2017年3月29日(水)

ART & LIFE:N・S・ハルシャと未来を描く子どもたち

前回の森美術館が開催したラーニング・シンポジウム、ラーニング・ウィークの紹介につづき、今回は現在開催中の「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」でのラーニング・プログラムの取り組みについてご紹介します。


1月30日、子どもたちが六本木ヒルズに集結

2月4日(土)から6月11日(日)まで開催中の本展は、南インドのマイスール在住のアーティスト、N・S・ハルシャの世界でも初となる大規模な個展です。国際的にも注目を浴びるインドの現代アートを代表するアーティストの約20年の制作活動をご覧いただけます。

多彩な彼の作品表現は、展覧会チラシやポスターに使用されている絵画作品やインスタレーションだけではなく、世界各地の子どもたちといっしょにワークショップを行い、地域社会に密着した共同制作も行っています。本展開催に際し、ここ東京でも六本木ヒルズ周辺に住む地域の子どもたちを対象にしたプロジェクトを開催するべく、ハルシャとともに企画を進めてきました。現代アートにまだふれたことがない子どもたちに、ワークショップをとおして、私たちと同じ時代を生きるアーティストの社会の見方を知り、考えを聞き、自分の言葉でアーティストと対話する体験してもらいたい、そのような思いで美術館の外に出てラーニング・プログラムを企画しました。


ハルシャの話をきく南山小学校の生徒たち。

本展覧会では、子どもたちと「未来」について考えるワークショップ「フューチャー:未来の夢」(1月中に開催済、展示作品として公開中)と「夜」について考えるワークショップ「ナイト・ジャーニー:夜への旅」(4月22日(土)、23日(日)開催、申し込み受付中)を展覧会関連プログラムとして実施しますが、ここでは「フューチャー」の様子をレポートします。

展覧会オープン前の1月下旬、共同制作に賛同してくれた港区立御田小学校の5、6年生、港区立南山小学校の1、2年生の総勢100名以上の小学生が、ハルシャと一緒に子どもたちが考える「未来」について考え、真っ白な大人サイズのシャツに思い思いの未来を描きました。1、2年生の子どもたちにとって、大人になった自分を想像するのはまだまだ遠い先の出来事。なかには「今日食べる給食」について考えた子どももいたり、「大人になって会社で働くようになったら、今の(1年生の)クラスのみんなのことを忘れてしまうかもしれない、大人になっても忘れないようにシャツにみんなのことを描きたい」と友達の顔を描く子どももいました。6年生では、2020年の東京オリンピックの開催についてや、自分の会社を起業したときの会社のロゴマークを描く子どもいました。


ハルシャと一緒に考え、真っ白なシャツに「未来」を描きました。


御田小学校体育館がアトリエに早変わり。

ワークショップ開催1週間後の1月30日(月)、完成した「未来」シャツを着た小学生たちが六本木ヒルズに再集結。当日の東京は4月上旬並みの暖かさにめぐまれ、「未来」を身にまとった総勢100名以上の子どもたちは、ハルシャと事前に練習をしたように、大きな声で「未来!」「未来!」と大きなシュプレヒコールをあげながら六本木ヒルズのなかをパレードしました。スーツ姿の大人たちが通勤する慣れない街中で、最初は子どもたちの「未来」の主張は控えめでしたが、みんなで声を一緒にあげることで自信が出てきたのか、途中からボリュームアップ!子どもたちが叫ぶ「未来」の声に、月曜の朝の出勤で俯きがちな大人たちも思わず足を止めていました。子どもたちのポジティブな「未来への夢」溢れるパレードによって、いつもの日常とはちょっと違った風景に出合わせた人たちの思わずほほ笑む姿はとても印象的でした。


「未来!」と元気に声をあげる子どもたち。

森美術館ラーニング・チームは、美術館の内外で、時には近隣の小・中学校の教育機関や地域に根差した活動を展開するNPOなどと連携し、さまざまなバックグランドをもった人たちに寄り添いながら、現代アートの世界を体験できるラーニング・プログラムを今後も展開していきます。

文:白木栄世(森美術館アソシエイト・ラーニング・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

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森美術館 ラーニング
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N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅
会期:2017年2月4日(土)-2017年6月11日(日)

カテゴリー:03.活動レポート
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