2010年7月30日(金)

盲導犬とボランティアが参加者の「目」に~耳と手でみるアート

財団法人日本盲導犬協会と森美術館法人メンバーであるゴールドマン・サックス証券株式会社が、盲導犬ユーザーを対象とした展覧会ツアーを開催しました。森美術館では「耳と手でみるアート」という、視覚に障害のある方を対象とした展示解説を定期的に行っており、2008年から日本盲導犬協会とゴールドマン・サックスの活動に協力しています。ツアーでは、森美術館サポートスタッフが展覧会を解説。ゴールドマン・サックスの社員(以下GSスタッフ)はボランティアスタッフとして、盲導犬と共に参加者の「目」として手引きをしながら、「対話形式」で鑑賞を楽しむ手助けをしました。3回目となる今回は、「六本木クロッシング2010展」会期中に2度にわたって開催。ブログではその様子をお届けします。


青いTシャツを着ているのがボランティアスタッフです。

イベント開催の6月24日は朝から晴天。2組の参加者を六本木駅でお迎えし、六本木ヒルズのランドマークであるパブリックアート《ママン》(ルイーズ・ブルジョワ作)の案内からスタートしました。初対面の緊張感も次第に解け、参加者からも笑顔がこぼれはじめました。

《ママン》は巨大なクモのオブジェ。その全貌をとらえるために、実際にその足に触れてみます。ボランティアスタッフが全体像を説明する中、参加者は作品の持つ鉄の質感や全体のスケール感を確かめながらイメージを膨らませます。2頭の盲導犬は、いつもと違う様子に、少し戸惑っているようにも見えましたが、参加者が作品を鑑賞する間も、周囲の様子を伺っていました。

一行はいよいよ森美術館の入口へと向かいます。この頃には段々と打ち解けて会話もはずみ、和やかな雰囲気になってきました。

まず本展キュレーターの近藤によるご挨拶と展覧会概要の説明からスタートしました。その間、2頭の盲導犬がユーザーの方の足元でじっと大人しく待つ姿が印象的でした。


左)《Rain Forest》2007 撮影:木奥恵三

最初の展示は照屋勇賢さんの作品。天井から吊るされたトイレットペーパーの芯や、ケースに綺麗に陳列された紙袋を使った作品について、サポートスタッフが解説しました。

今回のツアーを楽しんでもらう工夫として、当館スタッフは事前に、素材や形状がわかりやすく伝わるものや、作品に使用した材料の一部などを用意しました。GSスタッフの説明を聞きながら、参加者は作品の代わりにそれらを手に取って触れ、作品をより体感できたようです。

音が賑やかな宇治野宗輝さんの作品では、参加者は一段と熱心に解説を聞いていました。日用品などの中古品を利用して作られたサウンド・スカルプチャーであるこの作品は、テレビにタンス、コタツ、自動車などからビートの利いた音が流れています。車の大きさや質感を触りながら、どのような素材で作品が作られているかを、ひとつひとつ手で確かめます。この不思議な音がどう作られているのか、という質問もあがり、作品の意図を興味深く聞いている様子が印象的でした。

かなり音の大きな作品のため、盲導犬がどう反応するのか、スタッフは少し心配していましたが、2頭は動じることもなく、その場の状況に馴染んでいました。

通常の展示ツアーより、ゆっくり時間をかけて行われた今回のツアー。参加者だけでなく、スタッフも一緒に作品を体感し、対話を通して作品の新たな一面を知ることができたひとときでした。また、どんな状況でも忠実にサポートする盲導犬の姿を通して、参加者との信頼関係の深さに心を打たれた、貴重な体験となりました。

<関連リンク>

「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

カテゴリー:03.活動レポート
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。