2011年11月11日(金)

建築の現在とその問題-建築の現在とその問題-政治と建築家が恊働した時代から、「わたしたちの未来都市」を考える レム・コールハース×南條史生(5)

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」のシンポジウムのために、来日したレム・コールハースを迎えて、森美術館館長の南條史生とのクロストーク形式で行ったTSUTAYA TOKYO ROPPONGIでのスペシャル・トークイベント。
Tokyo Art Beat による5回連載スペシャル・トークイベントレポートもいよいよ最終回です。
 

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コールハース氏は、いま、社会における最終的な権威を握るのは、政治ではなく市場経済を動かす民間企業であり、それが建築家が担える課題に制約を与えていると話し、政治や公共部門が力を取り戻さなくてはならない、と唱えている。
しかし、氏にとって、市場経済が蝕んだものは、政治の力だけではない。より個人的なレベルでも、一人の建築家として困惑している。


レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)出版記念 スペシャル・トーク風景
写真:御厨慎一郎

現代の建築家は、そうしたくないときでさえ自分について語ることを求められ、誇大妄想的に膨張したエゴの世界に閉じこもりがちがちです。そして、国際的に仕事をする建築家にとっては、自国とのつながりも完全になくなっています。今、「フランス人の建築家」と言っても、もはや何のことかわからない。しかし、日本の建築家と言えば、そこにはまだ明確な個性や意味があるんです。

本書の発刊にあたって、それがなぜそうなのかを考えるのは非常に面白かったですね。


菊竹清訓《海上都市 1963》 1963年/1980年代(模型)
制作:植野石膏模型製作所 885 x 620 x 620 mm 所蔵:菊竹清訓 画像提供:菊竹清訓


"「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景"
撮影:渡邉 修

市場経済によって政治が無力化され、自分の文化との接点を絶たれた現在の建築家たちは、メタボリストたちのように、ネーション・ビルディング(国家の建設)といったスケールの仕事はできなくなっている。このような認識が、コールハース氏に「メタボリズムは過去のものになってしまったのではないか?」という問いへの返答をする際に、その理念が日本の再建へ貢献できると述べることを「躊躇」させたのではないだろうか?

前述した氏の発言は、市場経済や消費文化の意義を直視した上での扇動的とさえ言っていいような発言をしてきた過去の氏とは明らかに立ち位置が変わってきていることを示唆している。事実、トーク中にも「80-90年代の自分には、中立な立場とかモラルを無視した立場が取れたわけですが、それは誰もが批判ばかりしている中ではすこぶる建設的な効果があったからだと思うんです。でも今は、状況が変わってきましたね」と発言している。

しかし、氏は決して戦意を喪失したわけではない。

政治と建築家が力を合わせて事に当たったのは、メタボリストたちの時代が最後だったと思います。ですから、現在の状況とは根本的に違う彼らの時代から現在を見つめてみると、それはどのように映るのか。そこに興味がありました。

メタボリズムを通して現在を読み解き、今の可能性と方向性を探っていくこと。その作業は、わたしたちの未来を考えるため、未来を考える想像力を再度培うために不可欠なことだろう。同時期に発表される書籍『Project Japan』と、森美術館の展覧会は、そのための土台を提供し、今こそ必要とされる発見と行動をわたしたちに促している。

文:松山直希(Tokyo Art Beat ライター)

編集:吉岡理恵、ウィリアム・アンドリューズ(Tokyo Art Beat
 

<関連リンク>

・レム・コールハース×南條史生

第1回 なぜ、今メタボリズムなのか?
現代から、メタボリストたちの時代を振り返る

第2回 なぜ、今メタボリズムなのか?
サスティナブル社会の実現へ向かう現代―縮小に向かう日本にとって、メタボリズムは過去のものか?

第3回 メタボリズムと政治
真のアーキテクトは、政治家・官僚? 現在の日本で何ができるのか

第4回 建築の現在とその問題
コールハースは〈建築の限界〉を感じているのか

第5回 建築の現在とその問題
政治と建築家が恊働した時代から、 「わたしたちの未来都市」を考える

TOKYO ART BEAT

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)
出版記念 スペシャル・トーク開催

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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