2012年1月19日(木)

メタボリズムを再解釈して考えられた、建築や都市の新しいシステム「メタボリズムのDNA:社会システム編」


シンポジウム第3回「メタボリズムのDNA:社会システム編」風景
撮影:御厨慎一郎

このシンポジウム「メタボリズムのDNA」は、日本の現代建築を担う新しい世代の建築家たちとこの運動が未来へどのような意味を持つのかを議論することで、メタボリズム運動を再検証し、メタボリストの活動の軌跡を歴史的に俯瞰する展示を補完しようと試みた。

企画とモデレーションは、東北大学教授、五十嵐太郎氏に依頼。2011年10月14日(金)に第3回シンポジウム「メタボリズムのDNA:社会システム編」、10月20日(木)に第4回シンポジウム「メタボリズムのDNA:建築家の役割編」と題して、2回構成で開催し、「社会システム編」には、塚本由晴氏、平田晃久氏、吉村靖孝氏の3名の建築家に出演して頂いた。彼らは、五十嵐氏が審査員を務めた2010年に開催されたヴェネツィア・ビエンナーレ建築展日本館の出展建築家チームを選定するコンペで、各々別のチームに属して競い合いながらも、3チームともメタボリズムを現在読み替えるとどのような新しい視点が出せるかということを提案していた。2010年がメタボリズム宣言から50年目を迎えることから、コンペ案のテーマが共通したのだが、五十嵐氏は、3人3様にメタボリズムを再解釈している差異が興味深く、本シンポジウムへの出演を依頼したという。前半では、彼らがその独自のメタボリズム論を自身のプロジェクトと関連させながら語り、後半は、五十嵐氏のモデレーションで討議が進められた。


モデレーターの五十嵐太郎(東北大学教授)
撮影:御厨慎一郎


塚本由晴(建築家)
撮影:御厨慎一郎

塚本氏は、都市の更新システムから読み解いた東京論を語った。1960年と2011年の日本を比較し、メタボリストが「都市計画」を通して社会構築を目指したという姿勢に触れ、熱い気持ちを覚えながら、いま、我々が、直面している「まちづくり」と称した市民社会やコミュニティを本当に自分たちの手で作れるのかと自問しているという。塚本氏が、その具体的な解のひとつとして提案しているのが、「ヴォイド・メタボリズム」という考え方だ。都市が世代交代、新陳代謝(メタボリズム)を繰り返すことで生まれる都市の隙間=ヴォイドを外部空間、半外部空間、広場として積極的にデザインし、市民の場へと再定義する試みを続けている。


平田晃久(建築家)
撮影:御厨慎一郎

平田氏は、生きものや自然のなかに潜む原理を手がかりに、「生命のような建築」を生みだそうとしている。海藻と卵、たんぱく質の構造など、生きものの世界のあらゆるところに、何かに何かが絡まっている状態を見いだすことができるが、平田氏は、これらの絡まりあう自然形態の現象と、表面が柔突起のようになっていて、そこに人や植物など様々なものが絡まっている都市や建築の類似性を指摘。「建築とは<からまりしろ>をつくることである」と定義する。平田氏が共感するというメタボリズム宣言にある「デザインや技術は人間の生命の外延と考える」という言葉にも通じる考え方だ。


吉村靖孝(建築家)
撮影:御厨慎一郎

吉村氏は、コンテナの建築への転用を軸にした自身のプロジェクトについて語った。規格化を目指したカプセル建築との共通点が感じられるが、メタボリズムは建築の領域だけに留まっていたと指摘。コンテナが規格化されたのは70年代に入ってからだが、いまは、国際的に流通しているこれら規格化されたシステムを使って、建築を構成する時代であると主張する。また、吉村氏が描いた建築図面を上書き可として販売するプロジェクトも紹介。良質な建築が広まるシステム構築を目指す。建築以外の領域に目を向けることを通して、多様な社会をつくることに建築家の立場で貢献しようと取り組んでいる。


シンポジウム第3回「メタボリズムのDNA:社会システム編」風景
撮影:御厨慎一郎

塚本氏は都市の生態を、平田氏は自然の形態を、吉村氏は産業の動向を観察することから、建築や都市の新しいシステムを模索している。その試みは、三者三様だが、メタボリストが、建築による社会システムの構築というビジョンを掲げて精力的に取り組んでいた姿勢については、今も必要だと感じているようだ。吉村氏が自分たちの世代の建築家は「裏紙を使うようなかんじで 白紙にいきなり書くのではなくて、すでに何か書かれたものに書き加えていく」と述べ、戦後、ゼロから出発したメタボリストたちとの違いを語りつつも、先達の継承も示唆していたことが印象的であった。

文:前田尚武(森美術館学芸部 「メタボリズムの未来都市展」プロジェクト・マネージャー)
 

<関連リンク>

・シンポジウム第1回「メタボリストが語るメタボリズム」
第1回 1960年前後、日本建築会の風景
第2回 そして迎えた1960年
第3回 それは廃墟のイメージから始まった
第4回 「世界デザイン会議」とメタボリズム
第5回 メタボリズムと時代精神
第6回 今、メタボリズムを考えることの意義
第7回 丹下健三とメタボリズム

「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」
会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

展示風景「メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」

カテゴリー:03.活動レポート
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