2010年8月 4日(水)

ミュンスター芸術大学で教鞭をとる国際的アーティスト、スーチャン・キノシタのトークを聴いて

 スーチャン・キノシタさんは、世界各地の国際展に参加し、日本でも2000年ザ・ギンザアートスペースでの個展、「テリトリー:オランダの現代美術」(2000年、東京オペラシティアートギャラリー)、「INSiDe an EMPTy House」(2002年、WAKO WORKS OF ART)などで作品を発表してきました。2010年6月14日、彼女が教鞭をとるミュンスター芸術大学の学生たちの研修旅行として久々に来日。多忙な来日スケジュールのなかでのトークは、彼女の最近の活動を知るまたとない貴重な機会となりました。

 トークでは、2007年ミュンスター彫刻プロジェクトで発表した伝言ゲームのようなインスタレーション作品《Chinese Whispers》(2007年)や、次々に現れる人々が彼女の両方の耳元で囁きかけ、その言葉から聞き取れる音を抽出して自分の言葉として声に発し続けるパフォーマンス作品《laudspeaker》(1997年初演)の記録映像や写真を上映しました。また、アントワープの現代美術館 (M HKA)で開催された個展"First marriage"(2002 -2003年)については、美術館の通常の入口を閉じて別の導線をつくるなど建築空間全体を使った展覧会だったことがホワイトボードを使って説明され、彼女の作品の数々を一同に見ることができました。音楽や演劇を学んでいた彼女がつくりだす世界は、まるで舞台装置の構造体のなかに観る者を引きこむかのよう。演者と観客、もしくは見る者と見られる者など、その場でうまれる多様な関係性を鑑賞者は体験することになり、アートと日常性、観客と作品の関係性など、不可視な世界に成り立つコミュニケーションから創られる作品の美しさを体験することができました。

 19歳まで日本で過ごしたスーチャンさんは日本語がペラペラ。今回のトークでは、彼女にとっては懐かしい日本語でお願いしました。スーチャンさんにとって、作品について日本語で話すのははじめてのことで、「自分の作品に対する考えが変わってきた気がする」とコメントする一幕も。終始笑顔が耐えない彼女の穏やかな人柄を伺い知ることができる講演でした。

 2010年10月にはケルンのMUSEUM LUDWINGにて展覧会を開催。ドイツに行くご予定がある方は是非チェックしてください。

【スーチャン・キノシタ プロフィール】
1960年東京生まれ。オランダ・マーストリヒト在住。ミュンスター芸術大学教授。19歳まで東京で育ち、その後ドイツで音楽・舞台芸術を学ぶ。主な展覧会に、「マニフェスタ1」ロッテルダム、1996年、「カーネギー・インターナショナル」カーネギー美術館、ピッツバーグ、1999‐2000年、「Adaptive Behaviour」ニュー・ミュージアム、ニューヨーク、2004年、「ミュンスター彫刻プロジェクト07」、ミュンスター、2007年などがある。2008年よりプロジェクト「if I can't dance...」を世界各地で行っている。
 

<関連リンク>

・アージェント・トーク001
ミュンスター芸術大学で教鞭をとる国際的アーティスト、スーチャン・キノシタのトークを聴いて
・アージェント・トーク002
石内都、会田誠や横尾忠則らが見た日米関係‐映画「ANPO」特別上映参加者募集!
・アージェント・トーク003
佐々木監督を迎えて 映画『ハーブ&ドロシー』トークセッション
・アージェント・トーク004
さらなる国際化を目指して~チリの現代アート事情に迫る!
・アージェント・トーク005
既成概念を打ち破り発展するアートセンター、ル・コンソルシウム
・アージェント・トーク006
アーティストと美術館が語り合った"アートの本質"とは -「美術館に招かれるようでいて、実は美術館を招く」
・アージェント・トーク007
田中功起 レポート
・アージェント・トーク008
理想の未来像を描くことは簡単ではない 映像プログラム「スター・シティ」を上映
・アージェント・トーク009
ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニの映像作品に見る「歴史への視点」
・アージェント・トーク010
アート顧客拡大に向けたデジタル・メディアの効用法‐英国テートの例
・アージェント・トーク011
アジアの歴史的な美術や文化を現代に繋げる。サンフランシスコ、アジア美術館の進む道

カテゴリー:03.活動レポート
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。