2010年4月 1日(木)

「不完全の映像美」八幡亜樹さんと「一体感アート」加藤翼さん ~インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(3)


図面をみながら打ち合わせる加藤さん(「六本木クロッシング2010展」展示設営にて)

総勢20組が集う「六本木クロッシング2010展」から、最も若い世代のアーティスト2組をご紹介。一見すると「静」と「動」?対照的な印象もある二人ですが、それぞれの奥深い新世代の表現力について、森美術館アソシエイト・キュレーターの近藤に聞きます。

――今回の「六本木クロッシング2010展」(以下RX展)の中から数名について、作品の見どころをご紹介願えますか。森美術館の公式ブログやflickr(フリッカー)でも別途ご紹介している4組について、伺えたらと思います。前回のインタビューで教えてもらった5つのキーワードとも関連づけながら、お話下さると嬉しいです。まず、最年少の85年生まれ、八幡亜樹さんについてご紹介をお願いします。


作品チェックをする八幡さん(「六本木クロッシング2010展」展示設営にて)

近藤:八幡さんはこの春、東京藝大大学院を修了した作家さんです。今回の出展作「ミチコ教会」は、映像を軸としたインスタレーションとなります。ストーリーとしては、人里離れた山奥に簡素な小屋があり、ミチコさんという女性がそこで暮らしつつ、教会として運営してるんですね。長年連れ添った旦那さんが他界して、山を下りて街に戻るかどうかを考える......そんな感じです。かつてそこで結婚式を挙げた夫婦が訪ねてきたり、ミチコさんが普通に朝ごはんを作っていたり、何気ない日常のシーンがドキュメンタリー映像のスタイルで展開されます。

 山奥の小屋に女性が一人暮らしで、そこが教会っていうこと自体、かなりユニークですが(笑)、作品を観ていると「あれ、これホントかな?」と思わせる瞬間がチラッ、チラッと出てくるんです。現実なのかフィクションなのか判断できないままお話は進み、結局ラストまでそれは教えてもらえない。その独特のトーンが、初めて観たときには衝撃的でした。


展示プランの打ち合わせ風景(2009年2月9日森美術館にて)

 また、いまの世の中では、膨大なお金をかけた「リアルなフィクション」の映像が溢れていますよね。CMでも、映画でも。でも八幡さんの作品は明らかに低予算で、ある意味では素人っぽさもありますが、逆にものすごくリアリティを持っている。その点では、お金をかけた本物っぽい映像に囲まれて育った世代ならではの逆の美意識、「不完全の映像美」のようなものも印象的です。

 加えて、利益とは関係なしにささやかな教会を営もうとする人々への温かい視線は、社会への言及ということにも関わっています。

――次に加藤翼さんについて伺います。巨大なサイコロのような構造物を作り、それを屋外に持ち出して大勢で引っぱり倒す、という不思議なプロジェクトを続けている方ですね。先日も六本木高校の校庭で、今回のRX展用にその「引き倒し」を敢行・撮影したとか。

近藤:はい、雨が降ってきて大変でした(笑)。加藤さんも若いアーティストで、84年生まれ。「引き倒し」のプロジェクトは、まずあの構造体を作るところから、友人たちとのコラボレーションが始まっています。さらにその後、屋外で一般の人々を巻き込んでそれを一緒に引っ張り倒す。ですから前回お話した5つのキーワードで言うとまずは「協働の意義」ですね。


設営中の加藤さん(「六本木クロッシング2010展」展示設営にて)

 ご本人はこのプロジェクトにおける協働の意義を「コミュニケーションを生み出すこと」だと言います。私が惹かれるのは、Eメールなどでバーチャルなコミュニケーションが成立していると言われる時代に、あえてすごくアナログで、生々しい関わり合いを生み出すために協働している点ですね。実は私自身も実際に参加してみたんですが、結構たいへんなんです、あれ(笑)。

――展示映像には近藤さんも映っているかもしれませんね。そこも見所でしょうか(笑)。

近藤:いやどうでしょう、すごい格好してますけど。やっぱり、いやでも頑張らざるを得なくなって、燃えてくるというか、一体感が生まれる。一つの目標に向かってコミュニケーションをとりながらみんなでやるっていう、そのワクワク感に惹かれてこれを続けていると、加藤さんは言っています。結構バカバカしいというか、別にここまでやらなくてもというのもあるんですが、ついつい頑張ってしまう。そういう、理屈じゃないワクワク感や衝撃が、私がこの作品を素晴らしいと思う点のひとつです。


今回も協働作業中です

 ちょっと違う見方をすると、これは経済の効率とか、資本主義の原理とかは関係ない行動としての協働ですよね。その意味で、経済に回収されないひとつのアートの形を示してくれているとも言えるのだろうなと。

それと、使われる構造物は、実はとても建築的な要素も持っています。実際に彼が住んでいる自宅や、昔暮らしていたアパートがモチーフになっているんです。また、屋外=路上でやっているので、5つのキーワードの一つ「路上で生まれた表現」にも関わってきますね。

撮影:木奥恵三

《次回、第4回「路上発」HITOTZUKIと「変換アート」宇治野宗輝さんへ続く》

<関連リンク>
・連載インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(全6回)
第1回 混迷の時代にこそ真価が問われる「アートにできること」
第2回 明日に挑む日本のアート:クロッシング=交差に迫るキーワード

・八幡さん、加藤さんの関連記事はこちら
<日常の予告編>を作りたい:八幡亜樹さんインタビュー
六本木高校で構造物を引き倒す:加藤翼さん 《T》制作風景
「六本木クロッシング2010展」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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