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「日本から海外へ:アーカイブ展示編」レポート

2020.12.24(木)

「STARS展」では作品展示だけでなく、6名のアーティストについての年表や、1950年代から現在にかけて海外で行われた日本現代美術展50選を調査した資料を展示しています。それにあわせラーニング・プログラムでは関連トークを実施しました。

第3回は「日本から海外へ:アーカイブ展示編」。10月30日には光山清子氏(インディペンデント・リサーチャー)がロンドンから、10月31日には冨井玲子氏(研究者)がニューヨークから参加し、ウェビナーで森美術館館長の片岡真実と対談しました。どちらもイントロダクションとして片岡が「日本の現代美術はどのように海外に紹介されたのか」の調査について発表するところから始まります。

トーク「日本から海外へ:アーカイブ展示編」(全2回)の動画はこちらからご覧ください:

第1回「日本の現代美術はどのように海外に紹介されたのか」(10月30日)
第2回「日本の現代美術はどのように海外に紹介されたのか」(10月31日)

当日の資料より
当日の資料より

光山氏との対談は、ロサンゼルス・カウンティ美術館と原美術館の共催によって1990年からアメリカを巡回した「プライマルスピリット:今日の造形精神」展を中心に行われました。「STARS展」のアーカイブ展示でもとりあげている本展は、ハラ ミュージアム アーク(群馬)を皮切りにアメリカ・カナダの4都市を巡回したもので、ロサンゼルス・カウンティ美術館のハワード・N・フォックスがキュレーターを務め、原美術館の学芸員だった光山氏はアシスタント・キュレーターとして展覧会開催業務に携わりました。

当時の欧米では、日本現代美術は西洋の模倣であるという見方が強かったと光山氏はいいます。1965年からニューヨーク近代美術館の企画で8都市を巡回した「新しい日本の絵画と彫刻」展に対して同様の批評がなされ、その影響が続いていたのではないかと説明します。フォックスはこうした状況に対し、日本の固有性を示そうと、展覧会では80年代の彫刻やインスタレーションの動向を取り上げ、それらの作品を「自然や素材に内在する力と直接的に関わるもの」として打ち出します。光山氏は展覧会のヴィジュアル・プレゼンテーションは成功した一方、土着的なものに「日本らしさ」を見出す本質主義的なキュレーターの見方には批判もあったと当時を振り返ります。

光山氏は1992年に渡英し、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツで欧米における日本現代美術の受容を研究、その後同研究を元にした『海を渡る日本現代美術―欧米における展覧会史1945~95』(勁草書房、2009年)を出版します。「STARS展」のアーカイブ調査でも多くを参照した本書ですが、この本の重要な部分を成しているのが、同時期にアメリカ7都市を巡回し、同じく80年代の日本現代美術を紹介した「アゲインスト・ネイチャー:80年代の日本美術」と「プライマルスピリット」展との比較です。

「プライマルスピリット」が神道・禅仏教的な観点から自然の素材を取り入れた作品を中心に紹介したのに対し、「アゲインスト・ネイチャー:80年代の日本美術」展は、日本の都市文化が持つ、折衷主義的なダイナミズムを肯定するものでした。光山氏はふたつの展覧会を対比したうえで、共通するものとして「近代の不在」があったと指摘しました。

片岡は当時、両展覧会について米国では多くのレビューが書かれていたことに言及し、イギリスにおける日本美術の受容について質問します。光山氏は「ひとつのピークに達したと思う」と答え、日本への注目が結実した早い例として、国際交流基金と英国ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの共催による1981年の「江戸大美術展」を挙げます。ただ日本はその後、定期的に現代美術展で紹介される一方、バブル崩壊や神戸の大震災などを経て、国際的な存在感が弱くなり、80年代日本美術についての「近代」を巡る議論は、学術的なレベルでは深まらなかったのではないかと研究活動を続ける問題意識を話しました。それに対し片岡は、その後現在まで政治的な背景、文化的な文脈から作品を解釈する考えが広がったと前置きしたうえで、「今改めて80年代の日本現代美術を振り返ることで、他国との自然観や宗教観についての対話が可能になるのではないか」と議論を締めくくりました。

10月30日のウェビナー収録の様子 撮影:田山達之
10月30日のウェビナー収録の様子
撮影:田山達之

10月31日のウェビナーでは、富井玲子氏が「需要」というキーワードを元に、自身の歩みを振り返りました。富井氏は1988年にテキサス大学オースティン校の美術史学博士課程を修了。非西洋圏の動向を扱い、デジタルアーカイブと展覧会開催のふたつの軸を持つ国際現代美術センター(CICA)が発足し、戦後アメリカ美術を専門にした留学生として研究員となったことは「ほぼ奇跡だった」と述べました。アレクサンドラ・モンローがキュレーターを務め、1994年から横浜美術館、グッケンハイム美術館ソーホー館をはじめアメリカを巡回した「戦後日本の前衛美術:空へ叫び」展のカタログでアンソロジーなど資料編を編纂したことをきっかけに、以降も戦後の日本美術の研究に取り組むことをと決心したと振り返ります。

1999年には「グローバル・コンセプチュアリズム」展(クイーンズ美術館)の、2001年には「センチュリー・シティ」展(テート・モダン)のゲストキュレーターを務めます。2003年には手塚美和子と戦後の日本美術史研究を扱うグローバルな学術メーリングリスト・グループ「ポンジャ現懇」(Post-Nineteen forty five Japanese Art Discussion Group / 現代美術懇談会の略)を立ち上げ、その後も精力的に研究を続けます。日本戦後美術を国際的な議論に根付かせるために、学術研究、美術館収集、市場の「三位一体」を意識していると強調しました。

こうした20年近い富井氏の研究が結実した単著『Radicalism in the Wilderness: International Contemporaneity and 1960s Art in Japan(荒野のラジカリズム―国際的同時性と日本の1960年代美術)』(MIT press、2016年)は、2019年にニューヨークのジャパン・ソサエティ・ギャラリーでの展覧会となります。作品の国際的同時性と地域固有性という側面をどのように展覧会で提示するのか。富井氏は、京都・鷲峰山に丸太材で一辺約20メートルの三角塔を建て、雷が落ちるのを10年間待つザ・プレイの《雷》(1977年-1987年)を具体例として紹介します。同年にはニューメキシコでウォルター・デマリアが同じく雷を作品にした《ライトニング・フィールド》を発表しています。富井氏はそれに対するザ・プレイの独自性を解明するために、そこに至るまでの作品の流れとともに、10年間のポスターやビデオで紹介し、またメンバー自身が肉体労働で三角塔を作り上げる様子をとらえた現場写真を展示したと話しました。

ある活動が次の活動を呼び込むような富井氏の歩みを「ダイナミックな人生」と表現した片岡は、2010年代以降にアメリカで学術研究、美術館収集、市場の観点から日本の戦後美術に注目が集まった事例に触れ、その後の状況について質問します。富井氏は国際同時性に注目したのはイギリスのテート・モダンが先駆的だったとしながらも、メトロポリタン美術館でジャクソン・ポロックと白髪一雄が並置されるなど、アメリカでも根付いてきた実感があると答えました。続けて、富井氏が「荒野のラジカリズム」展で注目した、都会に対する「地方」について、「グローバル・コンセプチュアリズム」展を例にやりとりが行われます。また改めて書籍を展覧会にすることについて話題が及ぶと、富井氏は実際の作品が目の前にある展示だと本とは作品解説の内容が変わりより具体的になること、地味な展示にならないようジャパン・ソサエティの展示チームと一緒に工夫したと話しました。そして視聴者からの質問をきっかけに、作品の表面的な外観以外の文脈を伝えることがいかに重要か、特に国際的に活躍しているオノ・ヨーコを日本人作家とみなすのか、という質問を例にとり、作品に「日本的な表象」を見るのではなく、背景にある社会的・政治的・歴史的な文脈を具体的に読み解いていくことが必要と強調しました。

最後に今後の展望について、富井氏は、ひとつは全国的な学園運動に呼応し、1969年に多摩美術大学の学生により結成された「美共闘」(美術家共闘会議)についての調査研究をまとめたいと返答。また新しい知見を盛り込んだ「戦後日本美術の教科書」を作り、次世代の研究者を育てたいと話し、それに対し片岡は「ワールドアートヒストリーの範囲が広がり全貌が見えなくなっていく。それを横断し、響き合うストーリーを作り、美術界全体で次世代に伝えていきたい」と対談を締めくくりました。

文:飯岡 陸(森美術館)

「STARS展」アーカイブ展示
「STARS展」アーカイブ展示

■関連動画、レポートはこちらからご覧ください:

トークセッション

第1回「日本から海外へ:アートマーケット編」:動画、レポート
https://www.mori.art.museum/jp/mamdigital/03/#stars_ts
https://www.mori.art.museum/jp/news/2020/11/4463/

第2回「⽇本から海外へ:展覧会 欧米編」:動画、レポート
https://youtu.be/lIozyDapboI
https://www.mori.art.museum/jp/news/2020/12/4524/

第3回「日本から海外へ:展覧会 アジア編」:動画
https://youtu.be/NTT1x6sh0F4

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