展覧会

ロン・ミュエク

2026.4.29(水)~ 9.23(水)

作品リスト

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《エンジェル》日本初公開

背中に大きな翼を持つ男性がスツールに腰かけている本作は、ミュエクの初期の代表作です。作家が脚光を浴びるきっかけとなった「センセーション:サーチ・コレクションのヤング・ブリティッシュ・アーティスト」展(1997年)のニューヨーク巡回(ブルックリン美術館、1999-2000年)でも展示されました。作家は18世紀のイタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロによる《ヴィーナスと時間の寓意》(1754-1758年頃)をロンドンのナショナル・ギャラリーで目にし、本作を制作しました。原作の中でヴィーナスと共に描かれるのは「時間」を表す翼を持つ年老いた男性ですが、ミュエクはこの人物像に着想を得ています。本作で表現する男性は人間の体と比較すると小さく、俯いてどこか悲しげに物思いにふけっており、一般的な天使のイメージとは異なっています。

ロン・ミュエク《エンジェル》
ロン・ミュエク
《エンジェル》
1997年
ミクストメディア
110×87×81 cm
個人蔵
画像提供:アンソニー・ドフェイ(ロンドン)

《チキン/マン》日本初公開

本作では下着姿の老人がテーブルの前に座り、一羽の鶏と対峙するという奇妙な光景が表現されています。彼らは無言ですが、緊張した関係が感じられます。前のめりになった老人は手を握りしめ、わずかに口を開き、困惑し警戒心をあらわにしています。一方、鶏は静止したまま鋭い視線を向け、いつでも逃げ出せる準備をしているかのようにも見えます。しかし、一体何が起きているのかは謎に包まれ、私たちの想像力を掻き立てます。作品のスケールは実際のものよりも小さく、それによって鑑賞者を作品世界により深く引き込む効果を生み出しています。

ニュージーランドのクライストチャーチ・アートギャラリーのためにつくられた本作ですが、本展ではその制作に関する同名の映像も展示します。

ロン・ミュエク《チキン/マン》
ロン・ミュエク
《チキン/マン》
2019年
ミクストメディア
86×140×80 cm
所蔵:クライストチャーチ・アートギャラリー/テ・プナ・オ・ワイウェトゥ(ニュージーランド)
Purchased 2019 by Christchurch Art Gallery Foundation with assistance from Catherine and David Boyer, Friends of Christchurch Art Gallery Te Puna o Waiwhetū, Charlotte and Marcel Gray, Ben Gough Family Foundation, Jenny and Andrew Smith, Gabrielle Tasman and Ken Lawn, Christchurch Art Gallery Foundation’s London Club along with 514 other generous individuals and companies.
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《ダーク・プレイス》日本初公開

中年男性の頭部が暗闇の中に浮かび上がっています。ミュエクは照明によって作品の感情的な特質を強調しますが、本作では彫刻を包み込む暗闇が作品の一部となっています。鑑賞者が近づき、暗い入口に入ると、この静寂な闇に包まれ、男性の内面世界に引き込まれていきます。しかし、鑑賞者は入口に留まるしかなく、彫刻の周囲を歩き回ることはできません。そうすることで、作家は私たちに表面のディテールではなく感情の深みを探求するよう誘うのです。

当初、ミュエクは吊り下げられた大作の《マスク》(1997年)と眠っている自身を描いた《マスクII》(2002年)(本展出展作)に続くものとして、本作でも自画像を制作することを構想していました。しかし制作の参考写真を撮るため、ある男性が作家のスタジオに来たとき、ミュエクは彼の顔に浮かぶ苦悩の激しさに深く心を動かされました。その結果、彼を主題とすることに変更して本作を制作したという逸話があります。

ロン・ミュエク《ダーク・プレイス》
ロン・ミュエク
《ダーク・プレイス》
2018年
ミクストメディア
140×90×75 cm
所蔵:ZAMU(アムステルダム)
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《ゴースト》

水着を着た10代の女性が本作の主題です。壁にもたれかかり、両腕を体の横に垂らし、拳を握りしめ、頭を前に傾けて横を向き、鑑賞者の視線を避けています。思春期を迎えて自意識が芽生えた多感な少女は、急速に変化する心身に恥ずかしさと気まずさの両方を感じ、戸惑いを隠せません。表情からは彼女が非常に内気であることが読み取れ、少し怯えているようにすら見えます。身長は約2メートルと等身大の人間よりも大きく、脚は極端に細長く、足も実際の人間のものとは思えないほど大きく造形されており、鑑賞者に違和感を抱かせます。本物の人間なのかどうかとさえ思えてきます。まさに「ゴースト」なのです。

本作は最初に1998年に制作され、その後まもなくロンドンのテートに収蔵されました。本展で展示されるのは2014年に改めて制作されたアーティスト・プルーフで、ミュエクが同じテーマを改めて追求し、新たに型を起こしてゼロから作られました。2つのバージョンが制作された動機は同じですが、ディテールや表情はかなり異なっており、それでいて込められた思いは共通しています。

ロン・ミュエク《ゴースト》
ロン・ミュエク
《ゴースト》
1998/2014年
ミクストメディア
202×65×99 cm
所蔵:ヤゲオ財団コレクション(台湾)
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《イン・ベッド》

巨大な中年女性がベッドに横たわっている本作は、長さ6.5メートル、幅約4メートルの大型作品です。平凡な日常のひとこまですが、彼女が手であごを支え、上方を見つめる表情は、不安や憧れ、物思いなど、さまざまな解釈を誘います。モニュメントのようでもある作品のスケール感に驚かされますが、鑑賞者は目線の高さに位置する女性の顔をまじまじと見つめ、彼女が何を考えているのか思いを巡らすことになります。また、空虚に部屋の向こうを見つめるその視界に私たちが入ることは決してありません。鑑賞者は女性と向き合うことなく作品の細部を凝視することも可能であり、人間同士の関係とは異なる作品と鑑賞者の関係性が生まれるのです。

本作は東京都現代美術館で開催された「カルティエ現代美術財団コレクション展」(2006年)で展示され、作品の画像がその展覧会のキービジュアルに使用されたこともあり、日本でも知られた作品です。

ロン・ミュエク《イン・ベッド》
ロン・ミュエク
《イン・ベッド》
2005年
ミクストメディア
162×650×395 cm
所蔵:カルティエ現代美術財団
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《舟の中の男》

中年男性が、全裸で古びたボートの船首に座っています。オールを持たず、どこかほかの場所から漂流してきたことは明らかですが、なぜ裸なのか、どこに向かっているのかは謎です。私たちが彼の世界に漂い込んだのでしょうか、あるいは彼が私たちの世界に漂い込んできたのでしょうか。船体は男を隔離する境界をつくり出し、彼は私たちと同じ空間にいるのに、私たちにはその航海を止めることも、前方にあるものを見ようと首を伸ばす男性の注意を引くこともできません。彼は不安に駆られていますが、同時に人生の旅がおのずと進んでいくという気配も漂います。

2000~2002年にミュエクは、ロンドンのナショナル・ギャラリーで同館の収蔵品を綿密に調査することができる「アソシエイト・アーティスト」を務めました。この時期のミュエクの作品には「誕生」と「母性」というテーマが色濃く表れており、おそらくそこで出会った巨匠たちの作品の影響によるものでしょう。同館で鑑賞したディエゴ・ベラスケスの絵画《無原罪の御宿り》(1618-1619年)には小さな船が描かれており、ミュエクはそれがキリストを宿す聖母を船に喩えて象徴していることを発見して喜び、作品に取り入れました。

ロン・ミュエク《舟の中の男》
ロン・ミュエク
《舟の中の男》
2002年
ミクストメディア
159×138×425.5 cm
個人蔵
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《マスクⅡ》

本作は、眠りに落ちた作家自身の顔を約4倍の大きさで表現した作品です。作品は台座に載せられており、顔が弛んで見え、わずかに開いた口から息が漏れる音が聞こえてきそうです。しかし、作品の背面は空洞で、この男性が存在しているのか、そうでないのか、という問いを投げかけます。同様に、本当の仮面であれば顔は弛むはずはなく、この顔は人間なのか仮面なのかという疑問も生じます。本作はミュエクの作品の特徴である現実と非現実の絶妙なバランスを見せる、典型的な作品といえるでしょう。タイトルは、本作が文字通りマスク(仮面)である、という事実を単に示しているのか。あるいは、自身の顔立ちの特徴をリアルに捉えた実像のようでありながら、所詮、作家が作り上げた虚構の自己像に過ぎないということを暗に示しているのかもしれません。

ロン・ミュエク《マスクⅡ》
ロン・ミュエク
《マスクⅡ》
2002年
ミクストメディア
77×118×85 cm
個人蔵
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《マス》日本初公開

本作は巨大な頭蓋骨の彫刻100点で構成されており、作家はそれぞれの美術館の展示空間にあわせたインスタレーションを作り上げています。オーストラリアのメルボルンで2017年に発表されて以来、展示会場ごとに異なる形で展開された本作には常に新しい発見がありますが、森美術館での展示も同様に、ここでしか見ることのできないものとなります。鑑賞者は頭蓋骨自体の形状の複雑さを目の当たりにすると同時に、時間をかけて作品の中を歩き回る間に頭蓋骨の圧倒的な存在感について考えさせられるのです。
この頭蓋骨という主題は、「メメント・モリ」(Memento Mori、死を忘れるな)というラテン語起源の思想とともに、西洋美術史の中では繰り返し登場してきました。また、医学や解剖学、考古学なども想起させ、現代のポピュラーカルチャーでもしばしば用いられるなど、普遍的なものです。タイトルの「マス(Mass)」は、山のように積み重なったもの、大量のものや集団、カトリック教会のミサなど、さまざまな意味があります。本作は頭蓋骨それぞれの色合いとディテールが異なっており、個々人の集合体であることを示唆しています。しかし、彼らが誰なのかを知る手がかりはなく、集団として私たちに迫ってくるのです。

人間の頭蓋骨は多義的な物体である。私たちがすぐにそれだと分かる、力強く鮮烈なアイコン。見慣れたものでありながら奇異でもあり、私たちは拒絶しつつも、同時に惹きつけられる。無視することはできず、無意識のうちに私たちは注意を向けてしまうのである。

ーロン・ミュエク

ロン・ミュエク《マス》
ロン・ミュエク
《マス》
2016-2017年
合成ポリマー塗料、ファイバーグラス
サイズ可変
所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《買い物中の女》日本初公開

本作では、ひとりの母親が描かれています。両手は重い買い物袋で塞がり、コートの懐には赤ん坊を抱えています。その姿は美化されることなく、疲れ果てた表情からは、日々の責任の重さで押しつぶされそうになっている彼女の日常が読み取れます。原寸よりも小さく造られ、母親の疲労感や脆さや弱さが強調されています。また、遠くを見つめる母親の視線は赤ん坊とも鑑賞者とも合うことはありません。

本作は、西洋美術史の定番である「聖母子像」の現代的な解釈かもしれません。しかし、実際は、作家がロンドン北部のスタジオ近くの交差点で信号待ちをするオレンジ色の買い物袋を持ち赤ん坊を抱えた母親の姿を目にし、駐車券の裏にスケッチしたことがきっかけで制作されました。ミュエクは大都市の日常の中にある切ない光景を表現しています。

ロン・ミュエク《買い物中の女》
ロン・ミュエク
《買い物中の女》
2013年
ミクストメディア
113×46×30 cm
所蔵:タデウス・ロパック(ロンドン・パリ・ザルツブルク・ミラノ・ソウル)
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《枝を持つ女》日本初公開

裸の女性が、大きくて持ちにくい木の枝の束をなんとか抱えようとしています。しかし、枝は束ねられることを拒んでいるかのようです。どこかおとぎ話や民話を思わせる光景です。髪を振り乱し、体には引っかき傷があり、枝が地面を引きずらないよう体を反らせています。

なぜ裸なのか、どういう目的があるのか。こうした素朴な疑問に答えは与えられていません。ミュエクは、作品においてしばしば奇妙でシュールな状況をつくり出します。物語性にあふれながらも、意図的に意味を曖昧なままにすることで、鑑賞者がそれぞれの物語を紡ぐよう誘うのです。

ロン・ミュエク《枝を持つ女》
ロン・ミュエク
《枝を持つ女》
2009年
ミクストメディア
170×183×120 cm
所蔵:カルティエ現代美術財団
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

《若いカップル》

10代の男女が寄り添って立ち、少年は少女に何かを打ち明けているように見えます。一見すると、どこにでもいそうなティーンエイジャーの初々しいラブ・ストーリーの一場面のようでもあります。しかし、背後で、彼は彼女の手を握っているのではなく手首を無理やりつかんでいるように見えることがわかると、二人の間にどのような力関係が働いているのかと考えさせられ、本作の見え方は一変します。ミュエクのほかの作品と同様に物語は曖昧ですが、不穏な空気が漂います。

ミュエクの二人組の彫刻作品では、鑑賞者はその二人の関係性に第三者として引き込まれます。本作でこのカップルは身長1メートルにも満たない大きさで表現されており、スケールの縮小によってその効果は高められます。大人の鑑賞者であれば、彼らの兄姉や親のような立場になって、この小さなカップルの運命を見守りたい、もしくは少女を助けるために何かしなければ、と思うかもしれません。そして鑑賞者が若ければ、身近な人との関係の複雑さを実感するかもしれません。

ロン・ミュエク《若いカップル》
ロン・ミュエク
《若いカップル》
2013年
ミクストメディア
89×43×23 cm
所蔵:ヤゲオ財団コレクション(台湾)
展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年
撮影:ナム・キヨン
画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館
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