2012年6月12日(火)

70年代当時と現在のアラブを比較して~
インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」南條史生編(1)

森美術館で開催する「アラブ・エクスプレス展: アラブ美術の今を知る」(2012年6月16日から10月28日まで)。
本展の企画を担当し、30年以上前から調査のため中東を何度も訪れ、アラブ美術の変遷を見てきた森美術館館長 南條史生に話を訊きました。
 

 -- 70年代から中東に足を運んでいるそうですが、70年代はどのようなものでしたか?

南條:70年代に2回ほど大きな調査で中東に行き、7カ国ぐらいを、約1カ月以上かけて調査をして回りました。
そのころの中東に対しては「異質な世界だ」という感覚は持っていたんですけれど、「危険な場所」という見方じゃないんですね。むしろ、牧歌的な感じが強くて、休日には沢山遺跡めぐりをしましたが、当時の遺跡には柵もないし、監視もいない、本当に野晒しの状態でした。特にペトラ、パルミラ、エフェソスの遺跡などは、素晴らしい物で、世界観、時間の観念を変えざるを得なかった。


ぺトラ遺跡


パルミラ遺跡


アンマンの町並み

社会全体にも欧州の影響が強かったと言えますが、シリアのダマスカスの巨大なスーク(※アラブ世界の伝統的な市場)は、小さなお店が迷路のように広がっていて、中心には巨大なモスクがあり、古代都市の中に迷い込んだような雰囲気を感じました。また、その当時のバグダッドは大変な大都市で、イスラムはあまり強くなく、ナイトクラブではロシア人の娘がベリーダンスを踊っていたり、多くの外国人が来ていました。


ダマスカスのスーク


バクダッドのナイトクラブ

そんな国々で、日本文化をどういうふうに紹介していけばいいかという思いで調査を行いました。結果的には、日本の伊勢の太神楽など、いくつかの伝統芸能を組み合わせて1時間半くらいの演目にし、中東5カ国ほどを回る、約1カ月の公演旅行を実施しました。
ですから、中東に関しては、今でも非常に深い思い入れがあります。



 -- ニュースを見ていると中東が危険だという報道を目にします。現在、実際のところはどうなのでしょうか。

南條:通常の旅行では、全くそういった危険は感じませんね。例えば日本で去年起きた地震、津波、原発事故という一連の事件に関しても、海外では我々が日本で感じているよりも大げさに報道されているように、メディアは過大に報道することがありますね。ですから行ってみれば、大半の人は、昨日と同じように今日も仕事をし、家族と食事し、友達と出かけて日常生活を営んでいるわけです。
ですから私はこの展覧会では、彼らが「普通の日常、当たり前の生活」を生きている現実を伝えたいという思いがありました。


ダマスカスのスーク



 -- 現代美術に関しては70年代と今日でどのように違うのでしょうか。

南條:70年代というと、ほとんど中東には現代美術はないんですね。もちろん伝統工芸はありましたが、工芸だって多くは観光客のお土産品を作っているわけです。また近代絵画という意味では、欧米の近代抽象絵画の傍流のようなアーティストがほとんどでしたから、作家のスタジオ訪問などはしませんでしたね。
一方、今日では現代美術が大変増えてきている。これは非常におもしろい現象です。つまり当時は欧米の影響は受けていたけれど、文化の先端をとりこもうという人はあまりいなかった。しかし最近のアーティストは、簡単に欧米に留学し、アートの状況を見て帰り、「自分たちも現代美術を創っていこう」という意識や気概を持った人が増えているのだと思います。


2013年建設予定のグッゲンハイム美術館の模型


シャルジャ・ビエンナーレ

特に文化的には、あまり注目されていなかった湾岸の国々がインフラを整え始めており、注目しています。アラブ首長国連邦の中の1カ国であるドバイではアートフェアが開催され、シャルジャではビエンナーレ(2年に1回の大型の国際展)が開催されています。また、アブダビは、ルーブル美術館とグッゲンハイム美術館を誘致し、何年後かには、完成するでしょう。さらにカタールのドーハにはマトハフ・アラブ近代美術館が一昨年(2010年)開館しました。
元々はこれらのエリアはあまり都市文化はなかったのですが、いつの間にか他のエリアよりインフラが整ってきたので、今後、アラブの現代美術をリードしていくのではないかと考えています。
 

<関連リンク>

・インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」南條史生編
(1)70年代当時と現在のアラブを比較して~
(2)世界が注目する、アラブの現代美術とその理由~
(3)展覧会開催が、文化外交、相互理解に繋がれば~

・インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」近藤健一編
(1)アラブの世界の中の多様性を日本に紹介したい~
(2)本展のみどころ"黒い噴水"やアラブ・ラウンジについて

・「1分でわかるアラブ」
(1)スクリーンに映るアラブ
(2)男たちの社交場/カフェはじめて物語
(3)羊か鶏かそれが問題だ/料理にホスピタリティー
(4)悠久の遺跡がいっぱい/文明発祥の地メソポタミア
(5)美は幾何学的にあり!?/書道とアラベスク

アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る
2012年6月16日(土)-10月28日(日)

★アラブに行こう!キャンペーン★実施中!<6/15(金)~10/28(日)まで>
「アラブ・エクスプレス展」の開催を記念して、抽選でアブダビ往復航空券(合計4組8名様)などをプレゼント中!
オンラインからお申し込みできます

カテゴリー:01.MAMオピニオン
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。