2016年6月28日(火)

アーティストと作品を通して語り合う!
中高生プログラム「アーティストと出会う」レポート

2015年夏「ディン・Q・レ展:明日への記憶」(会期:2015年7月25日[土]-10月12日[月・祝])からスタートした森美術館中高生プログラム「アーティストと出会う」は、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(会期:2016年3月26日[土]-7月10日[日])にて、第2回目を開催しました。様々な学校や学年から、15名の中高生が集まり、東京都現代美術館と森美術館を会場に2日間のプログラムを実施しました。
プログラムの主旨は、「アーティストと対話をし、自分の言葉で語ること、当たり前だと思っていることを作品を通してもう一度考えてみること」。単なる作品鑑賞で終わるのではなく、作品を通して発見した数々のことを日常生活にある自分たちの問題として考え直し、アーティストと一緒に語り合いました。


ホワイトボードの前にたつ小泉明郎さん。展覧会鑑賞のヒントを探ります。

4月29日の第1日目は東京都現代美術館に集まり、まず最初に、「MOTアニュアル2016:キセイノセイキ」展鑑賞上のヒントを、本展展示企画者のひとりである東京都現代美術館学芸員の吉﨑和彦さん、同じく展示企画者で、出展アーティストでもある小泉明郎さん、出展アーティストの藤井光さんに話していただきました。「今皆はどんな規制の中で生活していると思う?」という問いには、校則、法律、マナー、約束等、たくさんの具体例があがりました。その後、自分自身の生活の中にある「キセイ」を意識して、小泉さんと藤井さんと一緒に、展覧会を鑑賞します。


作品の前で小泉明郎さんが解説します。


子どもたちと語り合う、藤井光さん

作品の中で表現されている「キセイ」は何かを重点的に考えながら対話形式で展覧会を観て回りました。藤井さんの《爆撃の記録》(2016)では、「どうして展示物がなくてキャプションだけなんだろう?」「ものを見せてはいけない理由がある?」といった質問に、藤井さんが丁寧に解説してくれました。展覧会を観終わった後も、皆で輪になって、話し合いが続きました。ひとりひとりの感想についてアーティストのふたりがそれぞれコメントを返していきます。戦争と記憶、戦争とルール、記憶の切り取り方、編集について等、話題が尽きません。はじめは緊張した面持ちだった参加者も、だんだんと積極的に意見を述べるようになり、いつもの自分の生活や、作品について思うこと等を興味深く話しているうちに、普段無意識にあった規制やルールに囲まれて生活していることに気付き、あっという間に終了時間になってしまいました。


鑑賞後のディスカッション。


たくさん意見が出るようになりました。

2日目の5月29日は、森美術館の「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」を鑑賞しました。本展担当キュレーターのひとりである当館の荒木夏実の解説と、小泉さん、藤井さんのコメントと共にツアーが行われました。片山真理さんの作品では、自分の身体のことを意外と知らないということ、石川竜一さんの作品の前では人の顔と向き合う緊張感について話をしながら作品を体感していきます。


石川竜一さんの作品の前で。


藤井光さんの作品を皆で鑑賞します。

アーティストがそれぞれ、どのような思いで作品を作ってきたのかを真剣に耳を傾ける参加者の姿が印象的でした。その後のディスカッションでは、「自分が少数派であること、多数派であること」について、学校で何かのリーダーに立候補する、キャラクターが好きではないのは少数派、音楽が好き、スポーツ系の部活から文科系の部活へ移っていくのは多数派等、それぞれ意見を交わしました。中には、テストで良い点数を取ったと思ったら、皆同じような点数で、「少数派であると思っていたことが見方を変えると多数派であった」という意見も出ました。また、長谷川愛さんの作品を通して考えた性的マイノリティであるLGBTについても話題にあがり、自分だけでなく自分の周りの皆も少数派である、と感じることがたくさんあることを意見交換しました。


意見交換にもだんだん慣れてきました。


真剣に、そして楽しそうにディスカッションする皆さん。

この2日間を通して、参加者からは「当たり前だと思っていたことが、他の人にとっては当たり前ではないことが分かった」「いろいろな意見があり、どれも正しい面がある」「今まで展覧会や作品をひとりで鑑賞して、ひとりで完結していたのが、他の人の意見を聞いて考えが深まっていく大切さがわかった」などの感想が出てきました。また藤井さん、小泉さんからは、「日常生活で染みついた習慣、身体化したものを変えるのは難しいけれど、まだ若い皆には様々な体験をしていろいろ吸収して欲しい」という熱いメッセージが送られました。


アーティストと一緒に記念撮影!

日常生活の中で意見をぶつけ合う機会はあまりないかもしれません。作品についても、その他のことについても「こう思う」と発言するのは、勇気のいることで、中高生だけでなく、大人でも「これを言ったら間違っているかも?」と躊躇することはよくあることです。しかし、アートはひとつの正解があるわけではなく、誰もが自由に語り合え、議論を深めていくものでもあります。だからこそ、アートを通して自分の考えを言葉にし、人の意見に耳を傾けるという体験をしてもらいたいと本プログラムを企画しました。中高生とアーティストふたりの感性がぶつかり合うことで、新しい見方や考え方に触れるとても新鮮なプログラムとなりました。今後も新たな可能性を切り拓いてくれる中高生と一緒にプログラムを作っていきたいと思います。

文:高島純佳(森美術館パブリックプログラム)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)

関連展示「MAMスクリーン003:交差する視点―海外アーティストたちが見た日本の風景」
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)

アーティスト×キュレーターによるセッション
「六本木クロッシング2016展」クロストークDay 1をレポート
~毛利悠子、さわひらき、西原尚、ナイル・ケティング、ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ、ジュン・ヤン

アーティスト×キュレーターによるセッション
「六本木クロッシング2016展」クロストークDay 2をレポート
~藤井光、佐々瞬、高山明、ミヤギフトシ、百瀬文、志村信裕、山城大督

アーティストは戦争とどう向き合ってきたのか?
~日本とドイツの場合
「六本木クロッシング2016展」トークレポート

常識を疑い、議論することの大切さを問う
トークセッション「未来の家族-科学と生命の可能性-」レポート

カテゴリー:03.活動レポート
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。