2011年12月26日(月)

それは廃墟のイメージから始まった 「メタボリストが語るメタボリズム」(3)

《東京計画1961―Helix計画》、《新宿副都心計画》そして《東京計画1960》と数々のターニングポイントとなるようなプロジェクトが生まれた1960年代。メタボリストが集結した本シンポジウムでは、こうしたプロジェクトの時代背景についても語られました。
[出演者:栄久庵憲司(インダストリアル・デザイナー)、神谷宏治(建築家)、菊竹清訓(建築家)、槇 文彦(建築家)モデレーター:内藤 廣(建築家)]


《東京計画1961―Helix計画》「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」展示風景 森美術館
撮影:渡邉 修

内藤:50年代当時の雰囲気の一端がお分かりいただけたと思いますが(第2回 1960年前後の断面-リンクを参照)、話を60年前後に移したいと思います。すこしご紹介をしますと、菊竹さんは1958年に《海上都市》というビジョンを出されて、「世界デザイン会議」のメタボリズム宣言の中でとても注目されるわけです。黒川紀章さんは、《東京計画1961―Helix計画》で、有機的な形の高層ビルを提案されます。槇さんと大髙さんは《新宿副都心計画》。同じ時期に、とても重要なプロジェクトとして丹下さんの有名な《東京計画1960》が発表されます。この《東京計画1960》には大谷さん、磯崎さん、当然のことですが浅田さんも関わられていました(注)。一方で栄久庵さんは、新しいインダストリアル・デザインやモビリティの最前線をやられていました。


東京大学丹下健三研究室《東京計画1960》 1961年
撮影:川澄明男
画像提供:丹下都市建築設計

槇:この頃、戦争が終わってから15年くらい経っているのですが、何がここで共通していたかというと、やはり「廃墟のイメージ」です。我々は、戦争で都市が全くフラットになってしまった状況を経験しました。その状況の中で我々は何をしたらいいだろうかを自問自答するわけです。例えばヨーロッパには、そこにあったものをいかに復活させるかとか、どういう風にしたら再生できるかという、歴史的なものを前提にした考え方がずっとありました。しかしそれに対して、メタボリズムのいくつかのプロジェクトは、全く違うシステムをその上に、あるいは何も無いところに構築するというものでした。その考え方は当時世界ではあまりなかった。これが一つの特徴ではないかと思います。

内藤:とても大事なご発言だったと思います。廃墟の話が出ましたが、栄久庵さんはご実家が広島の爆心地の近くで、原爆投下の直後に戻られて、そこで体験されたイメージをずっと抱き続けておられましたね。


広島について語る栄久庵憲司さん
撮影:御厨慎一郎

栄久庵:広島では、今まであったものが瞬間に無くなりました。放射能の影響も強くあり、そういう面でまさに廃墟というような状況でした。ですから、その何も無い状況からなんとかして新しいものを生み出すのだ、という気持ちが広島という場所の底に潜んでいたような気がします。瞬間というのは本当に瞬間なんですね。ピカッと光ったとたんに10万人くらい亡くなったんですから。東京の場合は3月の東京大空襲でジワジワ焼けだされて同じくらいの人が亡くなった。そういう点ではずいぶん意味合いが違いますが、ともかく広島は再生へ向けてのモデル都市としてはかけがえのないものだったと思います。

今もよくぞここまでやってきたなという感じがしています。私も当時、「何もないところから何かを生み出す」ということがとても大事だと思っていました。何も無いから何か欲しい、あるべきものが欲しいというような非常に素朴な気持ち。おそらく生き残った人たち、市民のほとんどがそう思っていたのではないかと思います。そして、丹下さんが計画をされた100メートル道路や平和記念館が出来上がるわけです。

内藤:今、会場にいらっしゃる若い方々がまったく知らないことが、実はプロジェクトの背後にあったのだというご指摘ですね。菊竹さんも当時を振り返るときによく、焼け跡の話をされます。廃墟からどういうビジョンを描いたら良いのか、という多くのイメージが紡ぎ出されていくわけですが、その背景には、戦災復興や経済復興の社会的な気運があったわけです。そしてそれが、当時の建築家やデザイナーの大きな力になって、1960年に焦点が合っていくわけです。

注:《東京計画1960》発表当時の正式メンバーは、丹下健三研究室[丹下健三、神谷宏治、磯崎新、渡辺定夫、黒川紀章、康炳基]。
 

<関連リンク>

・シンポジウム第1回「メタボリストが語るメタボリズム」
第1回 1960年前後、日本建築会の風景
第2回 そして迎えた1960年
第3回 それは廃墟のイメージから始まった
第4回 「世界デザイン会議」とメタボリズム
第5回 メタボリズムと時代精神
第6回 今、メタボリズムを考えることの意義
第7回 丹下健三とメタボリズム

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

一分でわかるメタボリズム

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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