2016年9月 1日(木)

「実はわたしたちは宇宙の中にいる」
――ビョーン・ダーレム
宇宙と芸術展 アーティストトーク レポート

7月30日(土)、「宇宙と芸術展」(~2017年1月9日)の開幕日に行われたアーティストトークは来日した出展アーティストが、展示室内で自作と宇宙との関係性について語りました。各アーティストのトーク内容をレポートします。

ビョーン・ダーレム

10歳の頃から宇宙や宇宙旅行に関心を抱き、その後、宇宙科学論や物理学に興味を持つようになったというビョーン・ダーレム。宇宙は地球の外にある大きなものと思いがちですが、実はわたしたちは宇宙の中にいるというスタンスに立ち、昔の人が風景画を描いたように、ダーレムは自分が好きなブラックホールの景観を、想像力を使ってインスタレーションとして表現しています。ブラックホールの見えない大きな吸引力の神秘を、そのまわりを取り囲む軌道で表現することによって視覚化しているのです。

コンラッド・ショウクロス

大型のインスタレーションである《タイムピース》は、秒、分、時針が正確に時を刻む時計の作品です。時計の針の役割のアームには、照明がついていて、アームが移動することによって美しい影が部屋に落とされます。時計はとてもありふれたものですが、コンラッド・ショウクロスはそれが全く異なるかたちになっていたかもしれないと考え、人類が刻んできた時を想いながら作品を作りました。また、影が一直線に重なる時は日食や月食などの宇宙の現象を表しています。影によって人類が時空の中の位置を見つけてきたということも追体験できる装置となっています。時計という本来合理的なものが、この作品は合理的でないかたちになっています。それは他のものにおいても慣れ親しんだものが異なるかたちだったかもしれないと、視点の変換を促しています。

セミコンダクター

セミコンダクターはジョー・ゲルハルト(写真右)とルース・ジャーマン(同左)が1997年に結成し、約20年間活動を続けています。彼らは「科学は人間が創出したものであり、自然が現実である」というスタンスで科学データに疑問を投げかけるところから作品制作を出発させています。《ブリリアント・ノイズ》はNASAの協力を得て、カリフォルニア大学の宇宙科学研究所で行われた作家招聘プログラムで制作されました。わたしたちが普段目にする色鮮やかな太陽の画像はさまざまな加工が行われたものだそうですが、彼らは太陽を撮影したローデータ(raw data)、つまり本来の生の画像データを使って本作を制作しています。ローデータは実はモノクロのため作品には色がなく、(音は)太陽が発する周波数をもとに音を創りだし、光の輝度、イメージと組み合わせ、本作が作られています。

ジア・アイリ(贾蔼力)

「《星屑からの隠遁者》は大きな油彩画であり、絵の中には稲妻、宇宙服を着ている姿の人、球体のオブジェなど複数のモチーフが重なりあい、ひとつの風景画のように見えるが、時間的空間的なものは存在しない」と解説したジア・アイリ。絵画は作家の宇宙観を表しており、人々の精神世界や想像力を描いたものであるといいます。人それぞれの宇宙観は異なり、それは宇宙のなかではごく小さいことであると語った作家が印象的であり、宇宙の壮大なスケールやエネルギーに対して彼が畏敬の念を抱いていることを感じられるトークでした。

パトリシア・ピッチニーニ

25年間作家活動を続けているというパトリシア・ピッチニーニ。本人は何が自然で何が人工的であるのか、という定義には興味がなく、どのように科学、特に遺伝子工学がその定義を変えていくのかに興味を持っています。つまり、人間が人間であることの定義とは何かを常に考えてきました。《ザ・ルーキー》はサッカー靴の底、アルマジロ、女の子の3つの物または生物を組み合わせた彫刻作品で、可愛らしいようでモンスターにも見えます。今後の自然環境の変化において偶発的な進化(エボリューション)と技術革新による進化のどちらが良いのかはわからないというピッチニーニの言葉に、生命の科学を考えさせられました。

マリア・グルズデヴァ

本作はロシア宇宙産業において象徴的な2つの場所、スターシティとバイコヌール宇宙基地で撮影されたものです。スターシティは1960年代から宇宙飛行士が訓練を受けてきた地で、現在も軍事研究センターとして利用されています。バイコヌールは現在もロケット発射台として世界最大の規模です。両都市とも冷戦の終結までは秘密裏の自立都市でその全貌は明かされてこなかった場所ですが、グルズデヴァはこの2つの都市に合計1年半滞在し、過去のアーカイヴ資料を見て、現地の人々と交流し、いままであまり外に知られてこなかった彼らの日常を写しました。写真は一見古めかしく日常風景を切り取っただけのようですが、同時に宇宙に旅立つ前の準備をする未来的な場所であることを表しています。また、日々の生活が大きな目的のために時を刻み、脈々と続く冷戦時代からの宇宙開発の精神がいまだに流れていることがわかります。グルズデヴァには彼女の祖父が1960年代にバイコヌールで発射台の開発に関わっていたという個人的な繋がりがあり、両都市での滞在は彼女の過去と現在をつなぐ体験でもあったそうです。


左から:ルース・ジャーマン(セミコンダクター)、椿玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)、マリア・グルズデヴァ、ビョーン・ダーレム、パトリシア・ピッチニーニ、ジョー・ゲルハルト(セミコンダクター)、ジア・アイリ、コンラッド・ショウクロス

文:高橋美奈(森美術館コーディネーター)
撮影:御厨慎一郎

※当日、アーティストトークをライブ中継しました。その様子を以下からご覧いただけます。 ビョーン・ダーレム:https://www.periscope.tv/w/1RDxlkRLbQEJL
コンラッド・ショウクロス:https://www.periscope.tv/w/1OyKAbovOpaGb
セミコンダクター:https://www.periscope.tv/w/1yNGaePnOZdGj
ジア・アイリ:https://www.periscope.tv/w/1ypJdPXoqeaJW
パトリシア・ピッチニーニ:https://www.periscope.tv/w/1gqxvBqRbQwxB
マリア・グルズデヴァ:https://www.periscope.tv/w/1DXGylrojMEKM
 

<関連リンク>

宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月)
宇宙科学が発達する以前の世界観とは?
「宇宙と芸術展」トークセッション「知と宇宙観をめぐる旅」レポート

カテゴリー:03.活動レポート
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