2010年10月29日(金)

俳優、アーティスト、事業家...伊勢谷友介の目指す姿とは?~伊勢谷友介のREBIRTH論に迫る(4)

47都道府県の失われつつある技術などと新しい才能を組み合わせ、もう一度その土地をみなが振り返るようなものをプロダクトアウトする。「REBIRTH PROJECT」では、そんなプロデュース活動をしていきたいと語る伊勢谷さん。今回は、俳優やアーティスト、そして事業家としての顔も持つ伊勢谷さんのアートに対するスタンスに迫ります。


「どれがアートで、どれが表現で、どれがプロダクトでということをカテゴライズするよりも大事なことがある」

片岡:「REBIRTH PROJECT」では事業家としてのセンスを発揮していると思いますが、伊勢谷さん自身もアーティストなんですよね?

伊勢谷:まあ、ちょっとわからないですけれどね。何というか、だんだん自分はどういう立場なんだろうと思うようになってきました。

片岡:伊勢谷さんは、俳優としてのお仕事もどんどん広がっていく中で「REBIRTH」もやりながら、芸大を出られているということでアートの世界もよくわかっていらっしゃる。そんな伊勢谷さんの立場から見て、こういう時代に、現代アートにどういう可能性があるのか、どんな期待が持てるかも含めて、アートそのものに対する考えを聞かせてもらえますか?

伊勢谷:そうですね。僕の今のスタンスからいうと、どれがアートで、どれが表現で、どれがプロダクトでということをカテゴライズするよりも大事なことがあると思うんです。どういう人が、どういう心持ち、どういう心情で、または、どういう芯を持った人がつくっているのかということが、どんどん広がっていく理由になっていくと思うんですね。
自分のエゴしかない人がつくれるものと......、そうじゃない、何だろうなちょっと表現に困ってしまいますけれど...。
やっぱり、どの方向性でも、僕はいいと思ってしまっていて、受け手側がそれをどうとらえるかに近いことだと思うし。
例えば、こういうふうな大きい空間(ネイチャーブックラウンジ)の中で、ああいう、人が体感できるものをつくること自体、無駄なことをしているのかもしれません。でもそれで何かを感じてもらえる環境を提供するというか、ちょっと現実から一段飛ばしてあげることで観客が何かを感じとってくれている。何というか、エンターテイメントもそうだし、そういった多様性に対して、僕はすごく歓迎しているし、「何をやめてくれ」というのもないですしね。そこはそれぞれが、いろいろ追求して、結果的にそうなっていくものだと思うので。大多数が受け入れてくれれば、それがすばらしいものということになっていくと思うんです。なので、僕は現代アートに対してそんなに期待を寄せているわけではないですが、どういう形になっていくのかなというのは楽しみですね。


ネイチャーブックラウンジは、「REBIRTH PROJECT」が空間デザインを施した

片岡:だから、「REBIRTH PROJECT」も特にアートプロジェクトというわけではないよね。

伊勢谷:ないですね。

片岡:アートもビジネスも環境問題も一体化した、もっと広いものとして考えているということ?

伊勢谷:そうですね。ビジネスって、資本主義社会の中で周りときちんと関わりあって、それがプロダクトとして世に出て、だれかの手に渡っていくという一連のことですよね。そのすべてのパフォーマンス自体が、僕はアートだと思っているので。
ビジネスの中でも、人とのかかわり合いの精神の中でも、格好悪いことはしちゃいけない、人に対する愛情を常に持って、自分たちのエゴを忘れて実行したことが自分たちのキャラクターになっていくと思っています。
要するに、自分たちの愛情をどこまでみんなに与えてあげられるのかということが、結果的にREBIRTHを支えていくと思うし、作っていくような気がする。愛情です、全部。

片岡:伊勢谷さんのそういう思想はどういうところから来ているんでしょうね。

伊勢谷:まあ、僕がもともと、ものすごいエゴが強い人間なので、それから来ていますね(笑)。やっぱり、こう、若いときから試行錯誤して、何だろうな、「自分のために生きるのが、何が悪いんだ!」と言ってた10代があったんですね。例えば音楽でもパンクみたいな音楽が好きで、破壊行為だったり、そういうふうな言葉が好きだったりとか。「でも、それは、なんでだろう?」と思う瞬間があって。ネガティビティを言うのは、逆に簡単だということに気づいたんです。いい形で、人が受け入れてくれるようなものを提案していくことこそ難しくて、相手のことを本当に想っていないとできない。それって愛情なんだなというふうに、こう、だんだん変遷を遂げて。
じゃあ、自分を形成するのって、自分が思っている自分というのは、自分だけのものだけれど、結局、自分という1つの概念を形成するのは、他人が評価する自分なんだなあ、と。だから友達だったり、そういう身近な人たちに対してから始まって、それが親兄弟にいき、「てことは、地球もだ」みたいな話になって。

そうしたら今度は、俳優としての立場で幕末の志士たちの遺志みたいなものに触れたりして、彼らが本当に有能だ、ということが見えてきた。その当時必死に生きた人たちが必ず持っていたのは、自分に対するエゴじゃないんですよね。とにかく日本のため、世界のためにというか、そういう想いがあるからこそ、本質的に変っていくということがあり得たわけで。
そういうことを感じていくと、やっぱり、僕の中でも、「本当にそうあっていいんだ、人は」というふうに、自分の中で納得できるようになってきたんです。

片岡:伊勢谷さんは俳優として白洲次郎や高杉晋作を演じ、何か違うキャラクターに一瞬自分もなってみたり、重なり合ってみたりすることで、そういう人の生き方とか、人生の価値感みたいなところからも、どんどん吸収し、学んでいるという感じなんですか?

伊勢谷:本人になりきって演じるというと少し違うんです。

≪次回 第5回 白洲次郎を演じるなかで浮かび上がった新たな思い へ続く≫
 

【伊勢谷 友介】
1976年東京生まれ。1994年東京芸術大学入学後、1997年よりアートユニット「カクト」として制作活動を開始。1999年俳優としての活動も開始。2002年東京芸術大学大学院卒業。2003年「カクト」(劇場公開映画)を監督。2008年株式会社「REBIRTH PROJECT」設立。
 

<関連リンク>
・連続対談:伊勢谷友介のREBIRTH論に迫る
第1回 「ネイチャー・センス展」と「REBIRTH PROJECT」が共にする想い
第2回 「復活(REBIRTH)」とは人間が本当の意味で「考える葦」になること
第3回 47都道府県の失われゆく技術にもう一度光を当てる
第4回 俳優、アーティスト、事業家...伊勢谷友介の目指す姿とは?
第5回 白洲次郎を演じるなかで浮かび上がった新たな思い
第6回「ああしたい」「こうしたい」を実現する元気玉プロジェクト(仮)
第7回 何足のわらじでも履いてやる

「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
 日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」

 会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。