2014年12月26日(金)

「関係性」そのものが作品になる―
「リー・ミンウェイとその関係展」アーティスト・トーク レポート

現在、森美術館で開催中の「リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」(2015年1月4日まで)。展覧会オープン当日の2014年9月20日に行われたアーティスト・トークでは、リー・ミンウェイ本人が自作についてたっぷりと語ってくれました。


リー・ミンウェイ(撮影:御厨慎一郎)

リー・ミンウェイさんは1964年、台中生まれ、14歳のときに渡米、現在はニューヨークを拠点に活動しています。展覧会のタイトルにもあるとおり、ミンウェイさんの作品の多くは「参加型アート」と言われています。一般的な絵や彫刻などの「もの」ではなく、参加した人とのあいだに生まれる「関係性」そのものが作品となるのです。トークでは、10ドル札の折り鶴と電話番号を交換し、6か月ごとにその10ドル札の行方を尋ねる《マネー・フォー・アート》(1994)や、新潟県の越後妻有の一軒家に滞在し、地元の人々をもてなした《アーティスト・アズ・レジデンス》(住人としてのアーティスト)(2006)など、森美術館の展覧会では見ることのできない作品のお話も、たくさん聞かせてくれました。


アーティスト・トーク会場の様子(撮影:御厨慎一郎)

ミンウェイさんのいくつかの作品に共通するテーマは「贈りもの」です。森美術館でも参加することのできる《ひろがる花園》は、ガーベラを観客の皆さまにお持ちいただき、帰り道で偶然出会った誰かに贈り物として渡していただく、という作品。一見とてもシンプルな行動のようですが、実際に挑戦してみると非常に勇気がいるものです。しかし、この作品を通じて見知らぬ人の優しさに、きっと出会うことになるでしょう、とミンウェイさんは言います。花を受け取る人と贈る人の両方に、いつもと違う何かが起こるのです。


花を受け取る人と贈る人の両方に、いつもと違う何かが起こる、《ひろがる花園》(撮影:吉次史成)

「偶然の出会い」もまた、ミンウェイさんの作品の重要な要素のひとつ。予告なく突然行われるパフォーマンス作品《ソニック・ブロッサム》では、黒いチューリップのような衣装を着た歌い手がギャラリー内を歩き、歌の贈り物をするための出会いを探します。もしも今日美術館に来ていなかったら、家を出るのが10分遅かったら。あらゆる偶然を経てたった一人のためだけに、シューベルトの美しい歌曲が贈られるのです。そして歌を受け取った方の感動や拍手もまた、歌い手への贈りものとなるのです。


《ソニック・ブロッサム》は、歌の贈り物をするための出会いを探します(撮影:吉次史成)

「私の作品は、作家が意思を持ち、それを観客に伝える、という従来のアートとは異なっています。何かを伝えたり教えたりするのではなく、皆さんの中にある美しい部分を起こすことができれば、と思います。」と、ミンウェイさんは言います。食事をしたり、手紙を書いたり、誰かに贈り物をしたりといった日常的な行為を、美術館という空間の中に置いてみることによって、それが奇跡的な偶然や、見知らぬ人の優しさに支えられたものであるということに、ミンウェイさんの作品は気付かせてくれるのです。

文:熊倉晴子(森美術館アシスタント・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎、吉次史成
 

<関連リンク>

「リー・ミンウェイとその関係展:
参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」

会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)

「MAMプロジェクト022:ヤコブ・キルケゴール」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)

カテゴリー:03.活動レポート
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