートが近いという結果になったそうです。本展はこうしたコンテクストの中に当てはまる展覧会だといえるでしょう。」

南條からの野村氏への、どうして宇宙を観察する作品を作ったのかという質問に対しては、「写真は、カメラの角度を少し上に向けるだけで、空の先に宇宙が写るというのは不思議な事実ですね。精度を上げると、そこに観えるものも違ってくるのがおもしろいのです。」と野村氏。

本シンポジウムに参加した感想として的川氏は「すべてに共通しているのが、チームラボの作品にも感じたものなのですが、心の中にある欲望やイマジネーションを探ると、自由に発想したい、自由になりたいという気持ちが強いのではないか、ということです。数学者も誰にも邪魔されずに数学について考えたいと思う。自由になりたいというのはすべての人の願いなのでしょう。たとえばパラボリックフライトでは20秒間の無重力を何度か体験できるのですが、飛んでいる時には解放された気持ちになれる。しかし、人間は社会の中では色々な制約を受けて生きている。私は広島で生まれたので、みんなが幸せになる社会ができれば良いなと思っていたのですが、最近の日本で起こる様々な事件――酒鬼薔薇事件(1997年の神戸連続児童殺傷事件)などを見ていると単に自由度を高めるだけでは、みんなが自由で幸せにはならないだろうなと感じます。そういう意味ではおのおのの自由度を伸ばすために、科学と芸術が手を結び、社会的な視点を持つことで、何か新しい世界を作れるのではないか?と思ったのです。」

南條が「自由と無重力は繋がっているのでしょうか。宇宙から戻った宇宙飛行士たちは階段を見ると頭から降りたくなる、という逸話を聞いたことがあります。やはり無重力空間というのは特別なのだと思うのです。JAXA人文科学実験(ISS/『きぼう』文化・人文社会科学利用パイロットミッション)では、天女の舞を舞わせてみるというような実験も行ったりしていますが...ISSのような場所、宇宙で人々が暮らす宇宙時代には、それに適した新しい法律を作らなければいけないと思うのです。」と語ると、的川氏が「まさにその通りです。JAXAの人文科学実験で、理科系の宇宙飛行士に人文科学的なプロジェクトを行ってもらうのは、人文科学的な分野についても宇宙で考える必要があると考えられたからなのです。残念ながらJAXAのこのプロジェクトは2期で終わりましたが、世界中のどの国も行っていなかった実験なので、また機会があればやるべきでしょう。JAXAが行っていた「宇宙の人間学」という研究会では、どうして人間は宇宙に行くのかということについて哲学者や社会学者など人文科学系の人達と宇宙飛行士なども一緒に協議してきました。こういう問題意識は世界中で日本でしか考えられていなかったので貴重です。ご興味のある方は、この研究会を纏めた本『なぜ、人は宇宙をめざすのか:「宇宙の人間学」から考える宇宙進出の意味と価値』(「宇宙の人間学」研究会編、誠文堂新光社)も読んでください。」と応じられました。

南條は「その内、地球上に住めなくなるといいますが、猪子さんは宇宙について何か思われるところはありますか。」という質問を猪子氏に投げかけたところ、「宇宙に行かれた方の多くが、宗教であったり、環境問題だったり、地球全体について考えるような方向に進む場合が多いことに興味があります。昔、人間は森の中でそういう体験をしていたのだが、今はそういう神秘体験を喪失してしまった。そして宇宙に行った宇宙飛行士はそのような体験を行うのではないかと思います。」と応えました。


短くても内容の濃いディスカッションとなりました

ここで、観客に質問が開かれます。

観客Q1「猪子さんにとって、アートの世界で何を作りたいかというのはありますか?」
猪子氏「作りたいものも変わっていくかもしれませんが、ここはどこなのか分からない、他者との境界もあいまいで、いつなのか、世界のどこに居るかも分からない状態。今までだとこの状態はネガティブにも捉えられがちでしたが、ポジティブな意味で、こうした気持ちの良い状態を体験することで、人々が新しい世界観を持てる作品を作りたいですね。」

観客Q2「芸術と宇宙が融合して聖域を作るという的川さんのお話がとても響きました。今後、どのように聖域を作っていきたいのか? をお聞きしたいです。」
的川氏「科学、芸術はどんな時代でも重要だとされてきました。例えば科学は産業革命を引き起こしたように、社会の進歩に必須だとされていたのです。芸術は人々を感動させることができるので、例えばヒトラーが利用したように、政治家は常に芸術を利用しようとしてきました。戦後、アメリカ的な政策として日本人の心をコントロールするためには3S――セックス、スポーツ、スクリーンが必要とされていた。セックスシンボルのマリリン・モンローや野球、映画がその例です。科学技術も芸術も、極限的には悪用することができるのです。このふたつはただし、力を合わせて良い物を作ろうとすることが必要なのではないか、と感じたのは先ほど述べたとおりです。野村さんやチームラボの芸術活動が、自由を伸ばしてくれたらいいなと思いました。」

南條は「まさに今、科学や芸術などを総合的に観る立場で、世界を観ることが必要になっているのではないか、ということを感じました。本展もそうした立場に立っており、また未来の人間社会はどうなっていくのか、という視点に立って作られているので、そういったところも観ていただけたらと思います。」と締めくくりました。

様々な立場から宇宙と芸術について語り、また芸術がどのように宇宙と関わってきたか、また関わっていくべきかという本展の主題についても触れていただき、大変興味深い内容となりました。シンポジウムにご来場の方々やこのブログの読者の方には、ぜひこのような視点で展覧会を観ていただけたらと思います。


左から:猪子寿之氏、渡部潤一氏、的川泰宣氏、森佳子(森美術館理事長)、野村仁氏、椿玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)、南條史生(森美術館館長)

文:椿 玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月)
・「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート
#1 科学技術が、芸術のような感動と共感を得るには、何が必要なのか?
#2 宇宙像はパラダイムシフトによって常に刷新されていく
#3 芸術とは魂を満たすものであり、昔から人間にとって重要だった?
#4 デジタルアートは、他人との境界をあいまいにし、共感の場を提供できるのか
#5 「宇宙と芸術」の可能性は?

カテゴリー:03.活動レポート
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