2011年11月 4日(金)

メタボリズムと政治-真のアーキテクトは、政治家・官僚?現在の日本で何ができるのか レム・コールハース×南條史生(3)

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」のシンポジウムのために、来日したレム・コールハースを迎えて、森美術館館長の南條史生とのクロストーク形式で行ったTSUTAYA TOKYO ROPPONGIでのスペシャル・トークイベント。
Tokyo Art Beat による5回連載スペシャル・トークイベントレポートの3回目をお届けします。
 

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書籍『Project Japan』は、9つのインタビューと、それらに挟まれるように配置された、コールハース氏独自のメタボリズムの解釈や、メタボリズムを読み解く際に鍵となる出来事やテーマについての9つの章で構成されている。この回では書籍の特色に注目するとともに、そこから伺えるコールハース氏の着眼点である「メタボリズムと政治」の関係について考えていく。


レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)出版記念 スペシャル・トーク風景
写真:御厨慎一郎

インタビューは、2005年にこの本の制作に着手したそもそもの理由で、メタボリストたちがまだ健在であるうちに、その肉声を記録すべきだ、との危機感がコールハース氏のひとつの原動力となった。これは、日本の建築運動を記述し歴史化していくことを一つの目的とする展覧会がこのタイミングで開催された理由とも直結する。
話しの聞き手としては、コールハース氏だけでなく美術評論家・キュレーターであり、おびただしい数のインタビューを行なってきたことで知られるハンス・ウルリッヒ・オブリストも参加している。 インタビューの内容は、従来の建築家が作品について語るようなものではなく、よりメタボリストたちやその周辺の人たちの生活や人間関係などに焦点をあてたものだ。そこには、「建築」が発生する文脈を把握し、より立体的な理解を得ようとする、コールハース氏の姿勢が明確に表れている。象徴的なのは、丹下健三のご遺族に対してのインタビューだろう。


キャプション:東京大学丹下健三研究室《東京計画1960》 1961年  撮影:川澄明男
画像提供:丹下都市建築設計
丹下氏がいなければ、メタボリズムは生まれなかったとコールハース氏は語る

トーク中、コールハース氏は「丹下さんは単に建築家として際立っていたというよりも、自分の生活、教育、仕事、政治をシームレスにつなぎ、若い建築家たちのインキュベーターのようなものを作り上げた人物として、比類のない存在」と評価した。彼の仕事を理解するために、家族の視点が不可欠だと考えたのだ。

この本でもう一つ特徴的なのは、国土事務次官を歴任した下河辺淳氏へ、インタビューを行っている点だ。多くの国土計画立案に関与した官僚で、メタボリストたちと深く関わりがありながらも、そのことで脚光を浴びることは少ない。3年に渡り2度のインタビューを行い、その頃の日本に存在した、建築と政府のつながりにスポットをあてた。このつながりが、メタボリズム運動の強さの、一つの大きな要因であるとコールハース氏は考える。

下河辺さんと政府は、日本の姿の新しいビジョンを持っていました。それは(災害が多いなどの)土地の脆弱性、国土が限られている点といった日本固有の物理的な弱点に基づいて築かれたものでした。下河辺さんは、こういった弱点を逆手にとって日本を生まれ変わらせることを志向し、メタボリストたちは、彼と政府によって描かれたプロジェクトの脚本に沿って自分たちの役割を果たしたともいえます。

日本政府は事実上、建築家を強力なスポンサーとして後押ししただけでなく、何人かの建築家を「生み出した」とさえ言っていいのではないかと思います。この本が『Project Japan』というタイトルなのもそういう理由です。

これは、真のアーキテクトは、政治家・官僚であって、建築家はその駒に過ぎないという挑発的な発言なのだろうか。トークイベントにおいて南條氏は、この疑問に別の角度から光をあてるように次の問いを投げかける。
「コールハース氏は、メタボリズムを政治と建築家の幸せな関係の象徴的な例として見ているのか?」

政治にも、さまざまな問題があるのは知れたことです。しかしそれでもメタボリズムの先例は、明確な政策をもった政府があって、その政府が政策を遂行するためのアクターとして建築家を使う意思をもっていると、強力な体制を築くことができるということを示していると思います。

トーク中、「丹下なしには、メタボリズムもなかった」とコールハースが話していることを忘れてはならない。事実、下河辺淳は丹下研究室のOBであり、もともと丹下の周辺に優秀な才能が集まっていなければ、下河辺氏が彼らにアクセスできることもなかっただろう。しかし、この返答は、 国家を形成していくといったスケールのプロジェクトに建築家が貢献するためには、やはり強い政府の主導が不可欠であると示唆しているように読める。
では、コールハース氏は、なぜ第1回で紹介した、メタボリズムの現在的な意義に対しての質問への返答で、こういった話題に触れなかったのか。それが、次回に明らかになる。
 

<関連リンク>

・レム・コールハース×南條史生

第1回 なぜ、今メタボリズムなのか?
現代から、メタボリストたちの時代を振り返る

第2回 なぜ、今メタボリズムなのか?
サスティナブル社会の実現へ向かう現代―縮小に向かう日本にとって、メタボリズムは過去のものか?

第3回 メタボリズムと政治
真のアーキテクトは、政治家・官僚? 現在の日本で何ができるのか

第4回 建築の現在とその問題
コールハースは〈建築の限界〉を感じているのか

第5回 建築の現在とその問題
政治と建築家が恊働した時代から、 「わたしたちの未来都市」を考える

TOKYO ART BEAT

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)
出版記念 スペシャル・トーク開催

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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