2017年4月14日(金)

N・S・ハルシャと巡る“チャーミングな旅”
作品紹介#2「チャーミングな国家」シリーズ

ブログ連載第2回では、N・S・ハルシャの初期の代表作「チャーミングな国家」シリーズを取り上げます。

1990年代初頭からインドでは経済改革が進められ、外国資本に対してさまざまな分野での投資が開放されました。カルナータカ州都ベンガルール(バンガロール)は「インドのシリコンバレー」と呼ばれるIT産業の拠点となり、同じ州にあるマイスールも教育分野で注目されていましたが、2000年を過ぎる頃には農業にもその影響が見られるようになりました。
この時期のN・S・ハルシャの作品からは、マイスールを拠点にしながら、グローバル化する世界とその影響や関係性を多角的に読み解こうとする姿勢が見られます。


《彼らが私の空腹をどうにかしてくれるだろう》(「チャーミングな国家」シリーズより)
2006年
アクリル、キャンバス
97×97 cm
所蔵:ボーディ・アート・リミテッド、ニューデリー

制服姿の子どもたちが指差すのは、牛を使った伝統的なやり方で田畑を耕す大人とスイス・ジュネーヴにある世界貿易機関本部ビル。ハルシャは、子どもたちの「空腹」を満たしてくれて、国家の成長を支えるのは、畑を耕す農民なのだろうか、それとも国際的な自由貿易なのだろうかと問いかけます。


《チャーミングな国家》(「チャーミングな国家」シリーズより)
2006年
アクリル、キャンバス
97×97 cm
ルチラ・アガワル氏蔵

農村にブルドーザーなどの農耕機械が導入されはじめた当時、もの珍しさに多くの人が畑へ見物に訪れ、その様子を楽しげに眺めました。しかし、これら外国製の農耕機械はやがて農民たちの仕事を奪っていきます。円柱の上に座っているのは、インドに対するオリエンタリズムの決まり文句の「スネイク・チャーマー(蛇使い)」で、「チャーミングな国家」と書かれた石板もろともブルドーザーに呑み込まれてしまいそうです。

「チャーミングな国家」シリーズでは、マイスールを訪れる国外の投資家や銀行員、マイソール宮殿のマハーラージャ(藩王)、地元政治家、スピリチュアル・リーダー、蛇使い、宇宙飛行士、子どもたちなどが、時間や空間を越えて物語のなかでつながっています。
 

<関連リンク>

N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅
会期:2017年2月4日(土)-2017年6月11日(日)

・N・S・ハルシャと巡る“チャーミングな旅”作品紹介
(1)《私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る》
(2)「チャーミングな国家」シリーズ
(3)《ここに演説をしに来て》
(4)《空を見つめる人びと》
(5)《ネイションズ(国家)》
(6)《レフトオーバーズ(残りもの)》
(7)《未来》
(8)《ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ》
(9)《マタ―》

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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