「MAMプロジェクト034:ソニア・ボイス」では、多様なジャンルで作品を制作する英国のアーティスト、ソニア・ボイスのインスタレーション作品《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》(2008-2020年)を紹介します。本展は、ボイスにとって日本初個展となります。
ロンドンにて、ガイアナとバルバドス出身の両親のもとに生まれたボイスは、1980年代初頭に英国のブラック・アーツ・ムーブメントの中心的存在として頭角を現しました。その実践は、映像、写真、ドローイング、サウンド、インスタレーションなど多岐にわたり、ディアスポラ(離散移民)の経験を作品で表現し、他者との協働による制作の可能性を探っています。
本展では、進行中の「ディボーショナル」シリーズの中で最も大規模なバージョンである《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》に焦点を当てます。本シリーズは1999年、ボイスと地域社会の女性の生活向上に努めた黒人女性グループであるリバプール・ブラック・シスターズとの協働をきっかけに始まりました。参加者に初めて購入したレコードを思い出してもらい、またブラック・ブリティッシュの女性歌手の名前を挙げるワークショップを行いました。この体験が、見過ごされがちなブラック・ブリティッシュの女性パフォーマーたちを称え、その背景や歴史を想起させる「生きたアーカイブ」を制作する動機となり、その後20年にわたり、ボイスは一般のひとびとから寄贈されたレコードや雑誌の表紙、記念品などを収集してきました。
2020年までに、これらの活動は、200人の黒人女性ミュージシャンの名前がびっしりと印刷された壁紙で構成される、展示空間全体を使ったインスタレーションへと発展しました。壁の前には、ボイスの広範なアーカイブから、写真や雑誌記事、その他幅広い資料を用いた100枚のプラカードが立てかけられています。
本作は、見過ごされてきた文化を掘り起こし、新たな知識を築くひとつの形として機能しています。日本では1960年代から、クラブやディスコを中心にジャズ、ソウル、R&Bといったブラック・ミュージックやブラック・カルチャーの人気が育まれてきました。ブラック・ブリティッシュの女性の声を集めた重要なアーカイブを日本で初めて紹介する本作は、そうした日本独自の音楽カルチャーとも繋がります。
この作品の参加型の精神は今も続いています。「ディボーショナル」シリーズは、鑑賞者自身がアーカイブの一部になり、作品が提示する物語や名前の証人として、それらを心に刻み、未来へと語り継いでいくことになります。アーカイブは鑑賞者が関わり、思いを巡らせ、その絶え間ない営みに携わることで、鑑賞者の心の中で生き続けていくのです。
《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》
2008-2022年
プラカード100本、壁紙
サイズ可変
Courtesy: Manchester Art Gallery
展示風景:「ソニア・ボイス」展、マンチェスター・アート・ギャラリー(英国、マンチェスター)、2018年
撮影:Mike Pollard
© Sonia Boyce. All rights reserved, DACS & JASPAR 2025 G4025
《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》(部分)
2008-2022年
プラカード100本、壁紙
サイズ可変
Courtesy: Manchester Art Gallery
展示風景:「ソニア・ボイス」展、マンチェスター・アート・ギャラリー(英国、マンチェスター)、2018年
撮影:Mike Pollard
© Sonia Boyce. All rights reserved, DACS & JASPAR 2025 G4025
《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》
2008-2022年
プラカード100本、壁紙
サイズ可変
Courtesy: Manchester Art Gallery
展示風景:「ソニア・ボイス」展、マンチェスター・アート・ギャラリー(英国、マンチェスター)、2018年
撮影:Mike Pollard
© Sonia Boyce. All rights reserved, DACS & JASPAR 2025 G4025
《ディボーショナル・ウォールペーパー・アンド・プラカード》(部分)
2008-2022年
プラカード100本、壁紙
サイズ可変
Courtesy: Manchester Art Gallery
展示風景:「ソニア・ボイス」展、マンチェスター・アート・ギャラリー(英国、マンチェスター)、2018年
撮影:Mike Pollard
© Sonia Boyce. All rights reserved, DACS & JASPAR 2025 G4025



