2011年3月10日(木)

アーティストと美術館が語り合った"アートの本質"とは - 「美術館に招かれるようでいて、実は美術館を招く」

第6回目となる今回のアージェント・トークは、3人のアーティストが森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実をゲストとして迎えるユニークな形で、1/31(月)に開催されました。パフォーマンスを中心にニューヨークで活動する荒川医さん(1977年生まれ)、写真や映像、立体を用いたインスタレーションで京都を拠点に活躍する木村友紀さん(1971年生まれ)、コンセプチュアルな作品を発表し、ベルリンで制作を続ける前田岳究さん(1977年生まれ)。3人が美術館側との対話を通して、お互いの関係性やアーティストの自律性について考察を試みました。


作家とキュレーター片岡が、観客と同じ輪の中に座ります

企画の発端は、アーティストにとっての面白い雑誌や展覧会が無くなりつつある日本で、アーティストによる美術の制度についての議論の場を設けたいと思ったこと、と語る3人。会場には椅子が同心円状に並べられ、国内外で活動するアーティストや、アート関係者、アートファンなどさまざまな参加者からの自由な発言が促されました。

アートの本質とそれを取りまくシステムとの関係性が生み出す差異や矛盾は、決して新しい議論ではありません。ともすればアートビジネスの波に飲み込まれ、名声の確立や作品の売買ばかりが、アーティストとしてのいわゆる「成功」として捉えられることもある世界。荒川さん、木村さん、前田さんは、作品の表層だけが流布し、本質が置き去りにされているかのような危機感を感じることがあると言います。美術館やギャラリーを中心としたシステムを前提に活動をするアーティストも多い中、「自律性」を持ってそのシステムと関係を築くことが大切ではないかと語りました。

それに対し、片岡からは美術館の立場を踏まえ、日本やアジアのアートを取り巻く世界の構造やシステム自体がダイナミックに変化していることが指摘されました。現代アートの展覧会を中心に開催する森美術館では、幅広いパブリックを対象に展覧会のメッセージを伝えなければなりません。作品の理解を促す最も有効的な手段を探るため、実際にアーティストと何度も話し合いながら現実的なプランを練り、同時に企画内容とオーディエンス層の分析、作品制作から会期中の警備、監視の手配まで、全てを組み込み予算作成がされます。システムをいかに効果的に機能させるか、あらゆる側面から考察を重ね工夫を試みていることが紹介されました。

観客を積極的に巻きこみながら対話が進められる中、「それでは、自律への具体的な提案は?」、「美術館やそのシステムを言及することは、アーティストとしての自分自身を言及することと同じではないか?」など、3人のアーティストの姿勢や問いに様々な意見や声が飛び交いました。当日の会場との意思疎通に難しさも感じた3人は、「アーティスト自身によるこういった議論は日本ではまだ珍しい、今後の展開にも期待したい」とのこと。今回のトークが美術館というシステムの中で開催されたことは、これからの議論にも一視座を投げかける試みとなったのではないでしょうか。

昨今では、アートそのものにもグローバルで即時的なアクセスが可能になり、その構造や境界線、また価値観もどんどん多層的、多元的になっていっています。今回3人から発信された「アーティストの自律性とは?」という問いは、同様に日々変化を続ける現代とどう関係性を持って生きたいか、という私たち一人一人への問いにも繋がっていくことかもしれません。

このトークは荒川さん、木村さん、前田さんの継続的なアートプロジェクトの一環として、2010年9月に静岡のIZU PHOTO MUSEUMで始まり、今回はその第2回目でした。3月19日には大阪の国立国際美術館での開催を予定しているとのこと。ご興味のある方はどうぞ足をお運びください!

森美術館学芸部アシスタント 小山田洋子
 

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