2012年6月14日(木)

展覧会開催が、文化外交、相互理解に繋がれば~
インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」南條史生編(3)

森美術館で開催する「アラブ・エクスプレス展: アラブ美術の今を知る」(2012年6月16日から10月28日まで)。
前回、アラブ現代美術を取り巻く世界のアートシーンの状況、またアラブの作家の特徴について語った南條。最後に、これからのアラブ現代美術の未来と、今回の「アラブ・エクスプレス展」に込めた想いについて聞きました。
 



 -- アラブの社会を我々が見ていると、最近また、ますます不透明になったのかなという印象をすごく強くするのですけれども、現代美術に関していうと、アラブ現代美術の未来というのは、どういうふうに予想していますか。

南條:実は日本の政治も相当不透明で、これはもう世界中どこも、みんな不透明と言えるのではないでしょうか。そういった状況の中で、アラブの現代美術は、これからむしろ非常に重要になってくるんじゃないかなという気がしますね。というのは彼らが、自由な発言の場を求めているからです。現代美術というのは感情表現というよりは、むしろコンセプトや思想をメッセージとして発信することにつながってくるわけです。彼らは、言いたいことがたくさんあるわけです。ですから現代美術を通して表現したいことが沢山有る。

自分たちの体験なり、歴史を語ろうという意欲が、現代美術をやっていこうという動機と根底でつながっており、そういう点では、非常におもしろいものが出てくる気がします。それは国際的な美術の歴史に、あらたな貢献をするということを意味します。
なおかつ欧米も、さっき言ったように、パリやロンドンでずいぶんアラブ現代美術が紹介され始めていますから、ある程度マーケットもできていて、これからますます発展するだろうというふうに思っています。
中国が現代美術マーケットとして非常に繁栄したわけですけれども、その次のマーケットとしてインドがきました、「その次がアラブなのかな?」という思いで、私は見ていますけれどね。


「チャロー・インディア:インド美術の新時代」2008年


「フォロー・ミー!:新しい世紀の中国現代美術」2005年



 -- 最後に「今、中東の文化を、なぜ取り上げるのか」ということの大きな背景、思想は何でしょうか?

南條:ベルリンの壁が崩壊して、ソビエト連邦が消えてなくなりいくつかの国に分解してしまった時、フランシス・フクヤマという歴史学者が『歴史の終わり』という本を書いたんです。本の中で「『歴史というものが2つの大きな世界観のぶつかり合いである、これを記述したものが歴史である』という定義に立つと、社会主義と資本主義という2つの思想が対立していた時代には歴史は存在していたが、片一方の社会主義が消えた時には、もう歴史はない」というような過激な発言をした。

それから少しして出てきたのがハンティントンの『文明の衝突』でした。この『文明の衝突』は何を言ったかというと、「いやいや、まだ歴史は終わっていない、世界観の違う7つのエリアが世界にはある、それが恐らくぶつかるだろう」と、こういう予言をしたんです。
その後に、9.11が起こったわけですが、「なるほど『宗教というのは、1つの世界観だ』と考えると、宗教同士がぶつかるという問題がまだ残っている」ということになります。
もっとも、その後、アントニオ・ネグリが『帝国』という本で、国境を越えた権力と支配の構造があり、それと戦うには、個々人の集合が大事だというようなことを言っています。フラット化する社会という本では、ネットや、交通網で世界中が同じ土俵の上に乗ってくるだろう、そうなると、個々人のサバイバルゲームが始まる、ということを言っていて、アラブ社会でも、個々人がどのように考え動くかが重要になってくるのではないかと思います。それが「ジャスミン革命」や「アラブの春」の意味したことではないかと。
現状、我々日本人から見ると、歴史も文化もあるのに一番知らない世界は中東地域なんですよね。ヨーロッパも、アメリカも、我々よく知っている、南米はまあヨーロッパ文明の派生形だと考えるとね、アラブが一番知られていないエリアということになります。

しかし、そこにはイスラム教という1つの強い宗教があって、大変多くの人がイスラム教徒です。アジアの西のかなり大きなエリアは、イスラムなんです。それから、過去を振り返ってみると、多くの古代文明は、あの地域から出ているということがありますね。ですから、数千の文化の厚みがある地域であるにも関わらず、なぜ我々はその社会・文化をそんなに知らないのか、これはおかしいんじゃないかという思いも、大変あるんですね。

こういう日本人の一番知らないエリアを、日本人はもうちょっと好奇心を持って知っていくべきじゃないか、それが結果的には文化外交、相互理解につながるんじゃないかと思うわけですよ。「これを現代美術を通してやってみたらどうか」というのが、私の狙いなんですね。

南條:とはいえ一度では済まない、一度だけでは十分ではないでしょう。やはり何度も、何度も重ねていくことによって、お互いの理解が進む。ですから、むしろこの、「日本の展覧会を中東でやる」ということも、これから必要になるんじゃないかと思います。つまりこれからもっと相互の交流が必要なんです。
 

<関連リンク>

・インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」南條史生編
(1)70年代当時と現在のアラブを比較して~
(2)世界が注目する、アラブの現代美術とその理由~
(3)展覧会開催が、文化外交、相互理解に繋がれば~

・インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」近藤健一編
(1)アラブの世界の中の多様性を日本に紹介したい~
(2)本展のみどころ"黒い噴水"やアラブ・ラウンジについて

・「1分でわかるアラブ」
(1)スクリーンに映るアラブ
(2)男たちの社交場/カフェはじめて物語
(3)羊か鶏かそれが問題だ/料理にホスピタリティー
(4)悠久の遺跡がいっぱい/文明発祥の地メソポタミア
(5)美は幾何学的にあり!?/書道とアラベスク

アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る
2012年6月16日(土)-10月28日(日)

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