展覧会

Chim↑Pom展:ハッピースプリング

日本で最もラディカルなアーティスト・コレクティブ、最大の回顧展

2022.2.18(金)~ 5.29(日)

作品リスト

作品リストはこちらよりダウンロードできます。(PDF/241KB)


作品解説


スーパーラット

2006年

スーパーラット
《スーパーラット》
2006年
ビデオ
2分53秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

駆除薬剤に対して抵抗力を増し、巧妙化・強靭化するネズミ、「スーパーラット」。1964年の東京オリンピックを前に行われた都市の「浄化」を機に現れたとされている。その増加が都市部を中心に問題になるさなかの2006年に、Chim↑Pom from Smappa!Groupが制作を開始した作品シリーズ。東京の渋谷や新宿といった繁華街で、作家メンバーがスーパーラットを網で捕獲する。展示は、剥製と、捕獲の様子を記録した映像とで構成される。「都市の野生」として逆境の中でも自らを進化させ、たくましく人間との共存を図り続けるスーパーラットは、社会の周縁でしたたかに生きつつ活動を続けるChim↑Pom from Smappa!Group自身の「肖像」である。また、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、本作には、放射能に汚染されライフスタイルの見直しを迫られた後の日本を生きる人々の姿も重ね合わされている。

ブラック・オブ・デス

2007/2013年

ブラック・オブ・デス
《ブラック・オブ・デス》
2008年
ラムダプリント、ビデオ
写真:81×117.5 cm、ビデオ:9分13秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

2007年、渋谷の繁華街や国会議事堂前など東京の上空に大勢のカラスが呼び集められた。カラスの剥製を手にオートバイや車に乗り、その鳴き声を拡声器で流して回ったのだ。鳴き声はカラスが実際に仲間を呼ぶ際のものを予め収録した音声で、カラスの大群は人間に捕らえられた仲間を救い出そうと追いかける。この様子を映像と写真で記録したのが本作である。
当時の東京では、増加するゴミや残飯、フードロスによって、カラスの増殖と巨大化、知性の進化が問題となっていた。また、「カラスが鳴くと人が死ぬ」という迷信のとおり、日本ではカラスは不吉なものとされることがある。しかし本作では、一般には忌み嫌われているカラスを、人間と同じく都市にたくましく生きる者として明るく軽やかに描き出している。東日本大震災後には、無人となってカラスが増加した福島の避難区域内と、大阪の万博公園、そして再び渋谷を舞台に《ブラック・オブ・デス2013》を制作した。

ビルバーガー

2016/2018年

《ビルバーガー》
2018年
ミクストメディア(にんげんレストランのビルから切り出された3階分のフロアの床、各階の残留物)
400×360×280 cm(左)、186×170×155 cm(右)
素材提供:にんげんレストラン、Smappa! Group、古藤寛也
個人蔵(左)
Courtesy: ANOMALY(東京)
展示風景:「グランドオープン」ANOMALY(東京)2018年
撮影: 森田兼次

2016年、取り壊しが決まっていた東京・新宿の歌舞伎町商店街振興組合ビルを使い、展覧会「また明日も観てくれるかな?」を自主開催した。この時、ビルの4階、3階、2階の床部分を四角く切り抜き、そのまま真下の1階に積み重ねた本作を制作。この巨大彫刻作品は、家具や備品や貼り紙など各階に残されていたものを床と床の間に挟み込みながら、重力により落下して出来たハンバーガーのようにも見える。近現代日本の都市開発手段である「スクラップ&ビルド」が展覧会のテーマだったが、ビルの一部を用いて建築的な作品とした本作もそのテーマを具現化しており、「ファストフード的大量生産・大量消費を、街や都市に重ねて想起させる」と作家は述べる。本展では、その後の2018年、歌舞伎町の別のビルの取り壊しに際して行われたイベント「にんげんレストラン」を機に制作されたシリーズ作品を展示する。

2017-2018年

《道》
2017-2018年
オンサイト・インスタレーション
サイズ可変
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「アジア・アート・ビエンナーレ2017」国立台湾美術館(台中)2017-2018年
撮影:前田ユキ

2017年にChim↑Pom from Smappa!Groupが国立台湾美術館での「アジア・アート・ビエンナーレ 2017」に参加した際、美術館の屋内外に通じる200メートルに及ぶ1本の長い道をアスファルトで作った。この道を公道でも美術館の敷地でもない第三の公共空間として位置づけ、美術館や一般の人々との協議のもと独自の行動規則を作って施行したのみならず、「道を育てる」というモットーで運営も手がけた。例えば、「道」の上では暴力行為は禁止だが、ふつう美術館では禁止されているデモや飲酒はパフォーマンスとして可能。会期中には道の上で誰でも参加可能なブロック・パーティー(企画構成:ベティ・アップル)などを開催し、その使用法を一般にも募集するなど、道を真に開かれたものにしつつ、国立美術館の可能性を最大限に引き出すことを目指した。
本作は、2014年に台湾の立法院を市民が占拠し社会を動かした「ひまわり学生運動」への興味から、その参加者への聞き取り調査を経て制作されている。公的な場所である立法院と同様に、歴史上、意見表明や抗議活動、パフォーマンスなどの「表現」が行われてきた「道」を主題にすることで、本作は「公」「個」「美術」の意味についてもさまざまな問いを投げかける。

酔いどれパンデミック

2019-2020年

「酔いどれパンデミック」
2019-2020年
個人蔵
委託制作:Manchester International Festival and Contact, 2019
企画:Contact Young Curators
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
撮影:Michael Pollard

2019年、イギリスの「マンチェスター・インターナショナル・フェスティバル」に参加した際に行ったプロジェクト。同地のヴィクトリア駅地下には、19世紀のコレラ流行時に感染・罹患して亡くなった人々が埋葬された。そうした歴史を持つ地下の廃墟でオリジナルのビール「A Drop of Pandemic(パンデミックの一滴)」を醸造し、移動型公衆トイレを改装したパブで一般の人々に販売・提供した。これは、コレラ禍の当時、煮沸して生産されるビールは生水よりも安全だとみなされたことに着想したもの。パブのトイレで集めた来場者の尿混じりの汚水を消毒し、セメントを混ぜてブロック状の建材に成形し、マンチェスターの街路や家屋の修復材として提供した。
産業革命によって人口が急増した当時のマンチェスターでは、劣悪な衛生環境のまま都市化が進んだせいでコレラが蔓延し、その対策として上下水道の整備が進んだと言われている。水や空気、細菌は循環しており、本プロジェクトは、都市に顕著に現れるその一面を可視化するものである。また当時、コレラ患者は都市に流入した貧困層や労働者層に多かったため、富裕層は彼らを疫病を蔓延させる不道徳な者とみなし、コレラ患者は差別を受けた。今回のコロナ禍でも、ウイルス感染リスクはエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる労働者層のほうが高く、「夜の街」をはじめとしたコロナに関する差別も横行している。21世紀になっても、都市の闇部や差別の本質は不変なことが分かる。

ゴールド・エクスペリエンス

2012年

《ゴールド・エクスペリエンス》
2012年
ターボリン製バルーン、ミクストメディア
650×800×600 cm
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「Chim↑Pom展」パルコミュージアム(東京)2012年

2012年、東京・渋谷のパルコミュージアムで個展開催の際に発表した、巨大なバルーンの立体作品。鑑賞者は黒いビニールのゴミ袋を模した作品の内部に入り、飛び跳ねたりして楽しく遊ぶことができる。普段はゴミを捨てる側の人間が、この作品では袋の中に入れられたゴミそのものになってしまうという設定である。Chim↑Pom from Smappa!Groupは作品でゴミを主題にすることがしばしばあるが、本作は東京でのゴミ増加の問題をユーモラスに描くものである。

狐狗狸刺青(こっくりさんタトゥー) 

2008年

《狐狗狸刺青(こっくりさんタトゥー)》
2008年
ラムダプリント
83×52 cm
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
《狐狗狸刺青(こっくりさんタトゥー)》
2008年
ラムダプリント
83×52 cm
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

「こっくりさん」という降霊術が1970年代の日本でブームになった。文字が書かれた紙の上にコインを置き、その上に複数人の体験者が指を1本ずつ置く。呪文を唱えると霊によってコインが動くとされ、コインが止まった箇所の文字がお告げと解釈される。この降霊術に想を得て、Chim↑Pom from Smappa!Groupメンバー5人は1本の針をコインに見立ててメンバーの水野俊紀の背中に自動筆記でタトゥーを彫り、映像と写真で記録した。 タトゥーを彫られる肉体的な苦痛と、それが乱雑なタトゥーであるという精神的な苦痛を、水野は同時に味わったに違いない。ゲーム感覚で針を動かす5人の様子と、一生残る傷跡の生々しさとのギャップが衝撃的である。もともと10回行われる予定だった本プロジェクトはその後さらに回数を重ねた。本展に出品されるのは1回目のもので、タトゥー柄として人気のヒンドゥー教の「オーム」がテーマとなっている。

Don’t Follow the Wind

2015年-

「Don’t Follow the Wind」
2015年-
Courtesy: Don’t Follow the Wind Committee
「Don’t Follow the Wind」
2015年-
Courtesy: Don’t Follow the Wind Committee

2015年から現在まで、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射能で汚染された福島県の帰還困難区域内で開催されている国際展である。Chim↑Pom from Smappa!Groupが発案し、自身を含む国内外12組の参加作家による新作が、元住民から提供された数箇所の会場に設置された。本展の一部は「ノン・ビジター・センター」という展示名で世界各地で紹介されてきたが、放射能の除染が進み避難指示が解除されて住民の帰宅が許されるまで、一般の人々は本展を実際に訪れることができない。2015年に東京のワタリウム美術館で開催された展覧会「ノン・ビジター・センター」では、将来、作品鑑賞が可能になる時に使用できる展覧会チケットが販売された。
しかし現段階では、私たちがいつ本展を見ることができるのか不明である。作家によってこれまでに公開された画像や情報を頼りに展覧会を想像するしかない。この展覧会を「想像する」ということは、アクセスが断たれた被災地の風景に思いを馳せることでもある。また、必ずしも保管に適しているとは限らない環境に展示された作品は経年劣化が予想され、私たちが実物を鑑賞できる時、原形を留めていない可能性もある。その時、私たちは作品の元の姿とともに、現地の人々のかつての暮らし、それまでに流れた時間にも思いを巡らせることになるのだろう。

参加アーティスト:アイ・ウェイウェイ(艾未未)、グランギニョル未来(椹木野衣、飴屋法水、赤城修司、山川冬樹)、小泉明郎、タリン・サイモン、竹内公太、竹川宣彰、Chim↑Pom from Smappa!Group、ニコラス・ハーシュ&ホルヘ・オテロ=パイロス、トレヴァー・パグレン、エヴァ&フランコ・マッテス、宮永愛子、アーメット・ユーグ
キュレーター:Don’t Follow the Wind(Chim↑Pom from Smappa!Group[発案]、ジェイソン・ウェイト、窪田研二、エヴァ&フランコ・マッテス)

ヒロシマの空をピカッとさせる

2009年

《ヒロシマの空をピカッとさせる》
2009年
ラムダプリント、ビデオ
写真:66.7×100 cm、ビデオ:5分35秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
撮影:ボンドナカオ

2008年10月21日、Chim↑Pom from Smappa!Groupは広島市の原爆ドーム上空に飛行機雲で原爆の閃光を想起させる「ピカッ」という文字を描いた。作家の意図は、「平和」という現代日本社会の基盤に対して無関心が蔓延していることを漫画的に可視化する、というものであった。しかし、その翌日の中国新聞が「不気味だ」という市民の反応や被爆者団体代表の憤りの声を紹介したことをきっかけに、社会的騒動に発展した。すぐに広島市は被爆者団体に声をかけ、その五団体の代表と面談したChim↑Pom from Smappa!Groupは事前告知の不徹底を謝罪した。開催が予定されていた広島市現代美術館での個展も中止となった。その後もChim↑Pom from Smappa!Groupは被爆者や市民との対話を何度も重ね、ときに共働し、プロジェクトを継続している。2009年には、一連の騒動を検証した『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(無人島プロダクション)を出版し、それと同時に東京・原宿で開催した個展「広島!」で本作を発表。その後もタイトルに「!」をひとつずつ増やしながらプロジェクトを展開していく。2013年には地元市民や美術関係者の協力を得て、広島・旧日本銀行広島支店で個展「広島!!!!!」を、2019年にはニューヨークでも「Threat of Peace(広島!!!!!!)」を開催した。

パビリオン

2013年-

《パビリオン》
2013年-
折り鶴、ガラス、ミクストメディア
サイズ可変
素材提供:広島市(折り鶴)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「広島!!!!!」旧日本銀行広島支店(2013年)
撮影:森田兼次

1945年の広島への原爆投下で被爆した佐々木禎子さんが、自身の身体の回復を祈って12歳で亡くなる直前まで折り続けたという千羽鶴。その後、千羽鶴は平和のシンボルとなり、現在でも広島市には平和を祈願した無数の折り鶴が世界中から送られてくる。人々の念が込められたものだからこそ、当時、市は増え続ける折り鶴の保管に苦慮していた。それを知ったChim↑Pom from Smappa!Groupは広島市から大量の折り鶴を借用し、2013年の旧日本銀行広島支店での個展「広島!!!!!」の際に、膨大な量の折り鶴を高さ7メートルの山状に積み上げて本作を制作。その後、市の指定通りにお焚き上げをした。ピラミッドや古墳をも想起させる本作だが、鑑賞者はこの巨大な山の内部に入って、無数の折り鶴に囲まれるという特異な体験をすることができる。
なお、「パビリオン」とは、作品が展示される場所性や空間性を最大限に活かすことをコンセプトにしたサイト・スペシフィック作品のシリーズ名であり、同名の作品は他にも制作されている。

ノン・バーナブル

2017年

《ノン・バーナブル》
2017年
パフォーマンス、ワークショップ、折り鶴、ミクストメディア
サイズ可変
素材提供:広島市(折り鶴)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「ノン・バーナブル」ダラス・コンテンポラリー(アメリカ)2017年
撮影:Kevin Todora

《パビリオン》と同様に、Chim↑Pom from Smappa!Groupが広島市から大量の折り鶴を借用して制作する、鑑賞者参加型作品。映像の中では、世界各地から届いた折り鶴に書かれたメッセージをエリイが読み上げつつ、それらを淡々と四角い折り紙へと折り戻す作業をしている。それを見た鑑賞者は、展示室内にある机の上に置かれた四角い折り紙を再び折り鶴にすることが求められる。折り直された大量の折り鶴は広島市へ返却される。このようにしてChim↑Pom from Smappa!Groupは、折り鶴の数量を増やさないようにすることで新たな保管場所が必要になるのを避けつつ、行為と物質のリサイクルによって、人々の思いだけを蓄積していくのである。
なお、作品タイトルは、広島市が折り鶴を「燃やしてはいけないもの」として不燃物倉庫に保管していることに由来する。

ウィー・ドント・ノウ・ゴッド

2018年

《ウィー・ドント・ノウ・ゴッド》
2018年
広島の原爆の残り火、ホワイトキューブ
サイズ可変
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「グランドオープン」ANOMALY(東京)2018年
撮影: 森田兼次

広島に投下された原爆の残り火を展示室内に灯し続けるインスタレーション作品。この残り火は「平和の火」と呼ばれている。福岡県の旧星野村(現在の八女市)出身の山本達雄氏が、原爆で亡くなった叔父の形見として、広島の焼け野原から火を持ち帰り、その後も絶やさず燃やし続けたものが起源である。1968年に火は村に引き継がれ、現在まで日本各地で分火・継承されている。Chim↑Pom from Smappa!Groupは《平和の日》をはじめとして、原爆の残り火を用いてさまざまな作品を制作しているが、本作では火そのものを白い壁と組み合せて作品化している。今後、世界中の美術館に分火されていくことが目指されているという。
作品タイトルには、日本に無神論者が多いこと、神も仏もないような原爆の威力や神の領域に踏み込んだと評される原子力、火が神として崇められてきたことなど、さまざまな意が込められている。

不撓不屈

2011年

《不撓不屈》
2011年
坪井直による題字、被災した額
39.7×47.3 cm
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

東日本大震災発生直後に、広島の被爆者団体代表である坪井直氏からChim↑Pom from Smappa!Groupに送られていたFAX用紙を、福島県南相馬市で廃棄されていた泥だらけの額縁に収めた作品。用紙には、「核なき世界」や広島、自身のがんとの闘いへ向けられた坪井氏の座右の銘が、復興と再生への願いとともに墨書されている。広島の「ピカッ」騒動以降、坪井氏との交流のなかで「核」についての当事者意識を深めたChim↑Pom from Smappa!Groupは、福島に関する一連の作品群を制作するにあたり、広島の歴史をもう一度見直す必要があったと話している。核をめぐる2つの大惨事を結ぶ本作は、震災後にChim↑Pom from Smappa!Groupが初めて作った作品である。

LEVEL 7 feat.『明日の神話』

2011年

《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》
2011年
アクリル絵具、紙、塩化ビニール板、ビデオ、ほか
絵画:84×200 cm、ビデオ:6分35秒
所蔵:岡本太郎記念館(東京)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

東日本大震災が発生し、東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こした後の2011年4月30日深夜、渋谷駅の連絡通路内に恒久設置されている岡本太郎の壁画《明日の神話》(1968-1969年)の右下の余白部分の壁に、その原発事故を主題とした絵をゲリラ的に設置した。これは、原子炉の建屋からドクロ型の黒煙が上がる様子を壁画と同じタッチで描いたもの。原水爆が炸裂する悲劇を描いた岡本の壁画の一部として見えるようにすることで、広島と長崎への原爆投下、水爆実験による漁船「第五福竜丸」の被曝といった日本における原子力の悲劇の歴史に、福島の原発事故という新たな1シーンが加わったことを表わす意図があった。本作は常に《明日の神話》とともに存在し、「それを余白から見るために僕たちが必要とするものは、歴史や放射線と同じく、もはや目ではなく想像力」で、「この想像力こそがグラウンドゼロにとっての可能性であり、未来を作る最も根本的な力だ」とChim↑Pom from Smappa!Groupは述べている。

リアル・タイムス

2011年

《リアル・タイムス》
2011年
ハイビジョン・ビデオ・インスタレーション
11分11秒
所蔵:森美術館(東京)
《リアル・タイムス》
2011年
ハイビジョン・ビデオ・インスタレーション
11分11秒
所蔵:森美術館(東京)

2011年、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生した1ヶ月後に、発電所から700メートルほど離れた東京電力の敷地内で撮影した映像作品。Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバーが防護服に身を包み、日の出の名所とされていた展望台へ向かう道中、不気味なほどに人影はなく、地面にはところどころに大きな亀裂や陥没が見られる。展望台に到着すると白旗に赤のスプレーで日の丸を描き、さらにそれを放射能のマークへと変化させ、白煙を上げる原発を背景に、エベレスト登頂や月面着陸の瞬間であるかのように旗を振る様子が映し出される。
当時の日本では原発事故の状況をめぐって混乱が生じていたが、Chim↑Pom from Smappa!Groupは、マスコミでは報道されていない可能性がある現実を自身で確認したいと考え、本作を制作した。作品タイトルには、「リアルタイム」(「まさに今」の意)、チャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』、『ニューヨーク・タイムズ』など新聞の名前に使われる「タイムス」といった言葉が含意され、「今の現実を伝える」という作家の意図が反映されている。

気合い100連発

2011年

《気合い100連発》
2011年
ビデオ
10分30秒
所蔵:森美術館(東京)
《気合い100連発》
2011年
ビデオ
10分30秒
所蔵:森美術館(東京)

Chim↑Pom from Smappa!Groupは2011年の東日本大震災発生後すぐに、震災からの復興や原発事故の早期解決を願って数々のプロジェクトを始動させたが、本作もそのひとつ。2011年5月、メンバーが福島県相馬市で知り合った被災者の若者たちと共同で制作した映像作品である。津波による傷跡が生々しく残る屋外で若者たちと円陣を組み、家を失ったり放射能の恐怖に怯えたりといった苛酷な環境にいる中でも自分たちを鼓舞しようと、100の言葉を順番に叫んだ。「復興がんばるぞ!」「東北がんばろう!」といった励まし、「今年は彼女つくるぞ!」といった個人的な願いなど、さまざまな「気合い」がすべてアドリブで発せられた。絶望的な状況に身を置くことを強いられても未来への希望を持ち続け、言葉を通じてお互いを励まし合うという、人間同士の協働/共闘が描かれている。

ジ・アザ―・サイド(向こう側)

2014-2017年

《USAビジターセンター》(「ジ・アザ―・サイド」プロジェクトより)
2017年
ジークレープリント
66×100 cm
所蔵:札幌宮の森美術館
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
撮影:松田 修

エリイはテレビ番組の撮影でハワイを訪問した際、同行者の1人が米国への入国規制をかけられていたために、自らも米国への渡航が規制されてしまった。この個人的な問題を発端にして、Chim↑Pom from Smappa!Groupは2014年、米国の国境問題をテーマとした作品群の制作を開始した。米国大統領選挙で移民政策が大きな争点となる2016年には、「リベルタ」(Libertad、スペイン語で「自由」の意)と呼ばれる、メキシコ・ティファナにある国境沿いのスラム地域を訪れ、居住する家族の協力を得て国境の壁のすぐ横にDIYでツリー・ハウスを作った。「USA ビジター・センター」と名付けられたこの建物は、米国に隣接しているにもかかわらずその向こう側への入国が叶わない現地の人々のものとして制作され、その窓からは「自由の国」の広大な風景を一望できる。
本作と同時に、メキシコ側の国境沿いのある地点の地中深くに穴を掘り、米国に入国できないエリイが、米国とメキシコの境界にあたる土底に合法的に足跡を残す《ザ・グラウンズ》も制作した。石膏で型取りされたエリイの足跡が暗示しているのは、国境壁が立つ地面の真下には、米国ともメキシコとも言えない領域が存在していることである。「ジ・アザー・サイド(向こう側)」とは、米国との国境沿いに住むメキシコ側の人々が米国を呼ぶときの通称だが、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって生じた帰還困難区域や、世界各国の移民や難民が向かう土地、あらゆる国境や境界線の先など、現存するさまざまな「向こう側」への想いがそこには込められている。

May, 2020, Tokyo

2020年

《May, 2020, Tokyo(へいらっしゃい)―青写真を描く―》
2020年
サイアノタイププリント、ゼラチン、キャンバス、鉄フレーム
175.5×352.3×4.5 cm
所蔵:高橋龍太郎コレクション(東京)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
制作風景:東京、新宿

2020年5月、新型コロナウイルス感染症拡大による、日本の歴史上初めての緊急事態宣言下の東京で制作された平面作品シリーズである。青写真の感光液を塗ったキャンバスを都内各所の大型看板に2週間にわたって設置し、街に降り注ぐ日光や雨、風や影のゆらめきなどの現象をそこに青く焼きつけた。外出の自粛が要請され、賑わいを失った街そのものの姿をサイアノタイプという写真技術を用いて写し出しているのだ。キャンバス上に紙でマスキングをして感光を抑止した部分が、「TOKYO 2020」と「新しい生活様式」という白い文字のスローガンとなって浮かび上がっている。「ステイホーム」など公的なスローガンがいくつも乱発された当時、東京オリンピック・パラリンピックの翌2021年への延期も決定され、しかしその名称は「2020」を含んだままであることも発表された。「青写真」という言葉には「未来予想図」という意味もあるが、祝祭の年として思い描かれてきた2020年が、ウイルス感染症の拡大や大会延期によって損なわれ、先が読めない状況になってしまった現実を、シンプルな言葉を使って表現している。緊急事態宣言発令からわずか1ヶ月ほどの早さで制作された本シリーズは、歴史的な時間を刻印した巨大な記録写真であると同時に、荒々しい筆致によって描かれた絵画のようでもある。

サンキューセレブプロジェクト アイムボカン

2007-2008年

《スピーチ》(「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」より)
2007年
ビデオ
1分53秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

カンボジアの地雷原にて、チャリティーとノブレス・オブリージュ(*)をテーマに地雷爆破と寄付のプロジェクトを行うため、Chim↑Pom from Smappa!Groupは自費でカンボジアを訪れた。当地には、ベトナム戦争やカンボジア内戦により今でも無数の地雷が地中に眠っていて、現在でも犠牲者が出ている。作家は不発弾処理を行う地元住民の協力を得て、エリイの私物や、エリイの身体を模した等身大の石膏像などを地雷とともに爆破し、日本に持ち帰った。帰国後の東京で、いとうせいこう氏とエリイが競売人を務めるオークションを自主開催し、それらの爆破物を作品として販売。売上総額は210万円で、作家の利益すべてをカンボジアに寄付した。 本プロジェクトは、カンボジアでのその活動を記録した映像や爆破物などで構成され、DVDにもまとめられている。先進国と発展途上国との経済格差の問題や、美術と資本主義との密接な関係性について問いかけるものである。

* 身分の高い者はそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。

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