2010年4月 8日(木)

「路上発」HITOTZUKIと「変換アート」宇治野宗輝さん ~インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(4)


HITOTZUKIさんの制作風景(「六本木クロッシング2010展」展示設営にて)

「六本木クロッシング2010展」から、今回は生命力溢れる壁画のHITOTZUKI、工業製品で音を奏でる宇治野さんをご紹介。狭い意味での「アート」の枠を飛び出し、海外でも活躍する2組です。彼らの自由な表現の源とは?案内役は同展担当の森美術館アソシエイト・キュレーター近藤健一です。

――今回の「六本木クロッシング2010展」参加作家20組の中から紹介頂くアーティストの3組目は、HITOTZUKIです。KamiさんとSasuさんによる男女2人組、ということですね。

近藤:彼らについては、このインタビューの第2回で話したグラフィティやストリートアートの話がそのまま当てはまります。今回はホワイトキューブの展覧会場に、スケートボードのランプ(滑走用に作られる斜面台)を出現させます。そのランプと周囲の壁面にHITOTZUKIの二人がペイントする、新作のインスタレーションです。「六本木クロッシング2010展」の目玉の一つになると思いますよ。


HITOTZUKI Sasuさん

今回、ストリートアートのバックグラウンドを持つアーティストはこのHITOTZUKIと匿名アーティスト(※)です。ストリートアートを路上という独特の「場の力」を持ったところから切り離して、あえてニュートラルな空間に出現させたときにどう見えるか、に挑戦できたらと思います。ずっとホワイトキューブの中で表現されてきた作品たちにも負けないクオリティがあることを、証明できるのではと思っているんです。

 HITOTZUKIは早い段階から室内での制作展示も始めていて、つまり路上で始まり、室内での表現も積極的に行ってきた代表的存在とも言えます。アートとして観てもクオリティが群を抜いている、そのことにも注目しました。もちろん、2人での協働スタイルという点もありますね。

――次に宇治野宗輝さんについてお願いします。中古の電気製品などが、不思議なバンドのように音楽(?)を奏で合う「THE ROTATORS」で知られていますね。

近藤:宇治野さんは、今回のキュレーター3人で、最初から「ぜひ出て頂きたい」と意見が一致したアーティストです。まず、音楽と美術のクロスジャンルという試みを一貫して行っている点で注目しています。また、海外での活躍に比べると、意外にも日本の美術館では紹介の機会がほとんどなかったというのもあり、ぜひ参加してもらいたいと考えました。


宇治野宗輝さん(「六本木クロッシング2010展」展示設営にて)

 今回の出展作は「THE ROTATORS」の最新バージョンになります。宇治野さんがこのシリーズ作品で行っているのは、どこの都市にでもありそうな日用品――掃除機、ジューサー、その他の電化製品など――を使ってサウンドインスタレーションを生み出すというものです。日用品がそれぞれカチャカチャと音を出し、それが組み合わさって独特のサウンドが生まれます。今回の最新バージョンでは大きな自動車が加わります。

――なぜクルマなんでしょうか?

近藤:宇治野さんに理由を聞いたところ、「いま自動車はその歴史のなかで転換期を迎えているから」という答が返ってきました。20世紀には、自動車っていわばヒーローでしたよね。でも、環境汚染や原油高騰など色々な問題も生まれて、ハイブリッドカーなるものも登場し、かつてのクルマはちょっと主役の座から降りつつある。そこであえてそのクルマを使ってみる、ということらしいんです。


車を取り付け中

 なぜかと言うと、これは宇治野さんが話していたのですが、例えば電話でもそうですけれど、我々はそのアイテムが活躍しているうちは、それを発展させていこうとするそうです。でも、それが主役ではなくなったとき、人々から忘れ去られそうになったとき、そこに初めて「新たな使いみち」が浮かび上がる、それが「THE ROTATORS」だと。ですからクルマにしても、本来は乗るものですけどあえて音源のひとつとして使われているわけです。全容としては、大型の迫力ある作品になりそうです。

※匿名アーティスト
  Resized_2

撮影:木奥恵三

《次回日本の東西から集ったゲストキュレーター:展覧会の舞台裏へ続く》

<関連リンク>
・連載インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(全6回)
第1回 混迷の時代にこそ真価が問われる「アートにできること」
第2回 明日に挑む日本のアート:クロッシング=交差に迫るキーワード
第3回 「不完全の映像美」八幡亜樹さんと「一体感アート」加藤翼さん

・森美術館flickr(フリッカー)
HITOTZUKIさん展示設営風景
宇治野宗輝さん展示設営風景
「宇治野宗輝 X contact Gonzo」パフォーマンス風景
「六本木クロッシング2010展」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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