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東京で初!オスカー・ムリーリョのアート・プロジェクトが始動
@港区⽴⻘⼭中学校、港区⽴笄⼩学校、港区立南山小学校

2020.10.12(月)

2020年8月末から9月中旬にかけて、アーティストのオスカー・ムリーリョ(1986年コロンビア生まれ、ロンドン在住)のアート・プロジェクト「フリクエンシーズ」を港区立青山中学校、港区立笄小学校、港区立南山小学校で開始しました。森ビルと森美術館が企画する「まちと美術館のプログラム」と森美術館の企画シリーズ「MAMプロジェクト」のコラボレーション企画として実施しました。

キャンバスに絵を描く青山中の生徒さん

「フリクエンシーズ」は、ムリーリョと政治学者クララ・デュブランが共同ではじめたアート・プロジェクトです。本プロジェクトは、10歳から16歳の子どもたちを対象にしています。数カ月間にわたり、学校の机にキャンバスを張り、子どもたちにとってキャンバスは学校生活の一部となり、自由気ままに絵を描いたり落書きしたり、痕跡を残します。この世代の子どもたちは、身体的にも大きな変化をむかえ、大人へと成長する過程で、社会性を求められるなど、自身を取り巻く環境の変化に心が大きく揺れ動くこともたくさんあるでしょう。同時に、自身の存在を理解したいと願う本能とエネルギーに満ちている時期ともいえます。「周波数」を意味するプロジェクト名のとおり、豊かに震える子どもたちの心のありようが、彼らの絵や言葉などの痕跡となり、机に張られたキャンバスに蓄積していきます。

コロナ禍のため、生徒たちはビデオでムリーリョのメッセージをききました

これまで「フリクエンシーズ」は5大陸、30カ国以上で実施されてきました。参加した学校数は約400校、参加人数はのべ5万人に及びます。近年では、シリア難民の子どもたちを対象に行われました。このように、様々な経済的、政治的枠組を超えながら、キャンバス生地という簡素な素材だけで、世界規模のコミュニティが形成されています。学校単位のネットワークを世界で構築すること、学校という身近な空間から世界へと繋がっていくことも本プロジェクトの趣旨のひとつです。ロンドンにあるムリーリョのスタジオには、世界中から届いた3万枚に及ぶキャンバス生地が保管されています。地域によってキャンバスに書かれる言語が異なるのは当然ですが、色彩の多様さ、絵の規則正しさ、描かれるモチーフなどにも違いがみられます。物資が限られているため、生徒に鉛筆とボールペンだけしか支給されていない学校もあり、その国の豊かさや学習方法の違いも可視化されます。時事ニュースについて言及しているキャンバスもあるなど、地域の社会動向も表象されます。このアーカイブを通して各地域の文化的「周波数」の類似性と差異が見えてきます。

体育館で説明をきく児童たち@南山小

今回、青山中学校では美術室の机にキャンバスを張り、笄小学校と南山小学校ではコロナ禍における「ステイホーム」にも対応できるようキャンバスを張った画板を子どもたちに配りました。参加人数は3校合わせて約300人です。2021年2月まで、各校でプロジェクトは継続される予定です。キックオフのプレゼンテーションでは、来日が叶わなかったムリーリョとデュブランによるビデオ・メッセージを上映し、プロジェクトの趣旨を伝えました。「絵を描くことを難しいことだと考えず、いつも意識していることや、無意識にある感情をそのまま表現してほしい」というムリーリョの言葉どおり、プレゼンテーションの終了後には様々な絵や落書きが躊躇なくキャンバスに描かれていきました。普段は禁じられている落書きという行為が許されたことで、規則を遵守する日本の学校に、それまでなかった新しい光景が表れてくるかもしれません。

これまで「フリクエンシーズ」はヴェネツィア・ビエンナーレ(2015年)、あいちトリエンナーレ(2016年)、クリーブランド現代美術館(米国、2017年)、ヨークシャー彫刻公園(英国、2019)などで発表されています。今回、参加をしている子どもたちのキャンバスは、2021年に森美術館のギャラリーで展示される予定です。

南山小の児童たちがデュブランのビデオ・メッセージに耳を傾けます。

実は、本プロジェクトの準備はコロナ禍以前から始まっていました。緊急事態宣言の発令にともない、学校の臨時休校が全国的に広がったため、プロジェクトの実現が危ぶまれましたが、各学校の先生方のご協力のおかげで実現しました。社会的価値観や慣習、インフラが大きく変動するいまだからこそ「フリクエンシーズ」を実施することに意義があるのかもしれません。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、日々の学習方法、日常的に行われてきた勉強や遊び、子どもたちのコミュニケーションの在り方に変化が生じています。マスクの着用は義務化され、「ステイホーム」を継続する学校もあれば、ノートパソコンやタブレットなどのデジタル機器を教育現場に導入する学校も増えています。このような環境の変化は、どのように子どもたちの感受性に影響を与えるのでしょうか。その様子もキャンバスに記録されていくことを期待しています。

最後になりますが、このような社会状況にも関わらず、本プロジェクトの開催を快く承諾していただいた、青山中学校、南山小学校、笄小学校の先生方、参加してくださっている生徒、児童の皆さんに心より感謝します。

文:矢作 学(森美術館アシスタント・キュレーター)
撮影:田山達之

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