展覧会

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ

2024.9.25(水)~ 2025.1.19(日)

第1章 私を見捨てないで

ブルジョワは一生を通じて、見捨てられることへの恐怖に苦しみました。「私を見捨てないで」と題した本章で紹介する作品群は、この恐れが、母親との別れにまでさかのぼることを示唆しています。ブルジョワは両義的かつ複雑性に満ちた「母性」というテーマのもと《自然研究》をはじめとする作品を制作する中で、母と子の関係こそが、将来のあらゆる関係の雛形になるという確信に至りました。
また、彼女はかつて「私の彫刻は私の身体であり、私の身体は私の彫刻なのです」と語りました。ブルジョワの作品群には人体の断片のイメージが度々登場しますが、そこには不安定な精神状態や、精神の崩壊の象徴や兆候が表わされています。

ルイーズ・ブルジョワ《自然研究》
ルイーズ・ブルジョワ
《自然研究》
1984年(2001年成型)
ゴム
76.2×48.3×38.1 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY

第2章 地獄から帰ってきたところ

第2章「地獄から帰ってきたところ」では、不安、罪悪感、嫉妬、自殺衝動、殺意と敵意、人と心を通わせることや依存することに対する恐れ、拒絶されることへの不安など、心の内にある様々な葛藤や否定的な感情が作品をとおして語られています。人間の頭部を象った《拒絶》はその一例です。
ブルジョワは、彫刻を創作することを一種のエクソシズム(悪魔払い)、つまり望ましくない感情や手に負えない感情を解き放つ方法だと信じていました。素材に抗って作業することが、攻撃的な感情のはけ口になりました。
また、彼女は精神分析を通じ、自らの作品の多くが父親に対する否定的な感情から生まれたということを理解しました。インスタレーション作品《父の破壊》では、横柄で支配的な父親の像を食すことで復讐を果たすという幻想を表現しています。この独創的な作品は彼女の芸術活動の一つの頂点であり、波打つ抽象的な風景から、より性的に露骨な身体部位の表現まで、1960年代から1970年代前半にかけて彼女がフォルムや素材で探求してきたことの集大成ともいえます。

ルイーズ・ブルジョワ《拒絶》
ルイーズ・ブルジョワ
《拒絶》
2001年
布、鋼、木、鉛
63.5×33×30.5 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
ルイーズ・ブルジョワ《父の破壊》
ルイーズ・ブルジョワ
《父の破壊》
1974年
アーカイバル・ポリウレタン樹脂、木、布、照明
237.8×362.3×248.6 cm
所蔵:グレンストーン美術館(米国メリーランド州ポトマック)(2017年展覧会用複製)
撮影:Ron Amstutz
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY

第3章 青空の修復

ブルジョワは自らを「サバイバー」と考え、自身の芸術が松葉杖や義肢のように機能することで様々な苦難を克服できたと信じていました。本展の最終章「青空の修復」では、彼女の芸術がいかにして、意識と無意識、母性と父性、過去と現在のバランスを整え、心に平穏を取り戻そうとしたのかに迫ります。たとえば、《トピアリーIV》と《雲と洞窟》は回復と再生の力を見事に表現しています。それは、ブルジョワが言うところの「アートは心の健康を保証するもの」にほかなりません。
アーティストとして、自らの無意識の領域に直接アクセスできると信じていたブルジョワは、内なる性的および攻撃的なエネルギーや衝動を、芸術表現として昇華できると確信していました。彫刻をはじめとする作品は、人間の心理状態を象徴する表現であり、混沌とした自らの感情に秩序をもたらそうとする試みです。
また、ブルジョワは自身や家族の衣服など彼女の人生に関わる布を用いることで、過去を永遠なものにしようとしました。縫い合わせる、繋ぎ合わせるという行為は、別れや捨てられることに対する恐れを払いのけることを象徴すると同時にタペストリーの修復工房を営んでいた母親と自分を無意識のうちに重ね合わせていることの証でもあるのです。

ルイーズ・ブルジョワ《トピアリーIV》
ルイーズ・ブルジョワ
《トピアリーIV》
1999年
鋼、布、ビーズ、木
68.6×53.3×43.2 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
ルイーズ・ブルジョワ《雲と洞窟》
ルイーズ・ブルジョワ
《雲と洞窟》
1982-1989年
金属、木
274.3×553.7×182.9 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
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