2011年11月 9日(水)

建築の現在とその問題-コールハースは〈建築の限界〉を感じているのか レム・コールハース×南條史生(4)

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」のシンポジウムのために、来日したレム・コールハースを迎えて、森美術館館長の南條史生とのクロストーク形式で行ったTSUTAYA TOKYO ROPPONGIでのスペシャル・トークイベント。
Tokyo Art Beat による5回連載スペシャル・トークイベントレポートの4回目をお届けします。
 

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現代の建築界が抱える課題を挙げ、日本において、政治と建築家が恊働したメタボリストたちの時代から、建築の現在とその問題ついて考えていく。 国家を形成していくという作業(ネーション・ビルディング)といったスケールのプロジェクトに建築家が貢献するためには、やはり強い政府の主導が不可欠であると示唆するかのようなコールハース氏。氏は、現在でもそれが可能だと考えているのだろうか?もし、そうでないとしたら現在の建築が抱える問題とは何なのか?


レム・コールハース氏
撮影:御厨慎一郎

書籍『Project Japan』の中で、コールハース氏は、メタボリストたちとマスメディアの関係について、一つの章を設けている。NHKの特別番組で『東京計画1960』を発表した丹下健三や、NHKの解説委員を15年間も続け、週刊誌にもひんぱんに取り上げられた黒川紀章などを筆頭に、メタボリストたちは、メディアを通して、社会的認知の低かった建築家像を刷新した。
コールハース氏は、それを「建築の分野を超えて、建築家が担える役割というものを新しく生み出した」と表現し、それに「わたし自身、建築の限界を常に意識している」と付け加えた。南條氏は、この「限界」という言葉に反応した。

「今、コールハース氏が感じている建築家の限界というのは何なのか?そして民主主義についてはどう考えているのか?」

民主主義と建築が両立し得ないとは考えたくありません。しかし、 過去30年間の根本的な変化として、市場経済がさまざまな事柄を決定する最終的な権威として、世界中で受け入れられ、消費者が舞台の前面に出てきたわけです。現在、建築家は、主に民間企業をクライアントとして働いていて、それは建築が担える課題の範囲を決定的に狭めています。
経済の原動力を、民間セクターが握っているため、市場経済に対して主導権をもっていない政府は、格段に弱くなってきています。政策を練るための投資をすることもできず、国民からの支持率に翻弄されるようになっています。公共セクターは、力を取り戻さなければなりません。今は、実行力が全くないにもかかわらずすべての責任を負わされている、という悲劇的な状況にあります。政府が弱いため、その弱さに惹かれる人たちだけが政府に集まってくる、ということになるわけです。


"「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景"
撮影:渡邉 修
 

<関連リンク>

・レム・コールハース×南條史生

第1回 なぜ、今メタボリズムなのか?
現代から、メタボリストたちの時代を振り返る

第2回 なぜ、今メタボリズムなのか?
サスティナブル社会の実現へ向かう現代―縮小に向かう日本にとって、メタボリズムは過去のものか?

第3回 メタボリズムと政治
真のアーキテクトは、政治家・官僚? 現在の日本で何ができるのか

第4回 建築の現在とその問題
コールハースは〈建築の限界〉を感じているのか

第5回 建築の現在とその問題
政治と建築家が恊働した時代から、 「わたしたちの未来都市」を考える

TOKYO ART BEAT

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト共著
『Project Japan: Metabolism Talks・・・』(英語版)
出版記念 スペシャル・トーク開催

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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