2010年11月 5日(金)

何足のわらじでも履いてやる~伊勢谷友介のREBIRTH論に迫る(7)

映画や家具メーカーとのプロジェクトの発展系として、将来は社会全体を包むネットワークの中で「REBIRTH PROJECT」を軌道にのせていきたいと語る伊勢谷さん。今回は、俳優以外に何足のものわらじを履いて活躍する伊勢谷さんの教育に対する熱い思いに迫ります。


「ネイチャー・センス展」の最後に設置されたネイチャーブックラウンジ。「REBIRTH PROJECT」が空間デザインを施した

片岡:伊勢谷さんの俳優としての活動などからも国民からの認知度が上がっていくことで、結果的には「47都道府県で何かやって、マッチメーキングをしていこうとしている」ということがフューチャーされるんじゃないかな。それはもちろん本人が楽しんでいないと多分続かないしね。単なるエゴということじゃなくて、みんな、「あの伊勢谷さんがやっていることだったらやろう」というようなことにつながっていくんじゃないかなと思っています。それは、とても素晴らしいことだなと。

伊勢谷:ありがとうございます。常々、やっぱり僕の中にも、その考えはあったんですよ。僕、自分がやれることをやる、僕がやれないことはほかの人がやればいいと思っているんです。僕は、なんていうかあまりテレビに出ようとしない小難しい俳優になっちゃっていたから、そこまでの効力はないと思うんですけれど、それでも、映像に出ているということで、認知してくださっている方には伝わりやすくなると思う。最初から、そこはちょっとある意味、計算していたというか、僕がやれることをやればいいんだ、と思っていました。
本当は僕もいろいろアートディレクションだったり、そこでガシガシやりたいんですけどね。でもやっぱり、ものが多くなってくると、どうも監修は全部でき切れないから、プロフェッショナルに回そう、となる。その中で、僕がやれることというのは、今の立場があるから、きちんと広報に回ってやって、もともと理念みたいなものをつくっているのは全部僕なので、本人が出るのが一番いいだろうとか。だから、その辺は、気持ちよく割り切っていますね。

でも、おっしゃるとおりで、できる人がやるべきで、そういう機会を持てるのであれば、僕がきっかけになりたい。どんな導入部でもいいので、とにかく興味を持っていただけるように、僕が動けばなるのだったら、そうしたいし、そういう意味でも、これからも俳優も頑張っていきたいと考えています。

ただ、本当にときには、もういろいろやっているから、二足のわらじだの、三足のわらじだのって、そういうふうに揶揄する声もあるんですよ。でも、それって、僕はすごく古~い考え方だと思っていて、1個できた人って2個できると思うんです。だから、もちろん1個に専念する、その美学というのも悪くないと思うし、そういう職業があっていいもと思うんだけれど、僕の場合は違うんだと。俳優って基本、暇なんですよ。そんなに仕事ばかりずっとしていたって、クオリティの高いものは出せないものですから、暇の中で自分を磨いていくという時間もあるし、体鍛えるのもそうだし。

片岡:忙しいときと、そうではないときの波があるということね。

伊勢谷:現場に入るとドーンだし、なくなるとスカーだし。だから、現場がなくなったら、もう何というか、日雇い労働の労働がなくなった人みたいになるんですよね。その時期は何をやってもいいと思うし、たとえばスポーツ選手だって、やはり30才前半ぐらいでピークが終わって、そこから引退して、次の形を見出していったりするでしょう。そういうエネルギーを持てる人たちだから。

片岡:まあ、お相撲さんも引退したら別のことをやるしね。そういう意味では、アイ・ウェイウェイも建築やったり、アートやったり、人権活動やったり、何でもやる人なのね。まあ、ダヴィンチみたいな才能がある人というのは、美術とか、俳優とか、工芸とか、デザインとか分かれていなかった時代には、全部やっていたんだしね。だから、医学にも関係し、美術もやり、建築もやっていた。

伊勢谷:物理的なものもね。飛行機も設計しましたよね。

片岡:そうそう、だから職業別に分ける必要は全然なくて、そういう近代化した社会が分けてしまった、縦割にしてしまったいろいろな表現を、また1つに、いろいろな人がまとめて横断的にやっていく時代なのかという気がする。

伊勢谷:そうですね。それと同時に、やっぱり教育で、その辺の垣根を、ある種なくしてあげるということも必要ですね。

片岡:教育、何とかしたい。私、本当に教育は何とかしたいなと思っている。

伊勢谷:いや、本当、そうですよ。若者に、「夢があるのか、それはどんな職業なのか?」って聞くんですよ、親父、アダルトは。なんだけれど、その問いかけはすごく無駄で、それは逆に彼らの中では窮屈なんですよね。
なぜかというと、職業って人間が勝手につくった仕事を細分化したものだから、夢や能力というのは、そこにダイレクトに当てはめることはできないと思うんですよ。でも、大人がそうやって聞いてしまう。
能力は個人個人で異なるものだから、一番大事なのは、「お前はどういうつもりで、生きていこうと思っているんだ」という、その芯の部分だと思うんです。「今、君はこうやって人に悪いことをした、それでこの人は傷ついて、お前はいい気持ちをしたのか?」ということを、ちゃんと分析して、「じゃあ、次、自分は何をしたいのか?」というのを考えた方がいい。例えば、人を傷つけて生きたいのか、幸せにしたいのか、地球を壊してでも、自分のやりたいことをやっていきたいのか、それとも、守っていきたいのか...。自分の考えの芯の上に知識が乗っかれば、職業なんて簡単に選べるはずなのに...という想いがあります。


「REBIRTH PROJECT」と廣新米穀の共同プロジェクト『RICE475』で田植えをする伊勢谷さん

片岡:多分ね、そのためには若者にロールモデルが必要で、「あの人みたいになりたい」というようなモデルがいることが、今、多分すごく大事なのね。

伊勢谷:まさに、だから白洲次郎ないし坂本龍馬、『龍馬伝』がヒットしているのは、そういうことですよね。

片岡:見られるというのもそうだし、伊勢谷さんみたいな人が、俳優もやりながら、別のビジョンを持った活動をちゃんとしているということとかは、多分、すごく大事なことになるだろうなという気はしているので。

伊勢谷:ああ、うれしい。

片岡:応援しています。

伊勢谷:お願いします。表立って応援してください(笑)。
やっぱり、僕らはアートという分野の中で表現するときに、いろいろ迷っている部分もたくさんあると思うので、そのときはぜひ意見をいただいて、勉強させてください。

片岡:また一緒に何かできることがあれば、引き続き何かやりたいですね。

伊勢谷:お願いします。

片岡:私も47都道府県、回りたいし。海外もいろいろ廻ってるけど、やっぱり自分の立ち位置としての日本のことを中心にアジアや世界を見ることから何かをみつけたいなと、ちょっと思っているので。

伊勢谷:結構、地味っすよ。でも、何かぜひ、そういう美術館の企画にしていただければ。

片岡:最後に来館者の方たちへのメッセージを一言お願いします。

伊勢谷:やっぱり、自然を感じ取る感覚に長けたアーティストが今回の展覧会に招待されて、大きい作品を提案されているので、ぜひそれを、あまりいろいろ複雑に考えずに、ただ単純に感じていただきたいと思います。1つの感動はあると思うし、その中から、自分の自然観を辿っていただいて、今、それぞれの行動の中に少しずつ、その自然に対する思いみたいなものが生まれてきても面白いかなと感じますね。心を無にして「ネイチャー・センス展」を楽しむことが、自分を見つめ直すきっかけになれば素敵なのではないでしょうか。

片岡:すばらしいメッセージ。みなさま、「ネイチャー・ブックラウンジ」もお忘れなく。今日は本当にありがとうございました。

(2010年7月28日、森美術館にて)
 

【伊勢谷 友介】
1976年東京生まれ。1994年東京芸術大学入学後、1997年よりアートユニット「カクト」として制作活動を開始。1999年俳優としての活動も開始。2002年東京芸術大学大学院卒業。2003年「カクト」(劇場公開映画)を監督。2008年株式会社「REBIRTH PROJECT」設立。
 

<関連リンク>
・連続対談:伊勢谷友介のREBIRTH論に迫る
第1回 「ネイチャー・センス展」と「REBIRTH PROJECT」が共にする想い
第2回 「復活(REBIRTH)」とは人間が本当の意味で「考える葦」になること
第3回 47都道府県の失われゆく技術にもう一度光を当てる
第4回 俳優、アーティスト、事業家...伊勢谷友介の目指す姿とは?
第5回 白洲次郎を演じるなかで浮かび上がった新たな思い
第6回「ああしたい」「こうしたい」を実現する元気玉プロジェクト(仮)
第7回 何足のわらじでも履いてやる

「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
 日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」

 会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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