2011年10月31日(月)

なぜ、今メタボリズムなのか?サスティナブル社会の実現へ向かう現代。―レム・コールハース×南條史生(2)

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」のシンポジウムのために、来日したレム・コールハースを迎えて、森美術館館長の南條史生とのクロストーク形式で行ったTSUTAYA TOKYO ROPPONGIでのスペシャル・トークイベント。
Tokyo Art Beat による5回連載スペシャル・トークイベントレポートの2回目をお届けします。
 

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縮小に向かう日本にとって、メタボリズムは過去のものか?

トーク中、コールハース氏は、メタボリズムへの関心が、現在建築が置かれている状況に関しての戸惑いに起因していることをくり返し強調している。しかしながらそれはある種、懐古主義的な振る舞いとして受け止められる可能性もあるのではないか。その疑問は、南條氏からも投げかけられた。経済社会の急速な発展拡大とともに登場したメタボリズムは、もはや縮小に向かっている日本のような社会では過去のものになってしまった、という見方もある。これについてコールハース氏はどう考えているのだろうか?


黒川紀章《中銀カプセルタワービル》 1972年  東京  撮影:大橋富夫


黒川紀章《中銀カプセルタワービル》 1972年
"「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景"
撮影:渡邉 修

運動を始める時というのは、犯罪と似たようなもので、必ず動機が必要になります。そしてその動機に説得力があればあるほど、犯罪も運動も成功する。メタボリストたちが自分たちの運動の動機づけに 〈新陳代謝〉 という隠喩を用いたのは、ここはどうしても生物学でいかなくてはならないんだ、というメッセージを差し出すためで、素晴らしい選択だったと思います。

例えば、黒川紀章の仕事を見てみると、彼はメタボリズムを、もっと大きなプロジェクトに手を広げようといった直線的な押しとして考えたのではなく、生物学的レベルでものごとを変えていこうという意志が読み取れるのです。そして、現在注目されている、どのように自然を使うか、そして建築がいかにサスティナブルであり得るのかといった問題について、彼は鋭い考えをたくさん提示したと思います。

しかし、ここで注意して頂きたいのは、先進国側である世界の半分は確かに停滞しているかもしれませんが、残りの半分の国々は急速な成長を遂げ続けているということです。つまり、成長に対応する方法を考えることは今も喫緊の問題であるとはいえ、同時にそれを真に生産的な方向に導かなくてはならない。そんな時、メタボリズムのような動きに注目するのは重要なことだと思うのです。

3.11の東日本大震災以後、何らかのかたちでの大規模な再建が求められる日本で、この発言を聞くと、躊躇のようなものが感じられる。それは、メタボリストたちが寄与した、国家の変革や建設といった話題がここで展開されなかったからかもしれない。
この躊躇の正体は、何なのか。それは、現在の日本で何ができるのかを考えていく上でも重要になってくる。 次回は、新刊『Project Japan』を紹介しつつ、その正体に近づいていきたいと思う。
 

<関連リンク>

・レム・コールハース×南條史生

第1回 なぜ、今メタボリズムなのか?
現代から、メタボリストたちの時代を振り返る

第2回 なぜ、今メタボリズムなのか?
サスティナブル社会の実現へ向かう現代―縮小に向かう日本にとって、メタボリズムは過去のものか?

第3回 メタボリズムと政治
真のアーキテクトは、政治家・官僚? 現在の日本で何ができるのか

第4回 建築の現在とその問題
コールハースは〈建築の限界〉を感じているのか

第5回 建築の現在とその問題
政治と建築家が恊働した時代から、 「わたしたちの未来都市」を考える

TOKYO ART BEAT

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)
出版記念 スペシャル・トーク開催

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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