2012年1月 6日(金)

「世界デザイン会議」とメタボリズム 「メタボリストが語るメタボリズム」(4)

1950年~60年代にメタボリストらによって発表された数々のプロジェクトを受けて、1960年5月11日から16日の5日間、国内初となる「世界デザイン会議」が開催されました。本シンポジウムでは、「世界デザイン会議」開催までの道のりが明かされました。
[出演者:栄久庵憲司(インダストリアル・デザイナー)、神谷宏治(建築家)、菊竹清訓(建築家)、槇 文彦(建築家)モデレーター:内藤 廣(建築家)]


「世界デザイン会議」の企画発足当初について語る槇 文彦さん
撮影:御厨慎一郎

内藤:「世界デザイン会議」には、建築家たちに加えて、そうそうたるデザイナーが集まりました。わずか3日間の会議でしたが、戦後の日本の建築とデザインのトレンドを大きく左右することになったわけです。時代を左右するようなこんな会議は、この時だけだったのではないかと思います。先ほど別室で槇さんが時代の、何ておっしゃいましたっけ?

槇:時代の精神、ツァイトガイスト。

内藤:ツァイトガイスト、つまり時代精神というものを、みんなが共有していたのではないかということですね。それぞれ違う思いでやっていたのだけれど、実はそれがメタボリズムという言葉でうまく括ることが出来た、ということだったのではないかと思います。

槇:これは、建築家だけではなくて都市計画家、グラフィック・デザイナーやプロダクト・デザイナーも含めた、非常に広範なデザインの会議を戦後、初めて日本でやろうという企画であり、そういう野心と展望を持って始められたものです。我々の先輩になる坂倉準三さん、丹下さん、いろいろな先輩の努力によって初めてできましたし、しかもかなり会期が長く、その間に多くのジャンルの人と交遊を深めることができたと思います。

我々にとって特に印象的だったのは、ルイス・カーンを呼んで、メタボリストたちで話を聞こうじゃないかと集まったことです。その場所に選ばせていただいたのが菊竹さんのスカイハウスで、夜遅くまで非常に熱気のある会話をしました。たまたま僕自身が通訳になりましたが、ルイス・カーンの言っている言葉が、非常に哲学的で、日本語に訳すのに難しかったということを覚えています。川添さんも、確かそこにいらっしゃいましたよね(会場の川添さんに向けて)?


会場にいらした川添 登さん
撮影:御厨慎一郎

川添:面白かったですね。かなり議論にはなりましたよ。カーンの考え方が特殊ですから。同じ形でもフォームとシェイプは違うとかね。カーンのいる前で槇さんが説明しているのですが、僕は違うんじゃないかとか、ずいぶん槇さんを困らせたと思うけど。

内藤:メタボリストとはずいぶん違うルイス・カーンのイメージを皆さんお持ちだと思いますけれども、ここでカーンと深い交流を持ったことは非常に大きかったのではないかと思います。実はこの時期にすでにルイス・カーンはフィラデルフィアの都市的な計画の中でシティ・タワーを提案しています。ですから、都市や交通の問題がカーンの頭の中にあったはずで、メタボリストたちの提案するものと共振するところがあったのではないかと思います。

さて、菊竹さん、そろそろ退席される時間が近づいていますが、その前に展覧会をご覧になった印象を伺いたいんですが、いかがでした?

菊竹:雑然としている、と感じました。

内藤:それはいろんな考え方が、いろんな形で提示されているということですね。

菊竹:そうです。そういう雑然とした考え方を、なにか一つのまとまりをもった形として、どういう風に持っていくのかという問題は、その時代の人たちの"能力"ですね。また、それを包み込む"環境"というものもあると思います。

内藤:ありがとうございました。ここで、菊竹さんがご退席されます。

菊竹:ありがとうございました。われわれが提起した問題はずっと展開し続いていくということを、ぜひ心に留めていただいて、これからも多いにアイデアを提供していただきたいと思います。そのために、今日みなさんにぜひとも言っておきたいことは,いろいろなことを「わかったこと」にしないことです。本当は「わかっていない」んです。わかっていないことをわかったつもりでいる。とくに今の時代,建築家としてそれは許されません。わからないことをわかるように最大限努力する。それでもわかったつもりにならないこと、それが大切です。頑張って下さい。

内藤:最後にルイス・カーンばりの哲学的な問いかけをされて(笑)。でも菊竹さんの言わんとしていることは、昨今いろいろ起きていることと絡んでいることだと思います。
 

<関連リンク>

・シンポジウム第1回「メタボリストが語るメタボリズム」
第1回 1960年前後、日本建築会の風景
第2回 そして迎えた1960年
第3回 それは廃墟のイメージから始まった
第4回 「世界デザイン会議」とメタボリズム
第5回 メタボリズムと時代精神
第6回 今、メタボリズムを考えることの意義
第7回 丹下健三とメタボリズム

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

一分でわかるメタボリズム

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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